原子力政策 大転換 どう変わる?運転延長や次世代炉の開発も

2023年3月13日

東京電力福島第一原子力発電所の事故のあと、政府は原発の運転期間を最長60年までとする法改正を行い、新設や増設については、「想定していない」という見解を示してきました。政府はこうした政策の方向性を大きく転換させました。

その内容は、安全性を最優先に原発を最大限活用することでした。

転換1 運転期間 実質的に延長

国は2021年に示したエネルギー政策の方向性を示すエネルギー基本計画で、「原子力は安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で可能な限り原発の依存度を低減する」と明記しています。

政府はこの計画と新たな方針は矛盾していないとしていますが、世界的な脱炭素に向けた動きや、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻でエネルギー危機が深刻化するなか再稼働を加速するとともに原発の活用を続けるため運転期間の実質的な延長や新設・増設をめぐる方針の変更に踏み込み、原子力政策は原発事故以降で最も大きく転換することになりました。

2023年2月に新たに示された「原発を最大限活用する」ための政策の柱のひとつが、原発事故以降、最長60年と定められた原発の運転期間について、審査などで停止した期間を除くことで、実質的に上限を超えて運転できるように変更することでした。

これに対し原子力規制委員会は、原発の老朽化の年数に応じて安全性を確認するための新しい制度を決定しましたが、いまは想定していない60年を超える原発の安全性の確認については、具体的な内容は定まっておらず、現在、検討が行われています。

転換2 次世代炉 開発や建設

新たな原子力政策のもうひとつの柱が、原発事故のあと、政府が「想定していない」としてきた原発の新設や増設、建て替えを認める見解を示したことです。

具体的には廃炉となった原発の敷地内での建て替えを対象に次世代型の原子炉の開発や建設を進めることが盛り込まれました。

こうした次世代炉として想定されているのは、
▽「革新軽水炉」、
▽「小型軽水炉」、
▽「高速炉」、
▽「高温ガス炉」、
▽「核融合炉」の5種類ですがコストや実用性などの面で課題を抱えていています。

さらに政府は原発の再稼働を加速するため、国が前面に立つ方針も打ち出し、すでに審査が終了し再稼働していない7基について、2023年の夏以降の再稼働を目指すとしています。

この7基は、
▽宮城県にある東北電力の女川原発2号機
▽新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発6号機と7号機
▽茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発
▽福井県にある関西電力の高浜原発1号機と2号機
▽島根県にある中国電力の島根原発2号機です。

原発 安全に関わるトラブルも

国が原発の活用を進める方針を打ち出す一方で、原発の安全などに関わるトラブルなども起きています。

2023年1月には、福井県の高浜原発4号機で、運転中に原子炉内の核分裂の状態を示す中性子の量が急激に減少したという異常を知らせる警報が出て原子炉が自動停止するトラブルが起きました。

関西電力のこれまでの調査で、48本ある制御棒のうち1本が電気的な故障で原子炉内に落下して核分裂反応が部分的に抑えられ、中性子の量が減り警報が出たと見られています。

原子力規制委員会の山中伸介委員長は「原子炉を『止める』という非常に重要な部位のトラブルなので原因究明をするとともに緊張感を持って取り組んでほしい」と指摘し、規制委員会は再発防止策などを求めています。

2021年には、再稼働を目指す新潟県の柏崎刈羽原発で、▽中央制御室への社員による不正入室や▽外部からの侵入を検知する設備の不備といったテロ対策上の問題が相次いで見つかりました。

これを踏まえ、原子力規制委員会は東京電力に柏崎刈羽原発の運転を事実上、禁止する行政処分を出し、改善措置の状況などを調べる追加検査が続けられていて、原子力規制委員会は2023年5月をめどに検査結果をとりまとめることにしています。

ただ、規制委員会の山中委員長は、検査で外部からの侵入を検知する設備に不備があることなどが確認された一方、東京電力が短時間で改善することは難しいという認識を示した上で、5月中に行政処分を解除するのは難しく、検査を続けた場合、一定程度、時間がかかる見込みだという見解を示しています。

避難計画に課題も

このほかに住民の命を守ることにつながる原発事故に備えた避難計画に課題を抱えている地域もあります。

茨城県にある東海第二原発の周辺の自治体では、住民の安全を守るために欠かせない広域の避難計画の策定が進んでいません。

東海第二原発の周辺で事故の際、即時避難や屋内退避が求められている30キロ圏内には、全国で最も多いおよそ94万人が暮らしています。住民の安全を守るため、渋滞を回避するルートや避難先の確保などを定めた広域におよぶ避難計画が求められますが、その土台となる自治体単位で避難計画の策定を終えたのは2022年2月末時点で原発周辺の14の市町村のうち5つにとどまっています。

「核燃料サイクル」は

さらに「核燃料サイクル」をめぐる政策面の課題も積み残されたままです。青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場は完成時期の延期を繰り返していてプルトニウムを含む「MOX燃料」を一般の原発で使う「プルサーマル」も計画通り進んでいません。

また、使用済み核燃料を再処理したあとに出る放射性廃液とガラスを混ぜ合わせて作る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分地の選定も先行きは見えない状態で、政府は、新たな原発政策の方針の中で、こうした課題の解決に向けた取り組みも強化するとしています。

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