政府の停止要請から10年 浜岡原発をどう考える

東京電力・福島第一原子力発電所の事故から2か月後の2011年5月、当時の政府は、静岡県御前崎市にある浜岡原子力発電所のすべての原子炉停止を中部電力に要請しました。それから10年、浜岡原発は原子炉を停止したままです。今後、地元・静岡県内の自治体は、浜岡原発の再稼働にどう向き合うのか。NHKが静岡県内のすべての自治体トップを対象に行ったアンケートの結果の全文を掲載します。
(静岡局 記者 三浦佑一 井ノ口尚生)

浜岡原発の再稼働をどう考える 静岡県内 全自治体トップ NHKアンケート
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2011年5月 政府が停止要請

2011年5月。東京電力・福島第一原子力発電所の事故から2か月後、当時の政府は、静岡県御前崎市にある浜岡原子力発電所のすべての原子炉停止を中部電力に要請しました。

当時の菅直人総理大臣は、記者会見で「30年以内にマグニチュード8程度が想定される東海地震が発生する可能性は87%と、極めて切迫している」と述べ、浜岡原発が大地震の震源域にあることを重くみた特別なケースだと説明しました。

要請を受けた中部電力は、定期検査で停止中だった3号機に加え、運転していた4号機と5号機の停止を決断。

全国各地の原発も安全対策のため順次運転を停止しました。

その後、新しい規制基準に合格した各地の原発では、再稼働が進んでいますが、浜岡原発は、10年間、すべての原子炉を停止したままです。

浜岡原発の安全対策 国による審査は長期化

中部電力はこの10年「福島第一原発のような事故を起こさない」と、安全対策を積み重ねてきたとしています。

再稼働を目指して、高さ22m・総延長1.6kmの防波壁など、総額4000億円の安全対策の工事を進めてきました。

しかし、国の原子力規制委員会の審査は長期化しています。

浜岡原発は巨大地震の震源域の真上に位置する上に、5号機の地下には地震の波を増幅する柔らかい地層があると報告されていて、安全性を評価する前提となる地震の揺れや津波の高さの想定が定まらずにいるのです。(2021年6月現在)

再稼働の是非 静岡県内の自治体トップは

静岡県内では、停止直後こそ安全対策や再稼働の是非を問う住民投票の実施などが県や市町の議会で盛んに議論されましたが、今ではそうした話題がのぼること自体が乏しくなっています。

静岡県と静岡県内の35市町のトップたちは浜岡原発のこの10年をどう振り返り、これからどう向き合うのか。

私たちは考えをただすためにアンケートを行いました。

その結果、原子力規制委員会による安全性の審査が終わった後の再稼働の是非について、6つの市と町が「審査に合格しても再稼働を認めない」と回答したほか、28の市と町が「判断できない」と答えたか、無回答でした。

その理由として、地元としての事故対策の課題がクリアされていないことを指摘する意見もありました。

また、大地震と原発事故の複合災害で想定される避難者は、県民の4分の1にあたる93万人。

福島以上の規模とされる避難者が、遠いところで首都圏や北陸まで避難することを想定した静岡県の避難計画については、「妥当」という回答と「不十分」という回答がそれぞれ8つの市と町からあり、評価が分かれました。

課題として、原発がある御前崎市は、避難経路での燃料や渋滞、要配慮者の避難方法の検討などをあげました。

地域経済は? 避難計画は? 各自治体はどう向き合う

一方、地元住民は、この10年、生活を左右する存在として浜岡原発と向き合い続けています。

長年、原発作業員を受け入れてきた地元の宿泊業者は、停止の影響で作業員が大幅に減り周囲の同業者が次々と廃業していく中で、学生の部活動の合宿を受け入れるなど、新たな客層をつかむことで仕事を維持できないかと模索しています。

また10km離れた所にある100人以上の高齢者や障害者が暮らす福祉施設の職員は「原発が停止していても、そこに核燃料があるかぎり不安は絶えない」と話します。いざという時は富山県までの避難を想定する県の避難計画の実効性にも疑問を感じています。

政府が名指しで危険性を指摘するという特殊な経緯で停止した浜岡原発の10年間を、地元はどう振り返り、今後の議論に向き合おうとしているのか。

静岡県内自治体トップたちの回答を全文、掲載します。

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