講談社 人事担当者に聞く

心に響く多様な物語を届けるために

2019年12月18日 (聞き手:伊藤七海 土井湧水)

書籍や漫画など、さまざまな魅力ある作品を読者に届けてきた出版業界。いま、講談社は、“紙”の媒体だけではなく、電子書籍の配信や漫画のアニメ化など、さまざまなかたちでコンテンツを展開しています。こうした変革の時代に人事担当者が選んだマストなニュースは…

取材に応じてくれたのは、人事部で採用担当者の山崎慶彦さんと宮屋敷陽子さん。
場所は本社の最上階。作家さんとの打ち合わせで使うこともあるそうです!

コミック電子配信が急拡大

学生
土井

よろしくお願いします。まず、このニュースを選んだ理由を教えてください。

出版やエンターテインメントの仕事に興味をもってもらえるよう、業界寄りのニュースを選んでみました。

山崎さん

ここ10年だけでも、出版物全体の売り上げは2割程度減っています。その大きな要因は、紙の出版物の売上減少です。

それをどうカバーするかを考え、何でもチャレンジしているというのが近年の状況です。

売り上げの状況はどうですか?

おかげさまで講談社の業績は好調に推移しています。紙の売り上げの減少を、電子書籍などのデジタルやライツ収入など、他の売り上げで補っています。

※ライツ=著作権などの知的所有権を運用・管理する部門

もしかすると、来年は、紙とデジタルの売り上げの比率が逆転するかもしれません。それくらいの流れになっているんです。

電子配信を行うことについては、社内で反発はなかったんですか?

導入当初、社内では電子書籍によって紙が売れなくなるという考えもありましたし、デジタルでの表現に抵抗感を持つ作家さんもいらっしゃいましたね。

ただ、最近は変わりました。今では電子書籍を出したくないっていう作家さんもあまりいらっしゃらないと思います。

本や雑誌の内容を写真に撮ってSNSで拡散するようなことを見かけることもあるんですが、それについてはどう思いますか?

自分だけで楽しむ分にはいいと思います。ある漫画の一コマを自由に使ってTwitterで拡散してみてください、というようなプロモーション施策を当社が仕掛けているケースもあります。

でも、それでお金儲けをされてしまうと、結局、作家さんに対して正当な報酬をお支払いできなくなってしまう。このことが私たちとしては、一番意に反することなんです。

なるほど。

漫画村という海賊版サイトは知っていますか?漫画村があったときは、私たちの売り上げも打撃を受けたんですよ。それが、去年4月に閉鎖されてから電子書籍の売り上げは戻り、さらに拡大しているんです。

宮屋敷さん

〈漫画村〉

漫画や雑誌など5万点以上が作者や出版者に無断で掲載されていた海賊版サイト。無料で閲覧することができたため、多くのアクセスを集め、被害額は3000億円とも推計されている。

紙でもデジタルでも、お客さんは漫画を読むことの楽しさをわかってくださっているんだと思います。今は、ものすごく希望を持てる状態にありますし、作家の先生たちの関心や理解も非常に深まってきています。

学生
伊藤

紙媒体をどういう方向に進めていきたいか、何かビジョンはありますか?

紙もまだまだ大きな武器ということは間違いないです。ゼロになるとは、今はまったく思っていないし、紙でなければ表現できないこと、伝えられないことって当然あると思うんです。

ご家族でシェアしたり、色々なところで共有したりするという意味では、紙はすごく優れています。例えば、お子さんに読ませる場合とかね。まだデバイスを持っていないお子さんが多いですし。

完全にデジタルへシフトするというのは、いまの状況としてはないと思っていて、紙とデジタルの両輪でコンテンツを高めていく。そのために、どういうアウトプットをすればよいかを考える。おそらく業界全体がそういう方向に向かっていく気がします。

東京・池袋がアート&カルチャー都市に変貌中

近年、池袋では映画館や劇場ホール、商業施設が入る複合型施設のほか、多数の再開発事業が進められている。講談社は 2020年3月、LIVEエンターテインメントビル「Mixalive TOKYO(ミクサライブ東京)」を開業予定。パートナー企業とともに、 さまざまなジャンルのライブコンテンツを開発、発信していくという。

このニュースを選んだ理由を教えてください。

出版社は小説や漫画、雑誌など、さまざまな物語をつくっています。いままでは、それらを届ける手段としては紙がほとんどでした。でも物語を伝える手段は、もっといっぱいあるんですね。

そのひとつの試みとして、池袋の旧シネマサンシャインのビルをリニューアルし、そこで小説や漫画の作品を、イベントや舞台、映像などを通じて、リアルな場所で伝えていこうとしています。

“もの”の消費の時代から“こと”の消費の時代になっているんですよね。

どうして池袋だったんですか?

池袋のある豊島区は、今、区を挙げてマンガやアニメなど、アートやカルチャーによる街づくりに積極的に取り組んでいるからです。

将来的に国内外から、エンターテインメントを楽しみにする方々が池袋に大勢来るだろうと。そのひとつとして、講談社も何かやろうとなったんです。会社からも池袋は地下鉄で2駅で近いですしね。

そうですよね。すぐそこですもんね。

出版社がライブ事業に参入する強みというのはなんでしょうか?

我々はコンテンツそのものをつくっていますので、一気通貫で(初めから終わりまで)それらを伝えることができるということですね。

コンテンツを伝える手段を多く持っていれば、いろいろな形で、みなさんにお届けできるんじゃないかなと考えています。

出版社は本をつくっているというイメージでしたが、こういう施設をつくったり、イベントを企画されたりしていることに、驚きました。

この事業はまだ新しいですが、これまでも紙と電子書籍だけではなくて、映像とか舞台とか、そういったソフトはつくってきました。それをもっともっと『リアルともくっつけてしまおう』というのが今回の取り組みなんです。

届ける手段が多ければ多いほど、より多くの人のために多種多様な作品もつくれると思います。

日本ラグビーW杯 日本代表がベスト8

ラグビーワールドカップを選んだ理由は何ですか?

ラグビーワールドカップ、見ましたか?

見ました!

今回の日本代表、ある意味理想的なチームでしたよね。「ONE TEAM」と言われていますけど、ラグビーって、15人がそれぞれ違う個性と役割をもっている。

私たちは、あらゆる人々の心に響く多種多様な物語をつくっていきたい。だからこそ、社員にも多様性が必要です。

同じような人が集まっているのではなくて、ラグビー日本代表の15人がそれぞれ違うように、もし20人の新入社員を採るのであれば、それぞれ違う20人になる採用をしたいと思っているんですよね。

ひとりとして、同じ人はいらない。その人自身の個性とか、好きなことを生かして働ける場所でありたいなって思います。

本からまったく離れた個性でもいいんですか?

それでも良いと思います。あまり本を読んでいない人も中にはいますし。

へぇー。

イメージとしてあるのは、やっぱり、文学部で、文学研究していて、紙が好きで、自宅には本がばーって並んでてって…。

はい!そうです!(笑)

実態はそうではないことが結構あって(笑)

ずっとラグビーに打ち込んできた、屈強なラガーマンの漫画編集者が私の同期にいるんですけど、彼は、日本にワールドカップがくるとわかった時から、自分でラグビー漫画の企画をたてていたんです。

ラグビーが好きだからラグビーを広めたい、という想いが根底にあって、出版社に入ったからにはそういう漫画をつくりたいと思ったんじゃないかな。それで実際に作品をつくっちゃった。

「すごく漫画が好きで、すごく小説が好きで、ずっと本を読んできました」というのは、それはそれでひとつの個性だと思うんですけど、必ずしもそれだけじゃなくても、やりたいことをやれる会社だなって思います。

最後に、出版業界を希望する学生たちに求めることや、学生時代にしてほしいことを教えてもらえますか。

例えば、自分が好きな何かがあれば、それを徹底的にやってもらいたいと思いますね。

「このことについては、私は負けない」みたいな。それが将来、仕事になったりしますので。逆に、今はまだそういうものがないのであれば、いろんなことに手を出してみてほしいなと思います。

ミーハーになるということですか?

はい、ミーハーにガンガン!

それがバイトやサークルでもいいんでしょうか?

もちろんです。

何でもいいと思います。それによって自分の新しい世界や自分自身の人間性が広がっていくでしょう。

知っていることがあればあるほど、講談社という会社に入って企画を考える際に、引き出しがあって助かります。

いろんな方向からアプローチしてこそ、多様性のある物語が生まれるはずです。

色々な視点、角度からつくっていけば、誰かの心にヒットする可能性がある、無限の可能性があるということですね。

求める能力については、強いて言えば、コミュニケーション力がある人ですね。それは、お話が上手、プレゼンが上手ということでは全然なくて…。

もしかしたら作家さんが今ちょっとテンションが低いかもしれない、もしかしたら疲れている状態かもしれない、そういった人にもちゃんと寄り添って会話ができるようなコミュニケーション力かな。

仕事では、感情を扱うんですよね。

感情を扱うとはいうのは、どういう意味ですか?

やっぱり才能のある方って、繊細な方も多かったりするんですよね。

そういった方に、個性をぶつけてガンガンいくような編集者って、担当として合わなかったりもします。

むしろ、物静かで聞き上手な人の方が合うこともあります。なので、個性が強ければいいかっていうと、一概にそんなことはないんです。

作家さんが内に秘めた想いなどをどんどん引き出すのが編集の仕事なので、感情を扱うことにセンシティブであってほしいですね。

そうなんですね。

雑に扱っちゃうと心を閉ざしたり、わかった気でいると自分のことを全然わかってくれないと思われたり…そういった繊細な部分をちゃんと敬意を持って接することができるというのも大事な能力なのかなって思います。

それは作家さんだけじゃなくて、読者やユーザー、お客さんに対してもまったく同じなんです。

便利なものをつくっているわけではなく、心を揺さぶる物語を扱っている会社なので、心の機微とか、そういうものは大事にしています。

ありがとうございました。

編集:小倉真依