NEW2019年10月23日

大丈夫?リブラってどうなるの?

7月に「リブラって何ですか?」の記事をアップしてから、フェイスブックのデジタル通貨リブラを取り巻く環境が大きく変わりました。大丈夫?本当に導入できるの?経済部の飯田香織デスク、教えてください!

(7月の「リブラって何ですか?」の記事はこちら)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20190716.html

フェイスブックがつくろうとしているリブラについて、よくニュースで見るようになりました。今どういう状況なんですか?

飯田デスク

10月22日、フェイスブックのザッカーバーグCEOが翌日、米議会で予定している証言の冒頭の発言要旨が公表されました。この中でデジタル通貨リブラについて「メッセージを送るのと同じくらい簡単にお金を送りたい」と改めて意気込みを示しました。

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ザッカーバーグCEOの発言要旨

一方で「今、われわれが理想的な担い手でないことは分かっている」とも認めています。これには理由があるんですね。

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最近の動きをまとめますと、今月14日にスイスで「リブラ協会」が立ち上がりました。リブラの普及を目指す組織です。フェイスブックが主導していますが、ほかにウーバー(配車大手)やボーダフォン(通信大手)など合わせて21の企業や団体が「初期メンバー」となって組織を運営します。もともとの構想より7社減ってしまいました。それも、クレジットカード会社のマスターカードやビザ、電子決済大手のペイパルなど、リブラが世界で広く使われるために鍵となるような企業ばかり。

フェイスブックにとっては誤算だったはずですが、「参加に前向きな企業や団体が1500を超え、このうち約180が参加の要件を満たしている」と発表し、この時点ではかなり強気でした。

なぜそんな大事な7社が抜けたのですか?

飯田デスク

例えばビザは脱退を発表した声明で「リブラ協会が規制当局の期待に十分に応えられることなどを見極めて最終的に判断する」とコメント。

ドルやユーロ、円などの預金を裏付けにし、国境を行き来するリブラに対して、各国の政府や中央銀行の反発が予想以上に強く、自社の決済サービスに対する規制も強まることへの懸念が脱退の背景にあると見られています。

リブラについては「マネーロンダリング対策や個人データ保護の対策が不十分」といった批判以外にも、世界の全人口の約3分の1にあたる27億人のユーザーを抱えるフェイスブックの「規模の大きさ」、自国通貨や金融政策が民間企業に代替されてしまうという「国家主権を脅かすリスク」に対する警戒感が広がっています。

アメリカの中央銀行(FRB)のブレイナード理事は先週(10月16日)、リブラを念頭に「効果的な監督が行われなければ信用不安や取り付け騒ぎに発展しかねない」と発言しました。

フランスのルメール経済相も先週(10月17日)、英経済紙に寄稿し「リブラは、金融政策という国家の主権を民間企業に明け渡すよう求めている」と指摘し「経済的にも政治的にも認められない」とばっさり。

同じく10月17日に発表されたG7の報告書でも各国の金融政策や通貨システムの安定を揺るがすリスクになる可能性を指摘して、厳しかったです。

「銀行口座を持たずATMも使えない世界の17億人に簡単にお金を送ったり受け取ったりできる」というリブラの構想は、そんなに悪いことに思えないのですが、予定どおり来年導入ができるんですか?

飯田デスク

フェイスブックはことし6月に構想を打ち上げた時には導入時期を「来年の前半」としていました。

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フェイスブック マーク ザッカーバーグCEO

しかし、ザッカーバーグCEOはこのほど「フェイスブックはアメリカのすべての規制当局から承認が得られるまで、世界のどこにおいてもリブラの発行に関与しない」として、当局の懸念が解消されるまで事実上延期することを明らかにしました。

う~ん、デジタル通貨を発行するというのは並大抵のことではないのですね。

飯田デスク

フェイスブックという、いわば「評判のよくない企業」がこのタイミングで国家や中央銀行に挑戦状を突きつけるような計画を打ち出したことで衝撃が広がったんです。

最大で8700万人の個人データの流出が明らかになったのはわずか1年半ほど前です。そういう企業がデジタル通貨を推進していることで、特に本国のアメリカではあきれられています。フェイスブックを表だって擁護するような仲間が極めて少ないんです。

また、売上の99%を占める広告収入と直結しないことから「何か別の目的があるのではないか」という懐疑的な見方にもつながっています。

世界的なデジタル通貨の導入は遠のきましたか?

飯田デスク

決して遠のいてはいないと思います。むしろ、デジタル通貨は必要だし、そのために今から規制の準備をしなければならないと広く認識されてきているとも言えます。FRBのブレイナード理事は「リブラの潜在的な広がりから議論が緊急性を帯びた」と述べています。

仮にフェイスブックが実現できない場合、もっと信用力のあるIT系の企業や金融機関が取り組もうとしても不思議ではありません。事実、G7の報告書でも冒頭に「今の国境を越える金融決済は遅く、手数料が高く、不透明だ」と送金・決済ビジネスの進化の遅れを認めています。

銀行が要求する国際送金の手数料は平均で7%もかかり、お金が届くまで数日かかることも珍しくありません。リブラに厳しいことを言ってきたイギリス中央銀行のカーニー総裁も先週(10月15日)、現在の国際送金について「今の時代には不十分だ。瞬時に行われるべきだ」と述べました。

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フェイスブックのような民間企業ではなく、中央銀行がデジタル通貨を発行するべきだという意見もあります。フランスのルメール経済相は「中央銀行が独自のデジタル通貨の発行を検討するべきだ」と提案し、中国が研究しているとされる「デジタル人民元」に対抗心を燃やしています。

ザッカーバーグCEOも議会証言の要旨で「中国が数か月以内に同じような構想の実現に向けて急速に動いている」と指摘しています。

フェイスブックはもともと「素早く動いて物事をぶっ壊せ(move fast and break things)」がモットーで、まずはやってみてダメだったらそこから修正するという姿勢です。

リブラについては「動きが速すぎる」と批判されていますが、ザッカーバーグCEOが議会でこうした批判にどう応えるのか注目しています。