わかりやすい「選挙広報誌」を独自に作成

知的障害のある方たちが選挙に参加しやすくなるよう、札幌市長選挙で新たな取り組みが行われました。札幌の福祉団体が候補者の政策を紹介する独自の「選挙広報誌」を作成。選挙管理委員会が各世帯に配る選挙公報をもっとわかりやすくしました。

(札幌放送局 三藤紫乃記者)

選挙公報が「壁」に

札幌市に住む那須亮太さん(26)は、投票には毎回欠かさず行っています。

候補者を知って投票先を選びたいと考えている那須さんですが、漢字が並ぶ選挙公報が「壁」になってきました。

那須亮太さんの話
「すんなり入ってきませんね。文字が多すぎる…」

知的障害者の福祉団体「手をつなぐ育成会」は、多くの知的障害者やその家族から同じような訴えを耳にしてきました。

札幌市手をつなぐ育成会 深宮しのぶ事務局長の話
「『公』のほうの広報誌(選挙公報)は文字が小さくルビも振っていない。『情報量が多くて、なかなか子どもたちにはすごく伝わりづらいよね』という声は、団体の中であがっていました」

背景には法律のハードルが…

候補者の訴えを知るための選挙公報。

文字の大きさや漢字にふりがなをつけるなど、発行する自治体側がわかりやすく工夫することはできないのでしょうか。

そこには法律のハードルがありました。札幌市選挙管理委員会に尋ねると…。

札幌市選挙管理委員会事務局 木村真治選挙課長(取材当時)の話
「選挙公報というのは選挙運動の1つで、それをどういうふうに書くか、どういった人たちをターゲットに訴えていくかということも含めて、候補者の自由になっている。選挙管理委員会のほうでそれを要約してだとか、解釈をつけてだとか、そういった形での発行はできないんです」

選挙公報をわかりやすくしたい

知的障害者にもわかりやすい選挙公報を。

団体は各候補者に協力を呼びかけ、会員向けに政策を紹介する独自の「選挙広報誌」を作ることにしました。

札幌市手をつなぐ育成会 深宮しのぶ事務局長の話
「漢字が読めない方がいらっしゃるので、漢字にルビを振っていただけると大変助かります」

障害者に関わる政策に絞ってわかりやすいことばで紹介するよう依頼。正式な選挙公報に準じて、回答はそのまま掲載することにしました。

依頼から3週間後、集まった回答を手作業でとじていきました。

独自の「選挙広報誌」完成 そして…

そして完成した「わかりやすい選挙広報誌」。

発行の締め切りより前に立候補を表明した、2人の訴えをまとめました。

大きな文字で、すべての漢字にふりがなが振ってあります。

障害者に関する政策への立場や、どのようなまちづくりを目指しているかもわかります。

選挙公報が「壁」になっていた那須さんにみてもらうと…。

「ふりがなが振ってある」

読みやすくなったかという問いかけに、うなずいていました。

初めて取り組んだ手作りの「選挙広報誌」。団体は手応えを感じています。

札幌市手をつなぐ育成会 深宮しのぶ事務局長の話
「すべての選挙に対して広報誌が私たちのほうで出せるというのが理想だと思っているので、なるべくそれに近づけるように今後も考えていきたい」

深宮さんは、作成にあたり法律との兼ね合いにいちばん気を遣ったとしています。特定の候補者に有利にならないようにまとめること。正式な選挙公報とは違うことをはっきりさせるために告示日の前までに配り終えるなど、配慮したということです。

誰に投票するのか、みんなが納得して判断できるようにするため、行政側にも、候補者自身にももう一歩、分かりやすい発信に取り組んでほしいと思います。

なにより、私たちも選挙をわかりやすく伝える努力をしていきたいと思います。

札幌放送局 三藤紫乃記者

2023年4月19日放送

【動画】“もっとわかりやすく”独自の選挙公報誌
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