2019年08月23日
(聞き手:井山大我 工藤菜摘)
アフリカって、どんなイメージですか? 野生動物、砂漠、貧困、紛争…、しかし、アフリカは、今、大きく変わろうとしています。日本をはじめ各国が進出し、覇権争いに。一体、何が起きているのか。アフリカ大陸54か国中、36か国で取材した経験を持つ味田村太郎デスクに、アフリカの魅力を1から聞きました。
これはね、アフリカで買ってきた地図なんです。
すごい! 大きいですね。
アフリカだけの地図なんですね。
日本でアフリカ全体が入った地図を買おうとしてもなかなか売っていないんですよ。遠いということもあってね。
アフリカの地図をあらためて見ると、ホント広い…。
そうだね。国の数も多いんだ。アフリカ大陸には全部で54の国がある。東西南北と中部の5つのエリアに分けられるんです。
サハラ砂漠より北にある北部アフリカは、イスラム教のアラビア語圏の国々で、エジプトなどは中東地域の一部とも定義されています。
サハラ砂漠から南の、北部アフリカ以外のアフリカは「サブサハラ・アフリカ」と呼ばれている。
この「サブサハラ・アフリカ」が今回の主役というか、皆さんがイメージする「アフリカ」ですね。
私が去年まで駐在していたのが、アフリカ大陸最南端、南アフリカのヨハネスブルク支局。ここにNHKの支局ができたのが2014年で、それから4年間、初代の支局長をしていました。
まあ支局長と言っても特派員は1人だけの支局なんですけどね。
NHKの支局ってアフリカにはいくつあるんですか?
北部アフリカのエジプトにカイロ支局があります。でもサハラ砂漠以南、「サブサハラ・アフリカ」にある支局はヨハネスブルク支局だけです。
味田村さん、おひとりでアフリカのほぼ全域をカバーする感じだったんですか?
すごく大変そう。こんな広いアフリカを1人で担当って。
北部アフリカはエジプトのカイロ支局が担当するけど、それ以外のアフリカの国々のほとんどはヨハネスブルク支局が担当します。
アフリカは広いし、地域によって全然違うから、なるべく現地に入って取材するようにしていました。今回、数えてみたけど、アフリカ54か国中、36か国で取材したことがあります。
36か国も回られたんですか!
アフリカは遠いし、正直なじみがないのですが、アフリカの魅力ってどんなところですか?
アフリカと一言で言ってもね、こんなに広いでしょう。たくさんの国があって、それぞれ歴史も気候も全然違う。多様性に満ちているんですね。
そして、アフリカは今、大きく変わろうとしている。
そうなんですか?
非常に高い経済成長を遂げるようになって、世界各国がアフリカへの進出を競い合うような状況まで生まれているんです。
アフリカってすごく人が増えているイメージがあります。
そうだね。人口が増え続けていて、今は13億人ぐらい。で、国連のデータでは、30年後の2050年にはおよそ25億人と予測されているんだ。
現在は、世界の約6人に1人がアフリカ人なんだけど、30年後には4人に1人がアフリカ人になる。
多いですね…
この写真、どこの国だと思いますか?
えー、どこだろう…?
活気に満ちているよね。
タイとかにも似ていますよね。
これ、ナイジェリアなんです。
え? ナイジェリアなんですか。
ナイジェリアのラゴスという街です。
ナイジェリアはアフリカの中でも人口が急増している国のひとつなんだ。
今、世界の人口トップ3は中国、インド、アメリカだけど、2050年にはナイジェリアがアメリカを抜いて世界3位になるとされています。
そうなんですか。
日本は今、少子高齢化、人口減少が問題になっていますけど、アフリカは真逆。
特に若年層の人口が爆発的に増えているんです。これだけの巨大な市場は世界中のどこを見てもないので、大きな魅力ですよね。
確かにそうですね。
もうひとつの魅力が資源。アフリカは天然資源の宝庫なんですよ。石油や天然ガスもそうだし、鉱物資源も豊富でね。プラチナやダイヤモンドといった貴重な鉱物やレアメタルも産出します。
へえ~。すごい。
私、アフリカってタコのイメージなんです。タコがすごく好きなんですけど、スーパーで売っているタコって、モーリタ…なんでしたっけ?
モーリタニアですね。
モーリタニア産が多くて、どこにある国だろうと思ったらアフリカだったので、普段食べているタコはアフリカのタコだったんだなと。
魚介類もアフリカはよくとれますね。あとは何だろうな。
あ、チョコレート。
そうだね、ガーナチョコとかも有名ですよね。
アフリカにはこれだけ多くの魅力があるから、各国が進出を急いでいるんです。中でもアフリカ進出で圧倒的な存在感を発揮している国と言えば、どこだと思いますか?
中国…
そう、正解です。
アフリカについて調べているときに出てきました。
中国は莫大な資金を背景に、21世紀に入ってからすごい勢いでアフリカに進出するようになったんです。
具体的にはどんな狙いがあるんですか?
資源獲得がまずひとつ。それから巨大な市場に中国製品を売り込むという狙いもある。
あとは、各地にインフラ建設をしていて、それも大きなビジネスになっているし、その見返りにアフリカの国々を味方につけて国際的なプレゼンス(存在感)を高めたいという思惑もある。
アフリカを味方につけると有利なんですか?
アフリカの54か国というのは、193ある国連加盟国の4分の1強を占める多さです。国際会議や国際機関の選挙などは1国1票。
数がものをいう場では、アフリカの国々の動向は非常に重要で、味方になってくれれば有利になりますよね。
そういうことですか。
中国は軍事面でもアフリカへの関わりを強めていて、海外初の基地を東部アフリカのジブチに建設し、軍事拠点化を進めています。
そこまで進んでいるんですね。
中国に対しては、自国の利益を第一にアフリカに進出しているという批判もあってね。
アフリカの人たちは中国の進出について、経済発展につながると期待する一方で、警戒もしているというのが実態なんです。たとえばこれ。
ケニアの首都ナイロビとインド洋に面した港湾都市モンバサとの全長470キロ余りを結ぶ長距離鉄道。建設には3000億円以上かかった。
そんなに…。
その多くを中国が融資した。貸し付けたんですね。
いつか返せと?
そうなんです。ナイロビからモンバサ間は道路が悪くて、鉄道ができるまでは悪路をバスなどで行き来していたから事故も多かった。
鉄道ができて安全に往復できるようになったし、移動時間も短縮されたので中国を高く評価する声もある。一方で、これだけの額をケニア政府に貸し付けて本当に返せるのかと。
そうですよね…。
中国はこうした大規模なインフラ整備を各地で行い、アフリカの国々を借金漬けにしているという批判もあります。
アフリカはまだまだ財政状況が厳しい国が多くて、多額の返済は簡単ではないんだよ。
ほかにも問題はあるんですか?
あとは、安い中国製品が大量に入ってきて、地元の産業が大きな打撃を受けていることも問題になっています。
技術やノウハウをきちんとアフリカに移転せず「中国製品を持ち込むだけ」、「中国人労働者をつれてくるだけ」で「現地で雇用を生まない」などと批判されています。
でも、批判されるくらい、アフリカでは、中国の勢いがあるってことですよね?
そうだね。アフリカへ向かう飛行機には、ほんとに多くの中国人が乗っています。
アフリカには100万人を超える中国人が暮らしていると言われています。
すごい数ですね。
それに比べてアフリカで暮らす日本人は、おととしの海外在留邦人数調査統計では約8000人。
アフリカに進出している日系企業は、おととしの時点で745社です。中国は1万社とも言われているので全然違いますよね。
今までの話ですと、日本が中国に対抗するのは、結構大変な気がしますね。
中国だけじゃないんだよね。アフリカにはインドやトルコ、韓国もすでに進出していて、日本は出遅れているという指摘もあります。
そうした中で8月末に開かれるのが、日本が主導する「TICAD(ティカッド)」。
「TICAD(アフリカ開発会議)」
日本が主導するアフリカ開発、支援のための会議。1993年から2016年までに6回開かれた。ことし8月28日~30日、横浜で7回目のTICADが開かれる。
前回のTICADは2016年、初のアフリカ開催で、ケニアで開かれて、私も現地で取材しました。そのとき、取材班でルワンダのカガメ大統領にインタビューしたんですよ。
ルワンダ…。
ルワンダは1994年に80万人以上が虐殺された「ルワンダ虐殺」があった国なんだけど、現在はIT立国を目指して急速に経済成長しています。
カガメ大統領は、アフリカではとても影響力がある人なんだけど、そのときのインタビューで「日本はアフリカとの協力関係を強化することをためらっているようだ」とまで言われました。
結構はっきり言うんですね。
日本は世界3位の経済大国なんだから、もっとアフリカに関わってほしい、日本の進出は、アフリカ側からすると物足りないと。
“いろんな国に来てもらってアフリカの発展につなげたい”という、したたかな思惑も当然あると思うけどね。
TICADですが、この取材をするまで知らなかったのですが、そもそもどういうものなんですか?
TICADは日本のアフリカ外交の柱となる大きな国際会議です。アフリカ各国の首脳や国連関係者などが参加して、日本政府や日本の経済界のリーダーたちとアフリカの開発や支援について話し合います。
そもそもどういう経緯で始まったんですか?
TICADが始まった1993年は、冷戦が終結したばかりの時期。
アフリカって冷戦中は、東西陣営の勢力争いの最前線で、米ソなどがいろんな形で介入していたんだけど、冷戦が終わると同時にアフリカの重要性は低下していって国際社会の関心も失われてしまった。
まさにこうした時期に、アフリカに再び世界の関心を呼び戻そうと、日本が立ち上げたのがTICADなんです。
これまでの会議ではどんなことが決まったんですか?
主なもので言うと、2008年の第4回では、アフリカへのODA(政府開発援助)の倍増を発表。2016年の第6回は、官民合わせて300億ドルの投資を行う方針を表明しました。
TICADを立ち上げたときの日本の狙いとしては、アフリカの将来的な成長を見据えて、という感じだったんですか?
いや、当時はまだアフリカが成長の軌道に乗る前だったので、そうした狙いというより、貧困や紛争にあえぐアフリカに対して、日本が国際社会の一員としての責任を果たす、そのための支援という意味合いが強かったんです。
でも各国が関心を失う中で、実際に支援の枠組みを立ち上げたのは、先駆的だったんだよね。
対中国で、日本はもっとこうしたらいいのにと感じることってありますか?
中国ってインフラなどのハード面だけではなくて、ソフトパワーでも力を入れていて。
ソフトパワー?
アフリカでは今、中国語がブームなんです。中国政府の後押しもあって、アフリカの若者の間で中国語を勉強したいという機運がすごく高まっている。
そうなんですか。中国語ブームなんですか。
中国語を習おうとするとおのずと中国への関心も高まるでしょう。日本ももっとこうしたソフト面でのアプローチをする必要があると思います。
日本語を学べる施設を現地につくるとか、アニメとかでもいいんだけど、日本の魅力、日本の文化をもっと知ってもらう取り組みをすべきだと思います。