原発老朽化対策の新制度 1人が反対 多数決で決定 原子力規制委

2023年2月14日

原子力規制委員会は13日、原子力発電所の運転期間を実質的に延長する政府の方針を受けて、老朽化に対応するための新しい制度の採決を行いましたが、委員の1人が反対して全会一致とはならず、異例の多数決で決定しました。

この制度は、今月8日の会合で決定がはかられましたが、地震や津波などの審査を担当する石渡明委員が反対し、先送りされていました。

13日、臨時の会合を開き、制度と制度の内容を反映した原子炉等規制法の改正案について改めて議論しました。

政府は、原則40年最長60年という運転期間の上限は維持しつつ、規制委員会による審査などで停止した期間を除外し、その分を追加的に延長できるようにする方針を示しています。

これについて石渡委員は、審査を厳格に行うほど運転期間が延びるような案だとしたうえで「電力会社の責任で不備があって審査を中断するなどした場合でも、その分あとで運転期間を延ばしてよいというのは非常におかしいと思う」と問題視しました。

一方、山中伸介委員長は「個々の原発で設備の劣化の度合いは変わるので、原発の寿命は科学的に一律に定まるものではなく、規制委員会として意見を言う立場にない」と述べました。

そのうえで、新たな制度では運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに機器や設備の劣化状況を確認して管理計画を策定し、規制委員会の認可を受けるとしていることを踏まえ、定期的に安全性を確認し、問題があれば延長を認めないという考えを示しました。

議論が平行線をたどる中、採決が行われましたが、委員5人のうち4人が賛成したのに対し、石渡委員は「科学的・技術的な新しい知見に基づくものではなく、安全性を高める方向での変更とは言えない」などと述べて再び反対し、制度は多数決で決定され、法案も了承されました。

規制委員会が重要な案件の内容について賛否が分かれたまま多数決で決定するのは異例です。

法案は今の国会に提出される予定で、今後の議論が注目されます。

原子力規制委 山中委員長「食い違ってしまい残念」

原子力規制委員会の山中委員長は会合の後の記者会見で、今回、多数決での採決となったことについて「運転期間の根本に関する考えが石渡委員とほかの委員と違うところで多数決に踏み切らざるを得なかった。運転期間は政策判断で考えることで、規制委員会として意見を申し述べる立場ではないというところで食い違ってしまったのが残念だ」と述べました。

また、運転期間の延長は安全性を高める変更ではないと指摘されたことについて「高経年化に適したルールを作るのがわれわれの任務であり、運転期間の制限は安全規制ではないと思っている。ある時にきちんと基準を満たしているかどうかを確認して満たしていれば運転を許可するし、満たしていなければ許可しないというところに尽きると思う」と述べ、新たな制度への理解を求めました。

一方で、一部の委員から議論の進め方についてほかの省庁との関係で締め切りを作られせかされたという意見が出たことについて「少なくとも4か月間をかけて議論してきたが、法案を提出しなければならないという期限があったのは事実で、そこはやむをえないところだと思う。これから丁寧に議論して具体的なルール作りをしていきたいと思う」と述べました。

松野官房長官 “規制委の決定を尊重したい”

松野官房長官は、14日の記者会見で「1人の委員が反対したものの、独立した原子力規制委員会として議論がなされたうえで、合議制のもと、多数決で決定されたと承知しており、決定を尊重したい」と述べました。

そのうえで、脱炭素社会の実現などに向けて、原発の最大限の活用を図る政府方針について「説明会などで直接、国民の声に耳を傾けるとともに、国会での議論など、あらゆる機会を通じて繰り返し丁寧に説明していきたい」と述べました。

西村経産相 “関連法案 通常国会で提出方針変わらず”

西村経済産業大臣は、14日の閣議のあとの記者会見で、「高い独立性を有する原子力規制委員会の議論や決定についてコメントすることは控えたいが、事実関係だけで見ると過去に何度か多数決を行った例はある」と述べました。

そのうえで、「独立した原子力規制委員会で安全性が確認されなければ原発は運転できないという大前提のもとで、関係法令の国会提出を目指していきたい」として、実質的に運転期間の上限を超えて原発を運転できるようにする法案を今の通常国会で提出する方針に変わりはないとする考えを重ねて示しました。

会合で交わされた議論の詳細は

今回の法律の改正によって、現在、原則40年、最長60年とされている原発の運転期間に関する定めは、これまでの原子炉等規制法から原発を推進する経済産業省が所管する法令に移される見通しで、この点について議論されました。

新しい制度の決定に反対した石渡委員は「科学的・技術的な新しい知見に基づいた法律の変更ではなく、安全側への改変とは言えない」と述べ、原子炉等規制法から運転期間の規定をなくすのは安全性を高める変更ではないと指摘しました。

これに対し、山中委員長は「個々の原発で設備の劣化度合いは変わるので、科学的に一義的に原発の寿命が定まるものではない」と述べたうえで、2020年に規制委員会がまとめた「原発の運転をどのくらいの期間認めるかは政策判断であり、規制委員会として意見を述べる立場にない」とする見解を改めて説明しました。

この見解について、石渡委員は、当時、十分な議論を経て決定されたものではないという考えを示しました。

もう一つの論点は、政府が、最長60年という運転期間の上限は維持しつつ、規制委員会による審査などで停止した期間を除外し、その分を追加的に延長できるようにする方針を示していることについてです。

石渡委員はこれについて、審査に時間をかけるほど運転期間が延びるような案だとしたうえで「電力会社の責任で不備があって審査を中断するなどした場合でも、その分あとで運転期間を延ばしてよいというのは非常におかしいと思う。審査をしている人間からすると耐えられない」と問題視しました。

これに対し山中委員長は、新たな制度では運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに機器や設備の劣化状況を確認して管理計画を策定し、規制委員会の認可を受けるとしていることを踏まえ「運転期間に制限をかけるのではなく、ある期日が来た時に基準を満たしているかどうか安全規制をするのがわれわれの任務だ。審査期間を故意に延ばすような事業者が出た場合は、審査の中断や停止の措置も厳正に対処すべきだ」と述べました。

また、13日の会合では、杉山智之委員から今の国会で法案を審議できるようにするためのスケジュールをもとに議論してきたことについて「外から決められた締め切りを守らなければならないという感じで、せかされて議論してきた。われわれは独立した機関であり、じっくり議論すべきだった。他の省庁との関係はあるが、外のペースに巻き込まれてはいけない」といった指摘が出されました。

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