2022年07月04日
(聞き手:小野口愛梨 田嶋瑞貴)
毎年のように日本に近づき、時には大きな被害をもたらす台風。そもそもどうして発生するの?なんで同じような時期にくるの?ハリケーンやサイクロンとどう違うの?台風にまつわる気になるギモンについて1から解説します。
学生
小野口
台風ってどうしていつも日本を目がけるようにして北に進んでくるんですか?
日本って世界的に見ても、台風が近づきやすい国なんです。
島川
デスク
それは、台風のできやすい場所が日本の南の海上にあるということと、コースがちょうど日本の上に来やすいという2つの要因があるからです。
学生
田嶋
日本に近づきやすいのは理由があるんでしょうか?
もちろん、台風に意思があって「日本に向かっていこう」と決めているわけではありません。
台風は、主にまわりの風の影響を受けて動いているんです。
日本付近に来る台風は、太平洋高気圧や偏西風の影響を受けています。
教えてくれるのは、社会部災害担当(取材当時)の島川英介デスク。2013年にフィリピンで起きた台風被害をきっかけに継続的に台風の被災地や研究機関の取材を行ってきた台風取材のスペシャリストです。
太平洋高気圧は季節によって、張り出す程度が変わります。
夏は日本を覆っているけど秋が近づくにつれてだんだんと東に退いていくんです。
するとそこに台風の通り道ができる。
なるほど。
そうです。
台風が日本に来るかどうかは太平洋高気圧や偏西風の状況しだいともいえ、気象庁の予報官がそれを必死に分析している、というわけです。
台風はどうやって生まれるんですか?
海で生まれるイメージがありますが…。
そうですね。赤道付近の海上で発生します。
台風が生まれるのには大きく分けて2つ、条件があるんですね。
まずは、海水温が高いこと。
あと、台風は渦を巻いていますよね。あの渦は突然できるわけではなく、きっかけとなる風が必要です。
「海」と「大気」、この2つの条件がそろっていることが必要なんです。
それに適しているのが、赤道付近だということですか?
そう。日本の南に広がる太平洋の赤道付近は海水温が年中高い。
台風が発生したり、発達したりするには、だいたい海面の水温が27度以上であることが必要だと言われています。
だから、北極海で突然、台風が生まれることはないわけなんです。
なるほど。
赤道付近では、どういう仕組みで台風が発生するのですか?
図を使ってわかりやすく説明しますね。
暖かい海の水面では、たくさんの水が水蒸気になります。
水蒸気は上昇する過程で水滴になり、雲を作る。
雲の中では上昇気流が生まれます。
こうして強い上昇気流によって発達した雲を『積乱雲』といい、この『積乱雲』がたくさん集まったところに渦がまくと、台風へと成長していくんです。
どうやって強くなるんですか?
台風は例えると、海から水蒸気というガソリンをもらって自分をぐるぐる回転させ、エネルギーを発生させるエンジンです。
気体が液体に変わるとき、つまり、水蒸気が水滴になる際には熱が生まれます。
この熱がまわりの空気を暖め、上昇気流をより強めるんです。
海のエネルギーが台風に与えられた、とみることもできます。
こうして下から上へとエネルギーが循環し、暖かい海からさらにエネルギーをもらうことで、台風がさらに強くなっていきます。
へー。
「ウォームコア(暖気核)」と呼ばれる中心部分には暖かい空気がどんどん集まっていき、そこを中心に風が渦を巻くような形になっていきます。
空気が暖かくなると気圧は下がります。
つまり、中心部分の気圧が低ければ低いほど、台風は熱をどんどん生み出して、強くなっていくということなんです。
例えるなら台風は非常に効率のいいエンジン、ということもできるんです。
なるほど。
この気圧を示す単位が、「ヘクトパスカル(hPa)」です。
台風のニュースでよく耳にしますね。
気圧って、ごく簡単にいうと、自分の上にのっている空気の重さのようなものです。
晴れているときの気圧は、だいたい1000~1010hPaくらいです
これが台風の中心だと960hPaとかになるんです。
台風って、海からエネルギーを得るということは、際限なく強くなっていけるということですか?
良いところに気が付きましたね。
実は、理論的にこれ以上は強くならない、という限界があるんです。
いまのところ記録に残っている一番強い台風は、昭和54年(1979年)の台風20号で中心の気圧が870hPaでした。
それ以上、強い台風が観測されていないのはどうしてですか?
台風が強くなると、地上付近では風が強くなりますよね。
そうすると海上では、波が立ちます。
こうした波はぐるぐるまわりながら強くなる台風にとって、抵抗になるんですよ。
強くなる動きを妨げるということですか。
そう。台風の成長限界とも言えます。
それから台風の発達には暖かい海水が必要だと言いましたが、北上していくにつれて海水温が低くなっていきますので、エネルギー源がだんだんなくなって勢力が衰えていきます。
あとは上陸した場合も、海からのエネルギーが補給できなくなるので弱くなります。
なるほど。
ほかにも、まわりの風の影響を受け、台風の渦がきれいにできなくなる場合もあります。
このように、地球にはさまざまな状況があり、どこかで台風は弱まっていくんです
よく海外のニュースで「ハリケーン」や「サイクロン」って聞きますけど、台風と何が違うんですか?
台風もハリケーンもサイクロンも、基本的には同じ性質のものです。“熱帯低気圧”と言われます。
それなのに、どうして呼び名が違うんですか?
地域ごとに決められているからですね。
インドとかオーストラリアのあたりは「サイクロン」と呼んでいます。南半球では渦の巻き方が逆です。
東経180度から東は「ハリケーン」。
これが日本では「台風」と呼ばれているわけです。
アメリカで生まれたハリケーンが、東経180度を越えると台風になるっていうこともまれにあります。
知りませんでした!
世界では毎年どれくらい台風が発生しているんですか?
ここ30年くらいを平均すると、毎年80から90個くらいです。
実は、世界全体で発生している台風などの熱帯低気圧の数は、毎年、そんなに変わらないんです。
なんでですか?
そこは、台風の謎のひとつで、解明されていません。
2倍とか、3分の1とか、ばらつきがあってもいいように思うんですけど、なぜか全体でみるとそこまでは差がないんです。
台風のメカニズムってわりとわかっているような感じがするんですが、実は、わかっていないことがものすごくあります。
意外です。
ほかには、どんなことがわかっていないんですか?
台風の予報は進路と強さの2つがありますが、たまにあるのが、一晩で急に強くなっていた、ということです。
確かに、夜寝る前と翌朝起きた時とで、予報がかなり変わっていたことがあったような気がします。
先ほど台風が生まれる仕組みについて説明しましたが、実は、台風が急速に発達する詳しいメカニズムは、まだ十分にはわかっていないんです。
だから、一夜にして、予報ががらりと変わったりすることがあるんです。
そうなんですね。
近年、日本に大きな被害をもたらす台風が相次いでいます。台風の勢力が昔と比べて強くなっているって本当?次回、詳しく解説します。
編集:岡野宏美 撮影:梶原龍
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