2023年03月30日
(聞き手:黒田光太郎 佐藤巴南 堀祐理)
年々、深刻さを増す「少子化」。これは日本だけでなく、先進国の多くが抱えている問題なんだそう。諸課題を解決していくためのヒントについて、長年、取材を続けている山本恵子解説委員に聞きました。
日本以外の国でも、少子化は深刻なのでしょうか。
そうですね。いま、先進国の多くが直面している問題となっています。
その中でも日本の少子化の状況は韓国やイタリアとならんで深刻です。
特に韓国はOECD(経済協力開発機構)の加盟国の中で、唯一、出生率が1を下回っています。
そんなに深刻な状況なんですね。
一方、いったん落ち込んだ出生率が回復している国もあるんです。
上のグラフをみてもらうと分かるんですが、1980年ごろまでは各国とも出生率が下がり、大きな差はありません。
しかし、その後、フランスやスウェーデンでは、国の政策のもとで出生率を回復させてきました。
さらに、近年、少子化対策に、てこ入れを行ったドイツにおいても回復傾向が見られています。
教えてくれるのは山本恵子解説委員。1995年に記者としてNHKに入局。社会部などで20年以上に渡り少子化問題の取材を続けている。現在は名古屋放送局のニュースデスクと解説委員(ジェンダー・男女共同参画担当)を兼務。中学生の娘の母。
希望が見えてきそうですが、そうした国々では、具体的にどのような対策がとられてきたんですか?
日本に比べて手当などの支援が手厚いということが前提にあります。
加えて、子育てと仕事の「両立支援」を進めてきたのがポイントだと考えています。
両立支援ですか?
男女ともに育児や家事とキャリアの両立ができるよう、育児休業制度や保育制度の充実といったさまざまな環境整備を進めてきたということです。
先進国では男女の格差、いわゆるジェンダーギャップが少ないほど出生率が高いという分析結果も出ています。
日本は男女間の格差を示す「ジェンダーギャップ指数」が2022年で146カ国中116位でした。
ジェンダーギャップ指数
世界各国の男女間の格差を可視化したもので、世界経済フォーラムが「経済」「教育」「健康」「政治」の4分野のデータから作成し公表している。0が完全不平等、1が完全平等を示す。2022年の日本の総合スコアは0.650で、教育や健康の順位は高い一方で、政治や経済が低い。
韓国は99位、イタリアは63位です。
一方、先ほど出生率の高い国として紹介したスウェーデンのジェンダーギャップ指数は5位、ドイツは10位、フランスは15位となっているんですね。
こちらは出生率とジェンダーギャップ指数の相関関係を表したデータです。
先進国ではジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率との間に正の相関関係がみられる(なお、因果関係の有無は分からない)としている
ジェンダーギャップ指数が高い国ほど、つまり男女平等な国ほど、出生率が高い傾向にあることが見て取れます。
そうなんですね!
また、こちらは6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児にかける時間を比べた図になります。
日本は男性が1日あたり1時間23分で、女性が7時間34分。
ほかの国と比べても突出して男性が家事・育児にかける時間が少なくて、その分、女性の時間が多いですよね。
こんなに男性と女性と違うんですね。
ジェンダーギャップが少ない国ほど、男女で家事・育児時間に差が少なく、そうした国では出生率も高い傾向にあるんです。
さらに、日本でも夫が休日に家事・育児をする時間が長くなるほど、夫婦が第2子以降を持つ割合が高くなる傾向があることもわかってきているんです。
わかるような気がします。
「男は仕事、女は家事育児」という意識や制度をもっともっと変えて、男女ともに子育てや仕事もできる環境を作っていけるかどうか。
私はこの「男性の家庭進出」が少子化を改善する1つの鍵だと考えています。
家庭に進出する…もう少し詳しく聞かせてください。
日本の、この30年間の少子化対策を振り返ってみると「女性が仕事と家事・育児を両立する支援」とか「女性が子どもを産み育てやすい社会」とか、女性を主語にしたものが多いんですよね。
つまり、子育ては女性がする前提があるわけですよね。
確かに…。
だから、その主語を「男性が家事・育児をする権利」とか「男性が育児休業を取りやすくするための制度」とか、男性に変えていかないといけないと思っているんです。
今まで、その視点が抜けてることが、少子化対策がうまく行っていない1つの原因だと私は考えています。
ですから、男性が当たり前により積極的に子育てできる環境を整えていくことが、岸田首相が掲げている「次元の異なる少子化対策」につながるのではないかと思っています。
実際にそうなれば、女性が子育てのためにキャリアを諦めないといけないということも減って、家庭としての収入も増えるので、経済的な不安をやわらげることにもつながると思います。
なるほど・・・。
でも、これって、子どもを持つ父親に、もっと家事・育児も頑張れ!って言うだけでは進みません。
子育て世代にあたる30代や40代って、一番、長時間の労働をしているのが日本の現状なんです。
「働き方改革」が進んで改善してきてはいますが、それでもまだ30代や40代の1割以上が週60時間以上働いているんですね。
男性が長時間労働している割合も、日本はフランスやドイツなどと比べて非常に高いです。
そうすると、父親が家事・育児に関わりたくてもできない現状もあるわけです。
働き方にも原因があるんですね。
なので男性が家で家事育児をしやすくするためにも、定時に帰れる働き方を推奨するとか。
「少子化対策に企業が力を入れることは賛成だけど、目の前の男性が育休取ることは反対」みたいな意識をなくしていくとか。
スウェーデンなどの北欧では家事や育児に関われないと、“自分の権利を害されている”といって怒る男性もいるそうです。
男女ともに、仕事だけではなく家事や育児をしながら生活を送る権利があるという意識ですよね。
次元の異なる少子化対策には、こうした“次元の異なるマインドチェンジ”も必要だと思います。
岸田総理大臣は3月17日の記者会見で、育児休業制度を抜本的に見直す方針を表明。社会構造や意識を変えるため、男性の育児休業取得率の目標を2025年度は50%、2030年度は85%に引き上げると明らかにしました。
また政府は、育児休業給付金の水準を引き上げる方針のほか、児童手当の拡充についても検討を進めています。
日本でもできるでしょうか?
いきなりは難しいと思いますが、対策や制度に加え、こうした意識についても、いまの現状に合わせた「令和」モデルにアップデートしていく必要があると思いますね。
そのアップデートのために私たちにできることってありますか?
こうしたことが大切になってきます。
「おかしい」と思うことに声を上げる。そして、“わきまえず”、“空気読まず”世の中を変えていく・・・。
そう。日本の社会で暮らしていると、まだまだいろいろな場面で「なんでこれ女性だけ?」とか「男性だけ?」って思うことがありますよね。
そういう時に、「仕方ないか」とか、「これは言わないほうがいいな」って思わずに。
“わきまえず”、そして“空気を読まず”声を上げていくことが世の中を変えていくことになると私は考えています。
一緒に世の中を変えていきましょう!
おかしいな、と感じたことをそのままにしておかないということですね。
目の前の小さなことに対しても、1つ1つ、意見を言っていくことが大事だと思います。
例えば、私はよく言うのですが、会議は夕方や夜じゃなくて昼間にやりましょう、とかね。
小さいことですが、1個ずつやってくと、それが当たり前になって、みんなが生きやすい、過ごしやすい社会につながっていくと思います。
これからの社会を作るみなさんが、「こうあってほしい」と世の中に変えていくことが、広い意味で、少子化対策につながっていくんだと思います。
ありがとうございました!
撮影:藤原こと子 編集:岡谷宏基
※少子化対策について、NHKの解説委員が詳しく解説する「ニュースなるほどゼミ」の番組ホームページはこちら。
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