2019年12月27日
(聞き手:工藤菜摘 鈴木マクシミリアン貴大)
ここ最近、ずっとぎくしゃくしている日韓関係。韓国国民は今の政権をどう受け止めているの?元ソウル支局長で「国際報道2019」の池畑修平キャスターに1から聞きました。
学生
鈴木
ムン大統領って国民に支持されているんですか?
ムン大統領の支持率は、政権発足当初は、80%ぐらいあったんです。これはかなり異例の高さでしたが、どんどん下がってきたんです。
池畑
キャスター
最初はすごく期待が高かったけど、だんだん落ちてきて、45%くらいになっているんです。
当初に比べると、半分近くに落ち込んでるんですね。
学生
工藤
どうして落ち込んだんですか?
ひとつは、チョ・グク(曺国)氏のスキャンダルです。
「たまねぎ男」と呼ばれていた人ですよね。
チョ氏はムン大統領の信頼が厚い側近で、法相に起用されたけど、さまざまな疑惑が明るみにでましたよね。
特に若者が怒ったのは、チョ氏の娘の大学入試をめぐる不正入学疑惑でした。
「チョ氏が権力を持ってるからだ!」って、そういうところにものすごい怒るんだよ、韓国の若者たちは。
側近のスキャンダルが、ムン大統領の支持率低下に影響したんですね。
韓国の若者たちは「北朝鮮に政治的なエネルギーと金をつぎ込んでいるけど、それよりも、なんで自分たちの進学とか就職の面倒をもっと見てくれないんだ」っていう不満が強いんだよね。
そもそも韓国って大統領のスキャンダルが多いですよね。
やっぱり大統領の権限が強すぎるからだと思うな。
「大統領についていったらいいポジションにいける」というのが続くと、そこはもうコネであり、いろんなスキャンダルが出てくるわけですよ。
大統領の権限が強いからスキャンダルもおきやすいんですね。
前のパク・クネ(朴槿恵)大統領も逮捕されましたよね?
そうですね。パク氏の生い立ちから話すと、父親は元大統領で、最後は暗殺されています。
そして母親も父親をねらった銃撃の流れ弾にあたって殺害されている。そういう意味では悲劇の人なんですよ。
そうした悲しみの中で、ずっと支えてくれた新興宗教の教祖の娘がいた。まさに家族のような人だったと。
ただ、大統領になってからも関係に一線をひかずに、裏で政府の予算をその女性が関係する財団に流入させていたなどという、典型的なスキャンダルが起きてしまった。
大統領選挙の時は「自分は肉親・親戚から離れている」から「クリーンな政治ができる」「スキャンダルとは無縁」ですと、アピールしていたんだけどね。
結局、スキャンダルは起きてしまったんですね。
さらに、その前のイ・ミョンバク(李明博)氏もけっこういろいろありました。
今のムン政権になったあと、在職中の収賄などの容疑で逮捕されたんです。
家族もお兄さんが国会議長をやっていたんだけど、在職中に逮捕されています。
やっぱりスキャンダルがあったんですね。
さらにその前のノ・ムヒョン(盧武鉉)氏もだよね。
大統領を辞めた後に、側近とか奥さんとか、いろんな不正な資金のスキャンダルがでてきたんだ。
大統領本人も関わったかどうかという検察の取り調べを受けている最中に、山から身を投げて自殺したっていう。
そのニュース覚えています。びっくりしました。
そして、このノ・ムヒョン氏。実はムン大統領の師匠みたいな人なんだよね。
ノ・ムヒョン氏ももともと弁護士で、ムン大統領と共同で弁護士事務所を立ち上げて、一緒に弱者を救済する活動にとりくんできた。
ノ・ムヒョン氏が政界に進出していく中で「ぜひ手伝ってほしい」と言われて「ノ・ムヒョンさんが言うんだったら」ってことで政治の世界にはいったんです。
そんなに強いつながりがあったんですね。
ムン大統領は、「検察を改革するんだ」って言っているんだけど、実はノ・ムヒョン氏が検察の取り調べを受けている時に、自殺に追い込まれたという恨みがすごく強くて、それが最大の動機だといわれています。
スキャンダルに対して国民はどう思っているんですか?
韓国の人たちって、「大統領が間違ったときには国民が立ちあがってただす」という思いがすごく強いんです。
もともと朝鮮半島って地震も少ないし、台風の影響もあまりないんだ。
日本人は自然災害が多いので、「災いは天から降ってくる」と思っているところがあるけど、韓国の人たちは「災いは人がもたらす」っていう考えがすごく強いんですよね。
韓国ってデモがすごく多い印象があります。
デモ多いんだよね。選挙ももちろんあるんだけど、それよりも直接広場に行って、自分たちの不満をぶつける方がてっとり早いから、みんなすぐ街頭に行って声をあげる。
「広場民主主義」っていう言い方もあるくらいなんです。
昔からそうなんですか?
社会を少しずつ正しい方向に持っていくためにそういう直接的な行動を、積み重ねてきたというのが、韓国の人たちにとってはある種の成功体験なんですよ。
「自分たちは不正を追放した」「独裁的な大統領を権力の座からおろした」という成功体験がある。
だからこそ、デモに参加して、直接声をあげようという機運が生まれるんですよ。
いまもデモが多いということは、国民の不満は大きいんですか?
受験戦争や就職は厳しいからね。
特に就職に関しては、韓国の場合、財閥・一流企業、大企業ばかり目指すという風潮が強い。
財閥企業は、経済を引っ張る牽引力はあるし華やかではあるんだけど、雇用はあまり生んでないというのも現実なんですよね。
大きな企業を目指す人が多いから、就職難で不満はたまっていくんですね。
個人的にはデモは多すぎるとも思うけど、必ずしも悪い事ではないと思うんだ。
それだけ政治に関わるという意味では、韓国政治がダイナミックに動いているともいえるよね。
さらに、保守派、進歩派で分断されていて、自分はどっちに入るか、二者選択を迫られる。どちらかに所属しないと、上に上がるチャンスがないと思ってるところが韓国国民にはあるんだよね。
国民は、保守派と進歩派のどちらを支持する人が多いんですか?
それが、真っ二つなんですよね。
よく言われるのは、なにがあっても「保守派」支持者3割。なにがあっても「進歩派」支持者も3割。
そして残りの4割を常に奪い合っているという構図なんだ。
分断はなかなか解消しそうにないんですね。
若者はどうなんですか?
いい質問ですね。まず、年代の高い人たちの話しをすると、どちらかというと、保守派を支持する人が多いんだよね。
なぜかというと、朝鮮戦争を覚えている世代は、戦争で悲惨な目にあって、なんとか国を守ったという思いがある。
だから、北朝鮮はいまだに大嫌いなので保守派を支持する人は多いんですよね。
北朝鮮に厳しい保守派を支持するんですね。
一方で、若い人は、当然朝鮮戦争も経験していないし、どちらかというと、もっとフェアな社会、公正さを大事に思ってるんでどっちかというと進歩派の支持が多い。
じゃあ若者は北朝鮮にも融和的なんですか?
それがそうでもないんです。若い世代は実は、北朝鮮にあまり関心がない人が多いんですよ。
北朝鮮にシンパシーもないし同じ言葉しゃべってるかもしれないけど全然別の国だよねっていうね。
ただ、みんなが政治に参加できて、進学や就職もフェアな社会であるべしという思いが強いから進歩派なんです。
保守派と進歩派の対立が続く中で、進歩派のムン大統領はこれからも政権を続けられそうなんですか?
まず重要になってくるのは、2020年4月の総選挙です。
韓国の国会は一院制なんだけど、この選挙で、ムン大統領の与党の進歩派が勝てば、次の大統領選も勝てる機運が高まります。選挙結果に注目です。
近日公開予定の「1からわかる!ムン・ジェイン(文在寅)大統領と韓国政治」(4)では、日本を含む韓国の外交について聞いていきます。
「1からわかる!ムン・ジェイン(文在寅)大統領と韓国政治」(1)「韓国の分断」はこちらから
「1からわかる!ムン・ジェイン(文在寅)大統領と韓国政治」(2)「帝王的大統領って?」はこちらからごらんください。
「1からわかる!ムン・ジェイン(文在寅)大統領と韓国政治」(4)「韓国の外交は?」はこちらからごらんください。
編集:吉川那奈