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台風 水害 避難

台風で東京の人の動きは ビッグデータ分析で見えたこと

首都圏にも被害を出した2019年の台風19号。NHKは携帯電話の位置情報のビッグデータを活用して、当時の人の動きを詳しく分析しました。JRや私鉄各線が事前に運転を止めた「計画運休」に効果はあったのか、避難所が満員になるケースが相次いだ多摩川沿いではどのくらいの人が避難したのか、検証しました。

2020年10月に放送されたニュースの内容です

目次

    去年、台風19号が接近した際、首都圏ではJRや私鉄各線などで事前に運転を取りやめる「計画運休」が行われました。

    「計画運休」の効果を検証するため、NHKはNTTドコモが携帯電話の基地局から集めた位置情報を使って、台風が接近した際の都内の人の動きを分析しました。

    山手線の内側の地域 人出49%減少

    計画運休が行われた去年10月12日と13日の人出と、翌週の10月19日と20日の人出を比較して分析し、地図上で人出が減った場所を青色で、増えた場所をオレンジ色で示しました。

    その結果、台風が上陸する半日前の12日の朝の段階から都心部で人出が減っていることを示す青色が広がり、山手線の内側の地域では午後3時時点で49%の減少と、ほぼ半減していました。

    主要な駅の人出は

    主要な駅で見ると、いずれも12日の夕方の時点で、
    ▽東京駅周辺で92%の減少、
    ▽渋谷駅周辺で91%の減少、
    ▽新宿駅周辺で88%の減少とほとんど出歩いている人がいなかったとみられます。

    一方で、山手線の外側などではオレンジ色が広がり、人口が多くなっていました。

    専門家「人的被害減らす施策に」

    都市防災が専門の東京大学の廣井悠准教授は「計画運休」の効果で都心部では大幅に人出が減った一方、都心部の外側では外出を控えて自宅にとどまった人によってふだんより多くなったのではないかと分析しています。

    廣井准教授は、台風が接近している際に外出することは危険だとしたうえで「『計画運休』には不要不急の外出を減らす効果があることが改めて証明された。台風などの災害の際に人的被害を減らす施策として位置づけてほしい」と指摘しています。

    災害時に「社会止める仕組み」を

    一方で、去年の台風19号で死亡した人の状況をNHKが調査したところ、全国で少なくとも13人が、出勤途中や職場からの帰宅中など「仕事」に関する外出中に被害にあっています。

    宮城県や福島県などの都市部よりも鉄道が少ない地域が中心で、廣井准教授は、車での移動が中心の地域で社会活動を止めるためには「計画運休」に変わる仕組みが必要だと指摘します。

    廣井准教授は「鉄道に依存しない地方では、計画運休にかわって社会の動きを止める仕組みが必要だ。台風の際には、出勤させないなどのルールをそれぞれの業界全体で考えていく必要がある」と指摘しています。

    「多摩川」沿いの避難は…

    また去年の台風19号の際、東京と神奈川を流れる「多摩川」沿いの自治体では、避難所が満員になるケースが相次ぎました。NHKが携帯電話の位置情報を使って多摩川沿いの人の動きを分析したところ、台風接近時には、人口がおよそ4万人減少していて、多くの人が川から離れた場所に避難した可能性があることがわかりました。

    NHKは、NTTドコモが携帯電話の基地局から集めた位置情報を使って、台風19号が接近した際の多摩川からおよそ1キロの範囲内の人の動きを分析しました。

    台風が上陸・通過した10月12日と13日の人口を翌週の10月19日と20日の人口と比較して、少なくなった場所は青色で、多くなった場所をオレンジ色で地図上に示しました。

    その結果、台風上陸前の12日の朝から人が多くなっているオレンジ色が広がり、午後2時のピーク時には、推計でおよそ6万9000人、率にして8.1%多くなっていました。

    首都圏での計画運休の影響で、外出せずに自宅などで過ごした人が多かったためとみられます。

    台風接近時 約4万人が避難か

    一方で夕方以降は、人が少なくなっている青色の場所が増え、12日午後11時の時点で、推計でおよそ4万人、率にして4.4%少なくなりました。

    避難状況のモニタリングに活用を

    都市防災が専門の東京大学の廣井悠准教授は、人が減少し始めた12日の夕方には、多摩川沿いの地域に相次いで避難勧告などが出されていたことや、帰宅して自宅で過ごすことが多い夜から明け方にかけても、人の少ない状態が続いていることから、多くの人が避難所や親戚の家などに避難したことを示していると分析しています。

    当時、「多摩川」沿いの自治体では、避難所が満員になるケースが相次いでいて、廣井准教授はこうしたデータをリアルタイムで利用できれば、避難状況のモニタリングに使える可能性があるとしています。

    廣井准教授は「将来的に、人がどのくらい高い場所にいるのか、標高のデータも加えることができれば、現状を把握して状況に応じた情報提供が可能になり、被害を減らす効果が期待できる」と指摘しています。


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