教えて先輩! ロケット開発 稲川貴大さん(前編)

「宇宙が好きで ロケットが好きで」ワクワクすることを仕事に

2021年09月10日
(聞き手:白賀エチエンヌ 田嶋瑞貴)

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宇宙ロケットを作るベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」の社長を務める稲川貴大さん。大手企業に内定していたものの、堀江貴文さんからかけられたことばをきっかけに入社式当日に辞退。本当にやりたい「ロケットの開発」への挑戦を決意しました。学生リポーターが取材しました。

安くて使いやすいロケットの開発目指す

学生
白賀

はじめに稲川さんの仕事について教えてください。

ロケットを作っているベンチャー企業で技術開発から、打ち上げるための調整などいろんなことをやっています。

IST
稲川さん

学生
田嶋

民間企業でもロケットの打ち上げができるんですね!

そこがウチの非常にユニークなところです。

宇宙開発って難しい事業だから、これまでずっと国がやってきたし、国しかできないと思われていた。

でもいまは世界中で民間企業が、ロケットや人工衛星で宇宙を使った事業をやるようになってきています。

そうなんですか!?

中でもロケットは特に難しい技術を求められるのでなかなかプレーヤーがいなかったんです。

我々が日本で宇宙空間にロケットを飛ばした初めての民間企業になったので、宇宙開発の歴史の1ページを作りました。

《稲川貴大さんプロフィール》
1987年生まれ。東京工業大学大学院修了後、ロケット開発を手がけるベンチャー企業インターステラテクノロジズに入社。翌年の2014年に代表取締役社長に就任。北海道大樹町に本社と発射場を構える。

ロケット開発に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?

大学が機械系で、その時はロボットとかメカみたいなものを漠然と作りたいと思っていました。

そんな中、鳥人間コンテストに参加するサークルが大学にあって、飛行機を作っているうちに飛ぶものがだんだん好きになってきました。

稲川さんが設計した飛行機

飛行機を作っていたんですね。

そして大学4年生の時に、ほかの大学で学生がロケットを作っているという話を聞いて、ものすごい衝撃を受けたんですよね。

自分でも作れると思って、大学のなかに学生ロケットを作るサークルを立ち上げました。

学生ロケットを作るサークル

大学生でロケットを飛ばしていたのは驚きです。
その後、今の会社にはどういう経緯で入ったんですか?

宇宙産業の仕事をしたいと思っていたので、就職活動ではJAXAやロケットを作っている大手のメーカーを受けていたんですが、受からなかったんです。

どうしようかなと思っていたところ、カメラなどをつくっている大手精密機器メーカーから内定をもらって、大学の専門が光学だったのでそこに行くつもりでした。

でも行かなかったんですよね。なにが起こったんですか?

修士論文を書き終えて、最後2か月ぐらい春休みがありました。

その間に宇宙好きの有志が集まる「なつのロケット団」、今のインターステラテクノロジズにお手伝いに行きました。

ロケット「ひなまつり」の炎上 平成25年3月29日

ロケットの打ち上げが入社式の3日前にあったので行ったのですが、打ち上げがうまくいかなかったんです。地上に残ったまま火が出て燃えて。

失敗してしまったんですね。

その場にうちの会社を創業した実業家の堀江貴文さんがいらっしゃって、「いやぁ残念だね」って言いながら堀江さんが話しかけてくれて。

「君、学生だけどこれからどうするの」って聞かれました。

「ロケットすごく好きだし興味あるんで、ボランティアでも続けたいとは思っています」みたいなことを言ったんです。

そしたら「いやボランティアとかじゃなくて、会社として一緒にやろう」って声をかけてもらって。

「いや、3日後入社式だし」って思いながら、打ち上げがあった早朝から夜まで話をしました。

具体的にどんなことを話したんですか?

今後、宇宙産業は盛り上がってくるだろうという会話をしましたね。

就活でロケットをやろうと思った時に働き口がすごく少なかったんですけど、これを逃したらなかなかチャンスはないなと思いました。

決め手になった言葉とかあります?

それこそ堀江さんから言われた「君はカメラをつくりたいのか、ロケットを作りたいのか」っていう言葉です。

「ロケット作りたいです」って答えたんですよね。

なるほど。

会社ってすごい時間を使うっていうか、自分の人生の大きい部分を捧げるところだと思うんです。

本当にやりたい事とか社会に意義があるようなこと、新しい産業がつくれる、これから盛り上がっていくところの方が絶対エキサイティングだなと思っていました。

姿勢制御のための実験機

大手の内定を辞退するいう時の葛藤はなかったんですか?

あったんですけど、多分ほかの人よりは弱かったかもしれません。

その会社に行かなきゃ生きていけないということは当時から全く思っていなくて。

自分一人でも最悪生きてはいけるけど、大きな仕事をするためにどの船に乗るのか、どのチケットを買おうかなというレベルですね。

その後はインターステラテクノロジスに入社…したんですか?

最初は前任の社長がいたので、私は社員1号で入った感じでしたね。

入社4か月 左端に稲川さん 中央に堀江さん

社員第1号?ベンチャーの中でも本当のベンチャーですね。

ゴリゴリのベンチャーです。

2年目のタイミングで社長交代って話になって、まぁ当社の社員は4人くらいに増えていたんですが、その中で私がやりますって感じでした。

社員は今どのくらいいらっしゃるんですか?

60人ちょっとぐらいです。

令和3年 新社屋の前で

会社の規模が大きくなっていく中、社長として気持ちに変化はありました?

うーん…あんまりないですね。

根本的にうちは宇宙への輸送手段を安く提供しよう、そのために、革新的なロケットを作ろうってやっています。やりたいこととプロセス自体は変わらないわけです。

出てくるのはお金の問題とか人の問題でしかないんで、それは解決すれば良いというだけですね。

ロケット組み立て場

宇宙ビジネスは夢やロマンじゃない

宇宙開発ってどういうフェーズに入っているのかをお伺いしてもいいですか?

アメリカのアポロ計画で月に行ったっていうのが偉大な計画すぎて、次に国で目指すべき目標というのがなかなか定まらず、右往左往していたわけです。

それが今になって、宇宙空間を使ってビジネスをすることが民間のビッグチャンスだと捉えられてきました。

発射場での作業

それがここ10年か長く見ると20年ぐらいです。

ここ10年のお話なんですね。

国から民間へ。

民間企業の創意工夫、競争を上手く使うことで宇宙開発というのが、アポロ計画の時からようやくひとつ進化するんです。

ロケット「MOMO4号機」打ち上げ 令和元年7月

いま非常に盛り上がっていて、民間宇宙開発っていう単語が最近出てきました。

夢と現実のはざまでっていう感じなのでしょうか?

ロケットといった時にどうしても夢とか希望とか、何かロマンみたいな感じになりがちなんですけど、夢じゃなくて現実的な産業で、製品を作るという観点で考えています。

夢物語ではなく、かなり現実的です。宇宙は使うといろんな生活が便利になったり人類の経済圏が拡大したりすることに資するすごく重要な産業です。

それに対して、今やるべきことはロケットの開発だと思ってやっています。

ベンチャー企業で働いていてよかったと思う瞬間はなんですか?

日本で初めてになったりするわけですよ。今は世の中にないものが実際にものになる瞬間、いいですよね。

自分はずっとものづくりにハマっていて、その達成感が大きな原動力なんですよね。その極限がロケットです。

MOMO3号機の打ち上げ 日本初の宇宙空間到達 令和元年5月

ふだん地味な作業が多いんですけど最後にその達成感があるとすべて報われるので、その瞬間をすごく大事にしていますね。

単純に面白くて興味があるという理由でベンチャー企業に入るのには少し抵抗があるという人もいると思うのですが…。

組織って船のようなもので、大切なのはどの船に乗るかなんですよね。

その船の行き先が、自分の思っていることに近ければ幸せなわけですよ。

立派な船だけど自分の行きたいとこに行くか分からない船に乗りたい人もいるかもしれないけど、自分はすごく嫌なんです。

この船が正しい方向に向かっているってどのように判断すればいいのでしょうか?

世の中の流れだとか自分の人の見る目、一緒にいる人たちが楽しいかどうかだと思うんですけど、最終的な直感ですね。

ハマれるかどうかです。

稲川さんのように没頭できる、ハマるものってどうやったら見つけられると思いますか?

難しいですよね、自分がラッキーだったと思います。

何かいろいろ見ていくとか1個ハマったらきちんと没頭して、飽きたらすぐ次に行くっていう事だと思います。

中途半端ではうまくいきません。

稲川さん自身が掲げる目標をお伺いしてもよろしいですか。

自分は新しい世界を待ち望んでいるんです。

その1つが宇宙開発でした。

ひと言でいうと誰もが宇宙にアクセスできるようになる世の中を作りたいんです。ロケットはそのための手段でしかありません。

堀江さんの問いをきっかけに自分の気持ちと向き合うことができた稲川さん。後編では、日本初となる民間企業単独での宇宙到達を果たすまでの道のりや、稲川さんが考える“働く意義”について聞きます。

編集:鈴木有 カメラ:本間遥 梶原龍

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