2020年01月22日
(聞き手:工藤菜摘 鈴木マクシミリアン貴大)
ここ最近、ずっとぎくしゃくしている日韓関係。これからどうなるの?日本以外の国との関係はどうなっているの?元ソウル支局長で「国際報道2020」の池畑修平キャスターに1から聞きました。
学生
鈴木
ムン大統領は、北朝鮮との対話を重視する進歩派とのことですが、北朝鮮との統一についてはどう考えているんですか?
北朝鮮をめぐる方向性が違う進歩派と保守派で韓国はすごい分断されてるって話しをしましたよね。
池畑
キャスター
でも、「いずれは朝鮮半島が統一されなければいけない」という思いは共通しているんです。
保守派と進歩派、そこは共通しているんですね。
方法論が北風と太陽みたいに違って。力でやるのか、支援してなのか、やり方の違いはあるけど、統一への思いは一緒なんだよね。
かつて、分断されたドイツが統一されたでしょ。あれを自分たちも目指すという思いは韓国の人たちには強いんです。
なるほど。
ムン・ジェイン大統領は、2019年の夏に国民に呼びかけたんです。2045年までに、統一するのを目指そうって。
2045年というのはどんな意味か分かる?
学生
工藤
100年後にということですか?
そう。要するに終戦、1945年から100年の節目にということね。
南北が統一したらどんな国になるのですか?
ムン政権がさかんに主張している統一のかたちは連邦国家。
韓国と北朝鮮という2つの国の上に連邦政府があって、外交とか軍事とか重要な意志は連邦政府が決める。
だけど、例えば経済の仕組みとか、国内の法律とか諸制度はそれぞれの国が、主権を持った形でやりましょうというもの。
これ、実は統一のようであって北朝鮮の体制温存とも言えるんだよね。
国が2つあるのは変わらないということですよね。
そう、だから保守派の人から見るとそれって本当の統一じゃないでしょってなるよね。
やはり1つの国の政府、1つの法律の体系になるのが“統一”で、「連邦は統一じゃない」ってね。
やっぱり意見は違うところもあるんですね。
あと韓国の若い人も統一にあまり関心はないんですよね。
やっぱり経済的に貧しい北朝鮮の人たちを自分たちで面倒見なくてはいけないと思っているので。
どういうことですか?
ドイツのときを例に話すと、西ドイツは東ドイツを吸収合併する形で統一しました。
西ドイツと東ドイツの人口の違いがだいたい「西ドイツが4で東ドイツが1」。つまり4人の西ドイツの人が、生活が苦しかった東ドイツの1人を面倒見ればよかった。
韓国と北朝鮮では?
韓国と北朝鮮の人口比はだいたい2対1、韓国人2人で北朝鮮の人1人の面倒を見るのは相当きついですよね。
それをわかっているからあまり統一に関心がないんですね。
日本とは関係が悪化していますが、韓国は他の国との外交はうまくいってるんですか?
いまの韓国は、安全保障はアメリカとの関係で、経済的な発展は中国と関係を担保するという立ち位置になっている。
どういうことでしょうか?
まずはアメリカ。北朝鮮の脅威に対処するためにも、韓国に駐留する米軍「在韓米軍」も安全保障の上で重要だし、アメリカと韓国の同盟関係も非常に大切に思っている。
じゃあアメリカとはうまくやっているんですか?
いや、ムン大統領とトランプ大統領の相性はたぶん悪いと思うな。
不動産王として歩んできたトランプ大統領と元人権派弁護士のムン大統領では生き方が全然違うから。反りが合わないんじゃないかな。
でも、対北朝鮮でいうと意外と方向性は合っている。
そうなんですか。
トランプ大統領は早く国交正常化して、アメリカ企業が入って投資して北朝鮮を豊かにしたいと思っているんじゃないかな。
ムン大統領は北朝鮮を支援したいと考えている。不思議だけど、一致しているんですよね。
一方で、経済的なつながりが強いのは、中国なんですね。
そう。経済的には中国への依存度がすごく高まっている。
韓国製の携帯電話だって中国にまず輸出している。韓国の対外輸出の第1位は、圧倒的に中国。
やっぱり中国の割合が大きいんですね。
その一方で、日本は5位。かつては、日本が1位だったんだけど、今や大きく下がってしまった。
中国との関係をすごい重視する一方で、相対的に日本との関係をちゃんとフォローしなくなっているのは、こういう側面もあるかもしれないよね。
K―POPや韓国ドラマも身近で、日韓は交流が深まっているようにも思えるのに、どうして関係は悪化していくんでしょうか?
昔は、韓国のことを日本では「近くて遠い国」って呼んでいたんだよね。場所が近いんだけど、何か心理的にはね、遠い国だよねって。
でも、交流も増えて、2002年には日韓の共同開催でサッカーのワールドカップも開かれて、どんどん「近くて近い国」になった。
ところが、近くなってお互いのことがわかるにつれて、近くなったがゆえに衝突する事も増えてきたんだ。
どういうことですか?
お互いの国の情報が伝わるようになってきたしね。例えば、昔は韓国メディアが何を伝えているか、日本にいるとよくわからなかった。
ところが、韓国メディアが日本語版のサイトを出して、日本人も読めるようになって、開くとどこかに日本との歴史の問題が書いてあって。
わかるようになったがゆえに、亀裂も生まれるんですね。
また貿易とか経済的なデータにも表れているけど、相対的に、韓国にとって日本の重要性が下がっていることもあるかもしれない。
あと、ムン政権は北朝鮮を優先して対日外交を軽く見ているところもあるようにみえるね。
さらに韓国の経済力が上がるにしたがって、日本に言うべき事を言うべきだっていう世論もあるんだ。
日韓関係にこれからどう向き合えばいいんでしょうか?
自分なりに韓国の近代史や日本の統治時代の事など歴史を学ぶ必要はあるよね。
すごく詳しく勉強する必要はないかもしれないけど、歴史を学んだ上で「韓国の主張のここは同意できるけどここは同意できない」とか自分なりに考えられたほうがいいと思っている。
あるいは実際に交流して、韓国の人たちと話をする、そういうことも大事だと思う。
情報に踊らされずに、自分で判断していかないといけないということですね。
そうですね。
そして、私が1つ強調したいのは、いろんな外国で取材活動とかしてきた経験から言うと、日本人が1番分かり合えるのは韓国人。これは間違いない。
メディアもそうだし、企業同士も、外交の世界でもそう。日本と韓国の外交官って実はすごく協力し合っているんです。
そうなんですか。
もちろん価値観の違いはあるけれど、やっぱり似ているところが多い。
年長者をうやまったり、自己主張が強くない人も多かったり、いい雰囲気を保つことを大事に思っている。そういうアジア的なものの考え方が非常によく似ている。
確かに韓国ドラマが面白いのは共感できる部分が多いからですよね。
そうそう。話せば分かり合えるのに、いま、そこが抜け落ちているのは非常に残念だと思うんです。
今後の日韓関係の希望の話になるんだけど、今回「徴用」をめぐる判決が出た時に、日韓の歴史の「パンドラの箱」を開けたって、よく言われた。
「パンドラの箱」の話って知ってる?
ギリシャ神話に出てくる話ですよね。
そう。パンドラの箱にすべての悪いもの全部封じ込めた。
災害とか戦争とか憎しみとか、ありとあらゆる悪いことを封じ込めたのに、その箱を開けてしまったがために、その全ての災いがどんどん世界に出てしまった、と。
たしかにいまの日韓関係、若干そういうところはありますよね。
そうですよね。あの判決以降、不買運動だの日本旅行自粛だの、GSOMIA破棄の動きだのと、何かいろいろと悪いものが出てきてしまったのかな、という感じはある。
でもこの神話の最後に箱の中に1つだけ残ったものがある、それは何か知ってる?
なんだろう…?
最後に残ったのは「希望」。要はどんなに悪くなったとしても、希望は残っていますと。
いまの日韓関係における「希望」はなんですか?
私は、日韓の「民間交流」が深まっていることが希望だと思うんです。
いま年間、ざっと1000万人ぐらいは韓国と日本を行ったり来たりしていて、かつてないぐらい人が直接交流している。
若い世代がお互いの事に関心を持って、交流もするし、相手のことを少しでも知ろうとしている。これが解決への希望かなと思いますけどね。
交流が最後の希望なんですね。
ある韓国人の学者は、今回の「徴用」をめぐる問題が日韓の最後の決闘だっていうんだよね。これさえ終われば歴史問題が終わると。
最後の最後に1番難しい問題が来ちゃったのかもしれない、と。
それでは、いまを乗り越えることができれば、日韓関係は改善するかも知れない…と。
「夜明け前がいちばん暗い」ということばもありますけど、もしかすると日韓関係はいまが1番暗いのかもしれない。
これさえ乗り切れば一気に夜が明けるかもしれないですね。