2019年08月27日
(聞き手:井山大我 工藤菜摘)
アフリカってどんなイメージですか? 野生動物、砂漠、貧困、紛争…。でも実は、21世紀に入って急速に発展しているんです。ただ、スマホを5つ持つ起業家がいる一方で、格差の拡大も深刻に。世界から熱い視線が注がれるアフリカで今、何が起きているのか。アフリカ大陸54か国中、36か国で取材経験を持つ味田村太郎デスクに1から聞きました。
実は、アフリカはデジタル面の発展も著しいんです。
デジタル面の発展…
アフリカってインフラが整っていないでしょう。固定電話なんてないんですよ。その、ないことを逆に生かしてというか、固定電話の技術の段階を飛び越えて、一気に携帯電話が普及していったんです。
先進国が一段一段のぼっていった技術発展の段階をすっ飛ばしているんだよね。
そうなんですか…!
この人は番組で取材したケニアの起業家なんだけど、携帯電話を5つも持っているんです。
えー! 5つもですか。
「これはこの企業に送金するための携帯」「これは別の企業」って、企業ごとに携帯を分けている。
携帯が銀行口座の代わりになっているんですね。
日本だったら「まず銀行口座を持たなければ」となるじゃないですか。その段階を飛び越してしまったと。
ケニアでは携帯電話の普及率が100%を超えている。電線も水道も通っていないサバンナでもどこでも携帯電話がつながるんです。太陽光で充電できる場所も多い。
すごいですね。それは知りませんでした。
それでね、ある革新的なサービスが始まったんです。
何ですか?
ケニアってほとんどの建物に正式な番地が割りふられていなくて、手紙や小包の配達がなかなかうまくいかなかった。そこで携帯電話を使ったあるうまい方法を考え出したんだけど、何だと思う?
えー…あ! GPSですか?
その通り。携帯電話のGPSを使って受取人がいるところに荷物を届けられるようになった。携帯が「住所」代わりになったんです。
このサービス、地元の起業家が立ち上げて、政府が郵便事業に導入して利用者が拡大しているんだけど、日本の会社が投資して支援しているんです。
日本でも宅配業者の人手不足とか、不在の家が多くて大変とか問題になっているから、このアイデアは使えるかもしれませんよね。
そうだよね。アフリカで生まれたビジネスが私たちの生活に大変革をもたらす可能性はありますよね。
不便だからこそ生まれるサービスってアフリカにはまだまだたくさんあって、ビジネスチャンスはどこにでもころがっている。先進国の人が思いもよらない斬新なアイデアが出てくるんです。
ほんとにそうですね。
日本も含めた海外からの新しいビジネスへの投資額は11億ドル(日本円で1200億円)を突破して、2015年からの3年で4倍に急増しています。
日本企業にもチャンスはたくさんあると。
もちろんです。資金力で張り合っても中国にはかなわないので、日本企業が存在感を発揮するには、質や創意工夫が重要になってくると思います。ターゲットをしぼって日本の良質な製品を届けるとかね。
私は今、名古屋放送局にいるんですが、愛知県にもアフリカで新たなビジネスを展開しようとしている企業があって。これ、何を配っているかわかりますか?
食べ物ですよね?
そうです。
穀物?
そんな感じ。ポン菓子ってわかる?
あ! ニンジンみたいな袋に入っているあれですか?
そうそう! 日本の昔ながらの駄菓子だよね。愛知でポン菓子を作っている中小企業が、ケニアに広めようとしているんです。
ポン菓子ってさまざまな穀物から作れるんだけど、アフリカの穀物を使って簡単な技術で栄養価が高いポン菓子を作る。
昔懐かしいポン菓子がアフリカで役立つなんて意外だけど、アイデア次第なんだよね。
まさに創意工夫ですね。
向こうのニーズに合わせて知恵を絞るというのが日本らしくていいですね。
日本で流通している、高品質だけどいろんなメンテナンスが必要ですというものは、そのままアフリカに持ち込んでも値段も高いし、メンテナンスの技術もないので難しい。
アフリカに合わせた形で工夫して、ちゃんとターゲットを絞ってやれば、日本企業には大きなチャンスがあると思います。
アフリカって経済発展を遂げる一方で、まだまだ影の部分もあって。この写真は、私がいた南アフリカのヨハネスブルクの新興商業地域です。建設ラッシュでビルが建ち並び、高級ブランド店なども続々と進出しています。
本当にこれアフリカかなと思うぐらいに都市化していて、豊かになっている人もたくさんいるんだけど、一方で、これも同じヨハネスブルクの写真です。
「プリーズヘルプ」って書いてありますね。
若者たちが道で物乞いをしているんです。この男性は25歳だったかな。農村部で食べられなくなってヨハネスブルクに来たけど仕事がない。
貧困と格差が広がって、自分ではもうどうしようもないと絶望感を訴えていました。これがアフリカの影の部分です。
差が激しいというか、一面だけではとらえきれないんですね。
そうですね。特に南アフリカの場合、「アパルトヘイト」という人種隔離政策が過去に行われていて、今も多くの黒人が経済的に厳しい状況に置かれている。
※「アパルトヘイト」…南アフリカで1991年まで続いた白人と有色人種とを差別する人種隔離政策。
輝かしい経済発展の裏で、格差が広がって貧困が続いている。南アフリカだけではなく、各国にこうした実態があるんです。
日本は具体的にはどんな支援をしているんですか?
さまざまな分野がありますね。まず、医療や保健衛生は日本が得意とする分野です。アフリカは基本的な保健医療体制が整っていない国が多くて、エボラ出血熱などさまざまな感染症や、まだHIV感染の問題も根強くあるので、支援が不可欠です。
あと日本は、人材育成にも力を入れています。TICADでも人材育成は大きなテーマなんですよ。
人材育成ですか。
アフリカでは若い世代の人口が急激に増えていると言ったけど、雇用の機会はあまり広がっていない。若者たちの働く場所がないんです。
若者たちが増えているのに仕事がなくて困っているんですか。
格差が広がると治安も悪くなりますよね。
そうですね、犯罪も多いし、さらに危険な事態も起きていて。
どういうことですか?
イスラム過激派などのテロ組織に取り込まれてしまう若者が後を絶たないんです。
ソマリアを拠点にしたアッシャバーブというイスラム過激派組織は、隣国ケニアにも越境攻撃を行ってきた。
テロですか…
ナイジェリアでも北部でボコ・ハラムというイスラム過激派組織が活発なテロを行っている。
貧困や失業に苦しむ若者たちにつけ込んで、過激派思想を植えつけたり、彼らをリクルートして、テロの戦闘員にするような事態も起きている。
深刻ですね…。
だから若者たちに技術を身につけさせて仕事に就けるようにする支援が急務なんです。
確かにそうですね。具体的にはどんなことをやっているんですか?
日本政府が今やっているのは、アフリカ各国の若者を日本に招いて、日本の大学に留学してもらったり、日本企業でインターンシップに参加してもらったりして、知識や技術を身につけてもらう取り組み。
あと、アフリカに進出した日本企業が現地で若者を雇って技術を伝えるということもやっている。
日本は中国みたいにインフラを整備したりはしていないんですか?
もちろんインフラもやっています。さっき話した中国が作ったケニアの鉄道。
その起点にあるモンバサ港は、日本政府がODA(政府開発援助)で拡張工事を支援しているんだけど、アフリカにとって非常に重要な港のひとつになっている。
高い技術力を生かした日本のインフラ開発は、現地の人たちにも高く評価されています。
そうなんですね。
あとは教育ですね。アフリカの子どもたちの教育の質を上げるために教師を育成したり、学校を整備したり、日本政府やJICAだけではなくて、さまざまな日本のNGOがそうした教育支援に取り組んでいます。
農業や漁業の分野でも、技術移転でアフリカの食糧自給率を高めることに力を入れています。
技術移転ですか。
アフリカって農業の生産性の低さが課題で。干ばつなどの影響で農産物を作れず食糧危機に陥ることもあるし、農産物を作っても、それを運んだり加工したりする手段や施設がなくて腐らせてしまうこともある。
そういう農業の仕組みづくりを日本が支援すると。中国は「労働者をつれてくるだけで技術移転しない」と批判されているというお話がありましたもんね。
そうですね。技術移転は持続的な成長に不可欠ですからね。
36か国取材されて、さっきエボラ出血熱の話も出ましたけど、そういう感染症とか犯罪とかで実際にひやっとした経験や危ない目にあったことってあるんですか?
南アフリカにいたときに、拳銃を持った集団に襲われそうになったことはあります。
えー! 怖い!
まじですか…
さっきも言ったけど、政情不安や貧困で治安が悪い地域はまだまだ多いのでね。日本企業の進出にはこうした安全面の問題をどうクリアするかもひとつ課題ですよね。
エボラ出血熱が流行している地域にも取材に行かれたんですか?
そうですね。西部アフリカのリベリアやシエラレオネにはエボラの取材で行きました。
感染したらどうしようとか私だったらすごく怖いんですけど、どんな対策をされたんですか?
2014年にエボラが大流行中のリベリアに行ったときは、地元の人たちも次々に感染して亡くなっているような状態だったんですけど、そうした中で人々がどんな暮らしをしているのかとか、どんな支援が必要なのかは、やはり現地を実際に取材しないとわからない。
どうしたら安全に取材できるか調べていたところ、ちょうど同じ時期に日本から感染症の専門家が行くことがわかったんです。当然、専門家なのでどこまで入っていいかとかよくわかっていますよね。だからその人に同行する形で現地に入って取材しました。
そういう危険があってもアフリカで取材を続けてこられた原動力ってどんなことなんですか?
そうですね。貧困とか格差とか多くの苦難はあるんだけど、アフリカの人たちって総じて非常に明るいんです。生きる力にあふれているというか。
私たちの想像なんて軽く飛び越えていくようなパワーを持っている。そういうところに惹きつけられてきたんだと思います。
生きる力ですか。なんかすごいことばですね。
あとは、取材で出会った現地の人たちのことばが忘れられなくてね。これはウガンダの難民キャンプで撮った写真なんだけど。
この子は7~8歳ぐらいだったけど、全く笑わず、ずっと無表情なんだよね。鋭い目つきでにらむだけで話そうともしない。戦闘で親と離れ離れになったり、親が殺されてしまったりした孤児の中にはこういう子がたくさんいる。
そうなんですか…。
話を聞かせてくれた子どもたちが、みんな口々に言っていたのが「学校に行って勉強してリーダーになりたい。祖国に平和をもたらしたい」ということでした。
この子たちのことを伝え続けていかなければならないと思いました。
お二人のような日本の若い人たちにも、素直な気持ちで、同世代の若者たちのパワーがあふれるアフリカに、もっと関心を持ってほしいなと思います。
実は昔、青年海外協力隊でアフリカに行って井戸を掘りたいと思っていた時期があったんです。
でもその後、あまりアフリカに触れる機会はなくて、きょうお話を聞くまで携帯電話を5つ持っているアフリカ人なんて想像もしていなかったので、ずいぶんイメージが変わりました。ただの遠い国のお話ではなく、親近感がわきました。
そうですか。よかったです。
日本にいると、なんか未来が暗いなあって思うんですけど、アフリカはすごく明るいなと、未来が。
そうだね。確かに明るいんだけど、一方でアフリカは今、岐路に立っていて、明るい希望の大陸に向かうのか、貧困・格差・混乱の暗い道を進むのか、今とても重要な時期なんです。
ちゃんと明るい未来をつかめるように、本当の意味でアフリカのためになる支援をしていかなければならない。日本を含め、各国の真価が問われていると思います。