目指せ!時事問題マスター

「まるわかりゴーン事件」経済影響は?

2019年03月01日
(聞き手:田嶋 あいか)

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“カリスマ経営者”と評価されていたゴーン元会長。

東京地検特捜部に逮捕されて以降、日産も大揺れとなりました。

学生リポーターの田嶋が、経済担当の神子田章博解説委員に経済的な影響、そして就活で押さえるべきポイントを聞きました。

神子田解説委員は経済部の記者時代に自動車業界を担当、ワシントンや北京の特派員も歴任。
よろしくお願いします!

ポイントは3つ

  • 1) どうなる日産の立て直し
  • 2) 日産・ルノー提携の行方は
  • 3) 教訓とすべきこと

学生
田嶋

まず、ゴーンさんの逮捕を、どう受け止めましたか?

自分の報酬を少なく記載したということでしたけど、ゴーンさんが自分のことを報酬に見合う人材だと思っているなら、たくさんもらってもいいから、きちんと明らかにすればよかったのにと思いました。なぜ少なく申告する必要があったのかなと。ゴーンさんという人は経営者としてはすごい人だったので。

神子田
解説委員

実際にお会いしたことはありますか?

経済部時代、日産の取材もしていました。記者会見にも行ったことがあって、新しい車を発表した後、ぶら下がりといって、記者が囲んで話を聞く機会があるのだけど、そこで話を聞いたり、あとは北京の特派員時代、中国に来たゴーンさんに直接インタビューしたこともあります。

そうなんですか!どんな人なんですか?

すごく頭が良くて、何を聞いてもテキパキと答える人でした。記者会見でも押し出しが強く、メッセージが明確。リーダーにふさわしいコミュニケーションをとる人だなと感じました。

あれだけコミュニケーション能力があるのだから、報酬についてきちんと説明して明らかにすればよかったのにと思うんです。彼が報酬を少なく記載していた時期というのは、日産の業績は良くなっているわけだし。

会社の業績とゴーンさんの報酬、関係があるのですか?

業績が良くなっているのだから、高い報酬をもらってもふさわしいと受け入れられたのではないかと思うんです。彼は、世界水準でいえば、報酬をもらいすぎているという感覚はなかったと思うんだけど、日本だとやっぱり「え?そんなにもらっているの?」みたいな。

従業員もそうだけど、取引先の部品メーカーとか、いろんな感情がわくので。「自分たちには少しでも安く部品を納めろと言っているのに、そこで稼いだ金で、そんなにもらっているのか」みたいな反発を買うので少なく発表していたのではないかと。

 

でも彼だったらちゃんと説明すれば理解してもらえたかもしれないのになと、そういう印象を持ちました。

1.どうなる日産の立て直し

今回の問題、なぜ今になって明らかになったのでしょうか?

それは、なぜ今まで明らかにならなかったのか?という話の裏返しだと思うけど、日産の西川社長が記者会見で話していたのは、ゴーンさんに権限が集中しすぎて、その周りで起きていることに対して、目が届かない状況、何か起きていてもわかりづらい状況になっていたということでした。

権限の集中ですか。

ルノーは日産の株式の43%を保有する大株主です。力関係で言うと、ルノーのほうが強い。そのトップと日産のトップを兼任しているということで、非常に強力な権限がありました。

どうしてそうなったのですか?

本来なら日産のトップとルノーのトップを兼任すること自体が適切かという議論をすべきでしたが、日産にとっては会社を立て直してくれた人。そうした功績をあげた人が、ルノーからも認められトップにつくのは自然な流れとして日産内では受け止められたんです。

でも今回の事件では、日産の関係者が自分も不正に関わっているけど、検察の捜査に協力する見返りに、自分の罪は軽くしてもらえる司法取引に合意したと聞きました。ということは内部通報があったのでしょうか?

ゴーンさんの不正について、一部知っている人はいて、最初はおそらくそこから内部通報があって、社内でゴーンさんに気づかれないように調べていったらわかったということだと思います。

なぜ会社の絶対的な権力者の不正を通報したのでしょうか?

詳しいことは捜査中だしわからないけど、やはりいくら会社を立て直してくれたゴーンさんであっても、こんなことは間違っていると感じている人はいたのではないかなと思います。

大きな反響がある事件に発展しましたが、日産は組織をどう立て直していくのでしょうか?

日産は第三者を交えた委員会をつくって、今後の経営のあり方を考えていくことにしています。

役員報酬の決め方も、NHKの取材ではゴーンさんがすべての取締役の報酬を一人で決めていたということなんですけど、東京証券取引所のガイドラインでは社外取締役を含めた外部の人が多数派を占めるような委員会をつくって、その委員会で客観的に決めましょうとなっているんですね。

このように報酬の決め方を変えていくとか、重要な意思決定をするときに経営者に過度に依存しない決め方をするにはどうしたらいいか。今回ルノーと日産のトップを兼任したことで権限が集中したわけですけど、それが良いのか?悪いのか?こういったことを第三者委員会で検討しているんですね。

2.日産・ルノー提携の行方は

日産とルノーの提携関係は、今後どうなるんですか?

スナールさんという人がゴーンさんの後任のルノーの会長になりましたが、まず最初のポイントは、このスナールさんが日産の取締役会でどんな役職につくかということです。

ルノーのスナール新会長

日産は4月に開く臨時の取締役会でスナールさんを取締役に迎え入れるのですが、どんな役職につくかはまだ決まっていない。

 

日産とルノー両方のトップを兼ねたことで権限集中が起きたのだから、同じようにしないほうがいいという意見もある。

ただ、日産とルノーの間には「日産の経営を担う会長などトップクラスの職にルノー出身を1人置く」という取り決めがあるんです。

トップクラスとは、どんなポジションなのでしょうか?

日産のトップかそれに準じる高い地位ということだと思います。

ルノーはスナールさんを、ゴーンさんと同じように日産の会長にしたいのですか?

うーん、それはまだはっきりとは聞こえてきていません。ただ、さっき言った取り決めをもとに、会長などのトップクラスのポジションにつきたいという意向がスナールさんにはあるようです。

逆に日産としては日本人を会長にしたいのですか?

いや、どうなんだろうな。日産出身の人をトップにしたいとは思うが、ゴーンさんのときだってルノーのトップを兼任する前は、日産の経営はかなりうまくいっていたわけだからね。

やはり兼任に問題があったということ?

そうですね。国も違うまったくの別会社のトップが1人に集中する難しさ。どこかでひずみが生まれるようなこともあったのかなと。

日産の西川社長

今回の事件を受けて、ルノーは日産との関係をもっと強めたいと考えているのか、弱めたいと考えているのか、どちらですか?

ルノーは事件の前から、日産との関係をもっと強めたいと思っていた。

日産は、たとえばアメリカの販売が強かったり、技術力でルノーにないものを持っている。実際、売上高や販売台数でもルノーを大きく上回っている。ルノーとしてはこうした日産の力を借りて経営を強化したいという思惑があるんです。

両社の関係を強化するとどんなメリットがあるのですか?

自動車の部品の共通化などですね。同じ部品を使うと、その部品をたくさん作るからスケールメリットでひとつひとつが安くなる。

 

あるいは電気自動車や自動運転技術といったコストがかかる研究開発に2社で金を出し合うと負担が減るということもある。

 

ルノーとしては、こうした都合のいい提携関係を強めたい、後戻りさせたくない。それは事件を受けても変わっていません。

日産側はこの提携関係についてどう思っているのですか?

産からすれば、自分たちのほうが技術力も販売力もあるのに、ルノーに支配されている。

 

もう少し自分たちの好きなようにやらせてくれてもいいのではないかという思いをずっと抱えてきたんです。

今後の展開によって日本とフランスの関係が悪化してしまうという可能性はあるのですか?

フランスのマクロン大統領

フランス政府はルノーの大株主で、今回の事件でもルノーにいろいろ口出しをしていました。さらに、日本政府に対しては、日産とルノーを経営統合させたいという意向も伝えてきています。

 

しかし、日本政府は、日産の株式を持っているわけでもないし、民間企業のことには口出ししないという立場なんですね。

日本政府がこの事件で日産に何か言ったりしないのはそれでなんですね。

そうなんです。だからフランス政府がいくら2社の経営統合を望んでも、口出ししないという立場を変えることはない。いわばスタンスが違うということなので、関係の悪化につながるようなことにはならないと思います。

3.教訓とすべきこと

この事件が日本経済に与える影響を教えてください。

そうですね。日産車に欠陥があるとかそういう話とは性質が違うので、車が信頼を失って売り上げが落ちることにはならないと思います。

 

ただ、もし仮にルノーとの関係が悪化するようなことにでもなれば、日産の経営にも影響が出るだろうし、2社の提携関係は今後もやはり注目して見ていく必要があります。

ほかにはありますか?

例えばの話ですが、「こんなことで逮捕されて、何日も勾留されるような国には経営者として行きたくない」という印象を持った外国人の経営者がいるかもしれない。

日本の印象が悪くなったということですか?

報酬を堂々ともらえる国のほうがいいと思うかもしれないということです。外国人経営者のなり手が減るのではないかという懸念は実際に耳にしたことがあります。

企業が教訓とすべきことは?

そうですね。強いリーダーシップの外国人経営者がやってきて、強大な権限を持って暴走した…そのとき、どうしたらいいのか、日本企業は考えておかないといけない。

 

また、企業の情報開示にどう透明性を持たせるかという点でも大きな課題を残したと思います。

今、グローバルな企業が増えていますが、就職活動という目線で、企業選びの教訓にすべきことはありますか?

日産とルノーの関係がどうなるかはまだわからないですが、企業と企業の関係は永遠ではないということは頭に入れておいたほうがいいですね。

 

例えばこの会社はアメリカの会社と提携しているから、アメリカで仕事ができるとか、確かに提携していればそういう機会はあるけど、あっさり関係を解消してしまうこともある。

 

いつ何が起きるかわからないのがビジネスの世界です。悔いのない企業選びをしてください。

ありがとうございました!

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