原発事故10年 事故はなぜ深刻化したのか(2)情報の共有は

2021年3月

東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年。事故を深刻化させた要因のひとつに、情報の共有や判断が的確に行われなかったことが指摘されています。

判断の集中、現地の混乱

1号機から3号機までの原子炉が相次いでメルトダウンする中、現地の緊急時対策本部にいた吉田昌郎所長は、バッテリーやトランシーバーなど機材の調達から、原子炉の冷却に関わる重要な判断に至るまで、あらゆる判断が求められていました。

そして、現場は官邸の意向を受け、指示や問い合わせが寄せられるケースもたびたびみられました。

1号機が水素爆発したあとの3月12日、1号機の原子炉を冷やすために海水を注入しましたが、吉田所長は、遠く離れた東京・内幸町の東京電力本店から「今、官邸で検討中だから海水注入を待ってほしい」と報告を受けました。

その後も本店などは、官邸で結論が出ていない以上、海水注入を継続するのは難しいと考えていましたが、吉田所長は中断の危険性を懸念して、自分の責任で継続を判断した際、テレビ会議のマイクに聞こえない小声で、担当者に対して「これから海水注入中断を指示するが、絶対に注水をやめるな」などと伝える場面もありました。

そして、吉田所長は、室内全体に響き渡る声で中断の指示をしていました。

政府の事故調査・検証委員会の報告書では、▽本店や吉田所長が官邸からの助言を指示と受け止めるなどして、具体的な措置に関する決定に影響を及ぼすこともあったとしたほか、▽当時の総理大臣である菅直人氏が海水注入に疑問を呈しただけで安易に中止させようとした東京電力幹部の姿勢の問題、そして▽官邸が当初から陣頭指揮をとるような形で現場の対応に介入することは適切でないと指摘しています。

東京電力の事故調査報告書でも、本店が吉田所長の判断を超えて外部の意見を優先し、現場を混乱させたとしています。

また、当時のテレビ会議では吉田所長が「もう、いろいろ聞かないでください。ディスターブ(邪魔)しないでください」とか、「なに言ってるかわからないんだよ。ここでいきなり言うからさ、話、混乱するんだよ、いま重要な会議なんだからさ、調整したやつで言ってくれよ」などと発言した記録が残っています。

事故が進展していく中で、膨大な情報が免震棟の緊急時対策本部に集中し、吉田所長が多くの判断を迫られる形になっていました。

埋もれていく重要情報

こうした中で、重要な情報が埋もれるケースがありました。

1号機の非常用の冷却装置、通称「イソコン」の作動状況の誤認もその1つとされています。

写真は2011年9月に撮影

1号機の中央制御室では、11日午後3時半過ぎの津波による電源喪失の直前までイソコンの起動と停止を繰り返していましたが、2015年に東京電力が行った聴き取り調査で、▽運転員の1人は、電源を喪失する直前に自分がイソコンを止めたと話したほか、▽別の運転員は、イソコンは当初から動いていないと認識していたと証言したということです。

運転員のトップの当直長は、イソコンが止まった状態で全電源を喪失したという報告を受けた記憶はないと証言していて、東京電力は、電源喪失という大混乱のなかで重要な情報が共有できなかった可能性があるとしています。

政府の事故調査・検証委員会の中間報告

また、政府の事故調査・検証委員会の調査では、津波によって電源を喪失したあとの11日午後6時半前に、現場がイソコンを作動させたものの、故障を心配して停止させた際、当直長が対策本部に対し、「イソコンを起動させたところ、蒸気の発生量が少量だったため、タンクの水量が十分でない可能性があり、イソコンは機能していないのではないか」などとし、作動状態に関する問題点を固定電話で報告したとしています。

一方で、対策本部の担当者は蒸気やタンクについての報告は受けたものの、「当直がイソコンを停止していた、との認識はなかった」と話していたということです。

政府の事故調査・検証委員会の報告書では、吉田所長が「これまで考えたことのなかった事態に遭遇し、次から次に入ってくる情報に追われ、重要情報を総合的に判断する余裕がなくなっていた」と話しています。

そして、報告書では、現実に対応した関係者の熱意・努力に欠けるところがあったということではないとした上で、対策本部や本店は重要な情報を正しく把握・評価できず、適切な判断ができなかったとし、訓練や教育が極めて重要であることを示しているとしています。

求められる継続的な改善

東京電力は、事故時の情報共有と判断をどう改善しようとしているのか。

柏崎刈羽原発

東京電力が再稼働を目指す新潟県にある柏崎刈羽原発では、事故対応の決定権を現場に集約するとしています。

また、東京・内幸町の本社は現場とのやりとりをリアルタイムで把握したうえで、原発への後方支援に徹し、本社から問い合わせることを極力少なくするとしています。

現場では事故対応の担当や資材調達の担当、広報や自治体対応の担当など、役割ごとにグループをまとめ、それぞれでトップの権限を明確にして解決できるものは判断を委ねることにしました。

そして、所長と直接やりとりする人数を絞り、重要な判断に必要となる情報だけを伝えることにしています。

こうした体制がどのような過酷な事態にも対応できるよう、訓練を繰り返し、改善し続けることが東京電力に強く求められています。

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