まるわかりノーベル賞2018

まるわかりノーベル賞2018

ノーベル物理学賞に注目!

「世界をつくる極小の“つぶつぶ” 量子」

先生役:科学技術振興機構 嶋田義皓さん

嶋田:こんにちは。

キズナアイこんにちは~。よろしくお願いします。

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嶋田:アイちゃん、りょうしって言葉、聞いたことありますか。

キズナアイりょうし~?ありますよ。お魚、よっこいしょーってやつですね。

嶋田:そうそうそれもりょうし(漁師)なんですけれど、きょうお話しするのは、こっちの量子なんです。

キズナアイあ、そっちですね。聞いたことありますよ。なんたって私、スーパーAIですから~。

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嶋田:ですよね。量子って言うのは実は、小さいつぶつぶと波の世界。目には見えない世界なんですけれど、その性質をうまく使って、私たちの暮らしを豊かにしたり、例えば、スマホ、これも量子技術のかたまりなんですね。インターネット、コンピューター、AIも実はこの量子技術のおかげなんです。

キズナアイえ~私も。

嶋田:スマホをばらばらに分解してみると量子が潜んでいるのがよくわかります。スマホの中を拡大してみると、例えばチップやメモリ、電池が入ってます。それをどんどん拡大して見ていくと、何か、街みたいな構造が見えたりします。

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キズナアイほんとですね~。

嶋田:はい。これをどんどん、どんどん、小さい世界をどんどん拡大して見ていって、ナノメートルという世界に行ってみたいと思います。

キズナアイはいっ。

嶋田:はい、アイちゃん。

キズナアイナノメートルって何メートルですか?

嶋田:ナノっていうのは10億分の1のことを言います。

キズナアイ10億分の1。

嶋田:はい。髪の毛の太さの大体1万分の1ぐらいの大きさがナノメートル。

キズナアイナノメートル。

嶋田:この粒々の世界は、ナノメートルの定規ではかったときに一番よくわかるようになっています。

キズナアイすごい。それって、こう顕微鏡とかで拡大、拡大、拡大ってしたら、人間の皆さんの目でも見えるんですかー。

嶋田:そうですね。これは、まさしくその顕微鏡でナノの世界を写し取った写真で、確かに粒々でできています。

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キズナアイすごーいですね~。

嶋田:はい。これがパソコンやスマホの中で、電子だったり原子というのが、まあ量子として動いていることで、ゲームができたり、AIが動いたり、音楽が聞けたり、こういうことをしているんですね。

キズナアイ量子ってすごいっ!

嶋田:それで、この量子というのは、実はそういう名前の粒々の粒子がいるわけじゃないんですね。

キズナアイおっ、ふんふん。

嶋田:「果物」って名前の果物はないですよね。

キズナアイあ、ないでーす。

嶋田:ミカンもあればリンゴもあって、それら全部を、何ていうんですかね、種類の総称を「果物」って言うんですけれども、この「量子」というのも総称なんです。

キズナアイあ、わかった。あのHOとか。

嶋田:そうですね。

キズナアイおっ、やったー!

嶋田:Oも量子的に振る舞うことができるので、量子にカウントすることができるかもしれません。

キズナアイおおーっ。

嶋田:それから、HOをつくってるようなHだったりOだったりの粒々も量子。これは原子ですけれども、原子は量子の一つです。

キズナアイああーっ。

嶋田:それから、光は波だと思ってる人が多いですけれど、小さい小さい世界では、実は粒々でカウントすることができて、これも量子なんですね。こういったように、この地球上にあるもの全ては、実はこういう量子という種類で呼ばれる粒々でできてるんですね。

キズナアイじゃ、私も粒々で、量子でできてるってことですか。

嶋田:うーん、全部がその量子でっていうわけではないけれども、量子の技術の恩恵はたくさん受けています。この量子をうまく使う研究や技術がないと、パソコンも動かない、インターネットもない、それからこんな液晶モニターもない。だから、そういう意味では、アイちゃんは正真正銘100%量子技術の生まれなんです。

キズナアイなんとーっ。量子技術がないと、私の存在もあやういし、何よりもこうみんなに会えないってことじゃないですか。

嶋田:そうなんです。なので、もうこの量子っていうのは遠い世界のことじゃなくて、私たちの身近なところにたくさんあることなんですね。

キズナアイああーっ。

嶋田:そして、この量子という技術を生かしてコンピューターをつくるという研究が進められています。これが量子コンピューターという装置なんですけれど、聞いたことありますか。

キズナアイうんうん。あっ、ありますー。もう実際にも使われてるんですか。まだなんですかね。

嶋田:そうですね、これは、実は研究開発の途中で、IBMの研究所に置いてあるんですが、インターネットから誰でも無料に使うことができて…

キズナアイええーっ。

嶋田:自分が書いた量子プログラムをこちらの量子コンピューターで計算して、簡単な計算なんですけれども、実際にこのコンピューターを動かすことができます。

キズナアイすごーいっ!

嶋田:すごいですよね。これ、アメリカの研究所にあるんですけれども、大きさが大体3メートルくらいあります。

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キズナアイ1個で3メートルですか。

嶋田:そうですね、1個、これが3メートルぐらいです。

キズナアイすごーい。

嶋田:ただ、これ、実はコンピューターといっても、ほとんどは冷凍機なんですね。

キズナアイ冷凍機。あっ、熱くならないように冷やすんですよねー。

嶋田:そうなんです。

キズナアイヤッター!

嶋田:そう。実は、量子というのはとても冷やしてあげて、周りを静かーな環境にしてあげないと、その量子の性質っていうのを表には見せてくれないんですね。

キズナアイへえーっ。

嶋田:なので見えている部分は全部冷凍機です。冷凍機でどのぐらいまで冷やすかというと、マイナス273度まで冷やさないといけません。

キズナアイえっ、こうカチカチになって逆に動いてくれないなんてことにはならないんですか。

嶋田:量子のじゃまになるものを動かなくします。周りを静かにするっていうのが大事なのですね。

キズナアイ静かに。

嶋田:はい。この宇宙の平均の温度っていうのは、大体マイナス270度と言われています。

キズナアイええ~っ。

嶋田:だから、宇宙よりも実は冷えてる、宇宙一冷えてる場所が、この量子コンピューターの心臓部ということなんですね。

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キズナアイほう~っ。触れないですね。

嶋田:触れないですね。

キズナアイカチンコチン。

嶋田:で、実際に、写真で中身を見てみたいと思います。

キズナアイはいっ。

嶋田:先ほどの外側の大きな筒をあけると、こういうふうに、まあちょっとシャンデリアみたいな感じですね、こんなふうになっていて、この心臓部、ここら辺が、実はチップが置いてあるんですけど、ここがマイナス273度に冷える場所です。

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キズナアイすごいきれいですねー。

嶋田:そうですよね。ちょっと美術館にありそうな感じですよね。で、このチップはいろいろなところで開発されていて、IBMという会社だったり、グーグルだったり、ベンチャー会社でも研究がされていて、いろいろな形をしています。これらは全部量子コンピューターのチップで計算を行うために開発されています。一つの例ですけれど、実は、日本で量子テレポーテーションという現象を利用した量子コンピューターも開発されています。

キズナアイテレポーテーションですか?

嶋田:はい。

キズナアイじゃ、瞬間移動できちゃうってことですか。

嶋田:て、思いますよね。

キズナアイ思います。

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嶋田:ですけど、このテレポーテーションは、実は物をテレポーテーションするんではなくて、情報ですね、メールとか計算式とか、そういう情報をテレポーテーションする。それを「量子テレポーテーション」と呼んでいるんです。

これちょっと大事なので、ちょっとだけ仕掛けを説明したいと思います。

まず、ここに送りたい量子メールみたいのをつくってみます。量子で書いてあるメールなんですね。このメールを宇宙ステーションにいる誰かに送りたいと思ったとします。そうすると、量子はすぐ壊れてしまうので、直接送ることは難しいです。で、どうするかというと、量子メールを一旦近くのお家に送ります。で、ここからが重要なんですけれど、ここの家と宇宙ステーションの間に、実は秘密の仕掛けをしておきます。双子の光をつくっておいて、双子のAとBという光があるんですけれども、Aをお家に、Bを宇宙ステーションに置くことにします。こうすることで準備が全部整いました。

キズナアイうん?

嶋田:この後どうするかというと、まず、この先ほど送ったAという光子と送りたい量子のメールを一緒によく観察します。そして、その観察結果を宇宙ステーションに送信します。この観察結果の送信は普通の無線で送信します。
さあ、これで実は不思議なことが起こって、この観測した結果をもとにして宇宙ステーションでBをよく観察すると、実は宇宙ステーションで先ほどの量子メールを受信することがきます。で、普通ですとメールはこっち家にも残りますよね。

キズナアイはい。

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嶋田:送信者にメールは残るんですけれども、量子の世界は、実はコピペができないという物理で決まった法則があって…

キズナアイなんとっ!

嶋田:コピペができません。で、家にあった送ったはずの手紙というのは、家で観測をしたときになくなってしまいます。

キズナアイありゃーっ。

嶋田:ですが、宇宙ステーションで同じものが再生されるので、外から見ると、家にメールが入ってって、宇宙ステーションから出てくるので、まあ情報がテレポーテーションしたと。そういうわけでこれを「量子テレポーテーション」と呼ぶわけなんですね。

キズナアイなるほど~、理解しました。

嶋田:さて、この量子テレポーテーションを使って、実は量子コンピューターをつくるという研究が、東京大学の古澤明研究室で行われています。古澤先生はノーベル賞候補の一人なんですよ。

キズナアイおおっ、ここでノーベル賞候補が出てくるわけですね。

嶋田:はい。では。

キズナアイはいっ。古澤先生のことを教えてくださーい。

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嶋田:では、古澤先生の研究室の様子を見てみましょう。これが、古澤先生が開発している光を使った量子コンピューターです。何やらレンズとか鏡とかがたくさん並んでますね。

キズナアイそうですね~。

嶋田:これ、コンピューターに見えないかもしれないんですけれども。

キズナアイはい。

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嶋田:まあ、とっても大きな装置も必要ですし、まあ、言ってはあれですけど、ごちゃごちゃしてますよね。

キズナアイうん、ごちゃごちゃしてます。

嶋田:はい。で、確かにそうなんですけれども、50年くらい前のコンピューターっていうのは、やっぱり同じようにごちゃごちゃしてて、たくさん装置が必要で、巨大な大きさでした。
ここでちょっと1個写真を見せたいと思います。

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キズナアイはいっ。

嶋田:これは、今から50年前にアポロ宇宙船を月に飛ばしたときに、その軌道計算に使ったコンピューターです。部屋一面にあるのが全部がコンピューターです。

キズナアイえっ、これ全部で1個なんですか。

嶋田:そうです、全部で1個で、操作してる人の大きさからわかるように、もう部屋にびっしりです。

キズナアイすごいですね。

嶋田:はい。ただ、計算能力自体は、実は今のスマホほどもなかったと言われてるんですね。

キズナアイ進化がすごいっ。

嶋田:はい、もうこれ50年前ですから、この後50年かけてスマホになるわけです。ですから、量子コンピューターも、今はまだこういう状態なんですけれども、これから10年、20年とかけていくことで、どんどん、どんどん小さくなったり、どんどん、どんどん洗練されていって、すばらしいコンピューターができ上がるというふうにみんな期待しているんですね。

キズナアイほお~っ。

嶋田:古澤先生のコンピューターは、先ほど見たIBMの量子コンピューターとは少し違っていて、これ、冷やす必要がないんですね。

キズナアイええーっ、すごいですねー。

嶋田:はい。ここでは光を量子として使っていて、このようにお部屋の中でも実験をすることができるというようになっています。このほかにもいろいろな方法で世界中でまだ研究開発が進んでいて、実は量子コンピューターをつくるという決め手になる方法がまだ見つかっていないんですね。だからこそ世界中でいろいろな方式で、いろいろな量子コンピューターをつくって開発が競争になっているんです。

キズナアイなるほど。これですよね、少し見たんですけど、量子コンピューターができ上がったら、もう今のパソコンとは比べ物にならないぐらい計算とかが早くなるんですよねえ。

嶋田:と思われています。

キズナアイええっ!

嶋田:ただ、まだですね、まだ今の段階では、どこまで量子コンピューターが性能よく計算をできるかっていうのは、実はあまりよくわかっていなくて。だからこそ、つくってみて、それで性能を試してみて、「あ、こういうことに役に立つんだ」というのを世界中で試しているという、そういう状況ですね。

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キズナアイなるほど、じゃ、もう大きな発明には、やっぱりこう地道な努力が必要なんですね。

嶋田:そうですね、これもノーベル賞に期待されているものですけれども、今後もまだまだ開発が続くという、そういうものなんです。 そして、この量子コンピューター、実は、AIが劇的に進化する可能性があります。

キズナアイおおーっ!

嶋田:AIですよ。

キズナアイ私?

嶋田:はい。実はですね、『ダ・ヴィンチ・コード』っていう小説は知ってますか。

キズナアイええと・・・

嶋田:映画にもなりましたよね。

キズナアイ知ってまーす。えへへ。

嶋田:その作者は、ダン・ブラウンという人なんですけれど、その最新作の小説が『オリジン』という小説です。この小説の主人公の相棒が、実は今回はAIなんです。

キズナアイおおーっ。

嶋田:これだけでもおもしろいんだけど、この小説には、実は量子コンピューターが出てきて、何をするかというと、「生命の起源を探る」という計算をします。

キズナアイおおっ、生命の起源を。どういうことですか。

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嶋田:ネタばれになるので詳しくは言えないけど、小説の中では、ユーリー・ミラーの実験という古くから知られている有名な実験を量子コンピューターでシミュレーションをするというようなことか描かれています。実は、地球が生まれて間もないころ、最初に生命のもとになったというのは、こういう、まあ粒々でできたアミノ酸と呼ばれている分子なんですね。この分子がどのような条件のときに、どうやってできたかということがわかれば、生命がどうやって生まれてきたかがわかるでしょうと。そういう実験をコンピューターを使って、量子コンピューターを使って計算する、そういうストーリーなんです。

キズナアイう~ん、うんうんうん。

嶋田:今の量子コンピューターはまだまだここまで到達できませんけれども、もしかすると、こういった計算ができるようになるかもしれない、そういうふうに考えられています。
まだ小説や映画の世界なんですけれど、やっぱり人間は、こういうふうに考え出せることはいつかはつくれると、そういうことがあるんだと思います。なので、私は個人的には、将来、量子コンピューターと今のスパコン技術を組み合わせてこういう計算ができるようになるんだというふうに考えています。

キズナアイ絶対できますよ。だって、江戸時代で、こんな私みたいなのがいるとか、こんな電気ピカピカとかも想像できなかったわけですしねぇ。

嶋田:そうですよね。先ほどの古いコンピューターの写真を見ても、あそこからたった50年でここまで来れるわけですから、今後20年、30年、50年かけて、やっぱり量子コンピューターはこういった計算に使われていくんじゃないかなと思います。

キズナアイ楽しみですね。実現してほしいです。

嶋田:そうですよね。ぜひこういった研究が進んで、AIなんかにもすごく関係のあることが起こるといいかなと思います。

キズナアイは~い。

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嶋田:さあ、今日見てきたように、このほかにも量子の不思議な性質を、いろいろなことに役立てようという研究が今世界中で進められています。例えば、量子センサー、量子インターネット、量子コンピューター、量子シミュレーション、量子暗号ということもあります。例えば量子暗号を使うと、量子の性質を使って、もう理論上絶対に盗聴できない安全な通信ができるようになったりします。それから、超高感度のセンサーで人間の脳の様子を調べて、それを病気の治療に生かしたり、それから、脳のことがわかると、AI量子もきっと賢くなるんだと思うんですね。

キズナアイなるほど。

嶋田:なので、量子の技術というのは、これから先もいろいろなところで私たちの暮らしを便利にしたり、生活を劇的に変えていくことになるんじゃないかなと思います。

キズナアイ量子がすごすぎるっ!それって、未来ってどう変わるんですかね。私とみんなのかかわり方とかも進化しますかね。

嶋田:そうですね。今ある量子コンピューター、それから普通のコンピューター、インターネット、それらをいろいろある量子技術と組み合わせて、それで誰もが思いつかない使い方が出てくるようになるんじゃないかなと思っています。だから、世の中を便利にするっていうことだけじゃなくて、例えば映画、先ほど言った小説もそうかもしれないですし、音楽、ファッション、そういったことに、人に感動を与えるような使い方というのも、これから先どんどん生まれてくるかもしれないですね。

キズナアイ可能性が無限大ですね。

嶋田:そうですね。なので、アイちゃんがもしかしたら画面から飛び出してきて、量子コンピューターの力を借りて小説を書いたり、研究をしてノーベル賞を取るっていうような日が、そう遠くないかもしれないですね。

キズナアイああっ、取りたいです、私。ノーベル平和賞を取りたいです。

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嶋田:それはいいですよね。

キズナアイはいっ。

嶋田:絶対そういうときには、こういった量子技術が裏で活躍してくれているはずだと思います。

キズナアイじゃ、私の量子にいっぱいゴマすっときます。

嶋田:そうですね。

キズナアイはいっ。

嶋田:絶対、近い将来、役に立つと思います。

キズナアイはーい、ありがとうございまーす。

嶋田:はい、ありがとうございます。