2022年10月05日
(聞き手:小野口愛梨 田嶋瑞貴)
台風の予報が少しずつずれていくことがあるのはどうして?…最新の研究はどこまで進んでいるの?気になるギモンについて1から聞きました。将来的には台風そのものを消せる可能性も!?
学生
小野口
天気予報を見ていると、何日か前の予報と比べると台風の進路がずれていることがありますよね。
正確な予報ってやっぱり難しいんですか?
風などのまわりの環境によって大きく進路が変わるので予報が難しいんですよね。
島川
デスク
年々、改善はされていますが…。
教えてくれるのは、社会部災害担当(取材当時)の島川英介デスク。2013年にフィリピンで台風被害を取材して以降、継続的に被災地や研究機関を取材。災害報道のスペシャリストです。
台風の進路図の予報円ってみんな見たことあると思うんですが…。
もちろん、あります。
これ、たまに、見方を間違えている方がいるんです。
これは、2019年の台風19号の進路図なんですが、現在の台風の位置があって、その上に黄色く描かれた円がありますよね。
これって何かわかりますか?
予想される台風の進路、ですよね。
そうです。
よく誤解されるんですが、予報円が大きくなっているからといって、台風が大きくなるという意味ではないんです。
言われてみると、なんとなくそう思い込んでいたかも…
この円の中のどこかに、台風の中心がおさまりますよってことなんです。
円の端っこを中心が通ることもあるんですか?
そのとおりです。
1日後よりも3日後の場所のほうが予測が難しいから、誤差が大きくなる。
なるほど。ちなみに赤く描かれた円はどういう意味があるんですか?
台風が黄色い点線で描かれた予報円内を進んだ場合に暴風域に入る可能性がある範囲を指しています。
そういうことなんですね!
いまは、スーパーコンピューターの性能もよくなったので、進路の予報はだいぶ改善されています。
だから、今の天気予報の予報円って、3日先の誤差は20年前のおおおむね半分になっているんです。
そうなんですね。
ただ、台風の強度の予報精度にはまだ誤差があり、前日より大幅に強くなってしまう場合が起きています。台風のメカニズムにはまだ分かっていないことも多いからです。
このため、予報の精度を改善するためのさまざまな研究や調査が行われています。
わたしも2017年に行われた研究グループの調査に同行させてもらったことがあるんですが、このときに、台風の目の真上を飛ぶという大変貴重な体験をしました。
台風の真上!?
そのときに撮影した画像がこちらです。
すごい写真ですね!雲のない部分があります。
そう。これが台風の目ですね。
この台風の目の部分や、周りの雲の部分に、センサーが入っている白い筒を落として、気圧や風速などのデータをとっていくんです。
より正確なデータを集めることで、予報の改善などにつなげていこうという取り組みだったのですが。
この台風、実は直前まで「スーパー台風」だったんです。
危なくなかったんですか?
もちろん、積乱雲の中に入れば機体がバラバラになってしまいます。
ですから最初は、台風の目の上まで行く予定なんてなかったんです。
ただ、ちょうど雲の切れ間があってそこから安全に行けるんじゃないかいうことを専門家とパイロットがレーダーを見て判断し、突入を決断したんです。
この距離で真上から見たり、撮影したりなんていうのは、めったにできるものではないので同行した研究者の間でも歓声があがったのを覚えています。
当時、どんな感想を持ったんですか?
ご覧のとおり、すごくきれいなんですけど、すぐ下では暴風や大雨となっていることを考えると、ちょっと見てはいけないものを見ているような感じもありましたね。
台風って、科学技術で消したり、進路を変えたりできないものなんでしょうか?
実例はまだありませんが、最近、そういう研究が日本で始まろうとしています。
2021年に横浜国立大学の中に「台風科学技術研究センター」という台風を専門に研究する機関が発足したんですが、そこでは、台風の予測のほかにも「台風エネルギーの活用」とか「台風の制御」ということが研究テーマに掲げられています。
どんな方法を使うんですか?
これはまだ専門家の試算ですが、将来の実用化が期待されている水素エンジンを積んだ航空機が台風の上空を飛行し、上から大量の水をまくという手法も考えられています。
空から水をまく?
台風の上部にある雲が水を含むため、その重さで雲の位置が低くなるんですね。
そうすると、積乱雲の発達が抑えられるため、勢力が弱くなるというメカニズムです。
あくまでシミュレーション上ですが、中心の気圧を15ヘクトパスカル上げる=弱くすることができるという結果ができるという結果が出ています。
平均風速にすると、6~9メートルくらい弱まる、というイメージです。
へ~。
また、台風は暖かい海からの水蒸気をエネルギーとして発達します。
なので、台風の進路にあたる海をかき混ぜて、海面の水温を下げることで、台風の発達を抑えられるのでないかという研究もあります。
すごいですね。
このほか、台風の力をエネルギーとして利用しようという研究もあります。
平均的なハリケーンの例として水蒸気が凝結してできる(=台風ができる)のに必要なエネルギーが世界の発電容量の200倍に相当するという試算もあります。※出典:アメリカ海洋大気庁
そんなに!?
ただ、こういった研究を進める上では、多くの課題もあります。
たとえば、このように、人為的に台風の強さを制御すると、台風の性質そのものを変えてしまい、当初向かわないはずだった方向へ進んでしまうおそれも指摘されています。
思わぬ方向に台風が行ってしまうかもしれないということ?
そう。ほかにも、海水温を人為的に下げることが、環境破壊につながるんじゃないかという指摘もあるなど、こういった研究を進めることについて、慎重な意見もあるんです。
なるほど…。
スーパー台風クラスの台風が直撃するようになると、ハードだけでは防ぎきれない側面もあります。
なので、こうした研究の成果には期待したいところですが、実用化はまだまだ先のことになりそうです。
台風が近づいてくるというとき、私たちは特にどのようなことに気をつけるべきですか?
台風って暴風や大雨だけでなく、竜巻や雷、高潮、高波
といったさまざまな災害をもたらすものです。
本当に強い台風だと、暴風で自転車のような重さがあるものでも飛んでしまいますし、傘や雑誌などの軽いものでも凶器になり得ます。
飛んだ物がぶつかって家の窓ガラスが割れる。
そうすると、空気が上に抜けようとするので、木造の家屋では屋根が飛ばされてしまうこともあり得ます。
怖いです…。
こうした状況になる前にあらかじめ避難するということが大切です。
タイムラインと言いますが、上陸の1日前、2日前、3日前にどういう状況になるかを想定して、やることを決めておく。
避難するなら、いつまでに準備しないといけないとか、移動の予定をずらすとか、自分なりにイメージしておくことです。
その上で、暴風域に入ることが予想されている時間帯には、安全な場所から出ない方が良いです。
最近は、前もって電車の運休や店舗の休業が決まったりしているケースが増えてきた感じがします。
予報の精度が上がったことで、影響が大きくなりそうな時間帯が、ある程度わかるようになりましたからね。
あとは、大きな被害が相次いでいることもあって、いまは社会活動を止めても台風に備えようという方向に向かっていますよね。
たしかに。
台風から自分たちの身を守る上では、「台風の顔を知る」ことが大切です。
台風の顔?
先ほども言いましたが、台風は、暴風、大雨、高潮、高波、竜巻といったさまざまな災害をもたらします。
これらの中の、どの部分に重点的に気を付ける必要があるのかは、台風によって全然変わってきます。
だから、これから来る台風は雨が長く降るとか、急激に風が強まるとか、ニュースなどを通じて自分が気をつけるべきポイントを抑えておくことがとても大切です。
なるほど。どんな台風なのかを「知る」ことが大切なんですね。
これから台風のニュースの見方が変わる気がします。ありがとうございました。
撮影:梶原龍 編集:岡野宏美
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