自宅に届いたタクシー券を使って投票所へ(兵庫県南あわじ市など)

歩くのが難しい人たちが投票に行きやすくなるよう、投票所までタクシーで送迎する取り組みが各地で進められています。

(ネットワーク報道部記者 池田侑太郎)

投票日にタクシー送迎

兵庫県南あわじ市が行うのは、投票日の移動支援です。

淡路島の南部で海と山に囲まれており、市内を循環するコミュニティーバスは、最寄りの停留所まで移動に時間がかかる場合もあるといいます。

「選挙の投票に行きたくても、移動の手段がなくて困っている人がいるのではないか」

市は2021年、投票所までタクシーで無料送迎する支援策を導入しました。

利用できるのは、障害や病気、けがなどで歩くのが難しい人たち。

身体障害者手帳を持っているか、要介護の認定を受けているか。また、自力で歩くことが難しいか、などを事前に申請書に記入してもらいます。

そのうえで、選挙管理委員会が利用できると認めれば、投票所の入場券といっしょにタクシーの利用券を自宅まで送ります。

投票日には、利用者が自分でタクシーを予約。運転手に利用券を見せれば、自宅と投票所を無料で往復してもらえます。

歩けなくても投票したい

島で暮らす池本秀雄さん(89)。

2年半ほど前に体調を崩してからは自力で歩くことは難しく、家でも車いすで生活しています。

外出するのは月に1度の通院くらい。それでも選挙には毎回欠かさず、参加してきたといいます。

池本秀雄さんの話
「車いすのまま移動するので、公共交通機関の利用は難しい。でも、権利をちゃんと行使したいので、選挙があれば投票に行くと決めている。特に自分たちの生活により近い県議会議員や市議会議員を選ぶ選挙にはぜひ参加したい」

これまでは、みずからタクシー料金を負担していたため、往復で2500円ほどかかっていたといいます。

友人から市が始めた移動支援について教えてもらい、2022年7月、はじめて利用しました。

利用の流れは

池本さんは車いすで移動するため、投票所には介護タクシーを予約します。

前回の選挙では、妻の清子さん(88)もいっしょに乗って行きました。事前に申請すれば付き添いの人も同乗が認められています。

投票所では事務責任者が投票に来たことを確認し、利用券に署名します。

タクシーは投票が終わるまで待機し、帰りも自宅まで送り届けます。

利用券をもとにタクシー会社が市に料金を請求するため、投票者が料金を立て替えたりする必要はありません。

池本さんは、統一地方選挙でもこの制度を利用して、1票を投じたいとしています。

池本秀雄さんの話
「リハビリは続けていますが、歩けるようにはならないと思います。でも、無料で送迎して投票に行かせてくれるんだったら、これからも100%投票に行きます」

利用者が増えてほしい

市の選挙管理委員会によりますと、利用者が少ないのが課題だといいます。

2022年7月の参院選での利用は、池本さんを含めて2件のみ。より多くの人に制度を知ってもらう必要があるとしています。

南あわじ市選挙管理委員会 書記長の榎本新さんの話
「まだまだ利用が少ない状況なのですが、市のホームページや広報、選挙時の啓発チラシなどで、さらに周知していければと思っています。投票に行きたいけれども手段がないという人は、ぜひ制度を利用して選挙に参加してもらえたら」

期日前投票で

タクシーで投票所まで送迎する移動支援の制度は、全国で広がりをみせています。

栃木県下野市では、期日前投票で実施しています。

選挙当日であれば、投票所が比較的、自宅から近い場所に設けられることが多いものの、期日前投票では投票できる場所が限られているためです。

以前は期日前投票所まで巡回バスを利用してもらっていましたが、より個人に合わせた移動支援を行おうと、タクシーで送迎することにしました。

対象は、要介護認定を受けている人、障害者手帳を持っている人、家から投票所までの距離が1kmを超える人です。

申請書を事前に市の選挙管理委員会に提出し、認められればタクシー券が入場券と共に自宅に送られてきます。

誰でもタクシーで投票へ

さらに愛媛県東温市では、選挙当日、すべての有権者を対象にタクシーでの移動支援が行われています。

対象を限定しないのは、妊娠中の人や自家用車を持たない人など、自力で投票所に行くことが難しいさまざまな理由に対応するためだとしています。

利用者は、投票日当日に市が指定するタクシー会社に直接、電話で予約をし、投票で利用したいと伝えます。

市が借り上げたタクシーを利用するため、利用者の負担はありません。

2019年の統一地方選挙からスタートしたこの制度。

これまでの利用者は片道の利用で1人と数え、2022年は7月の参院選で128人、11月の知事選で83人と、多くの人に利用されました。

このうち70歳以上の利用者が、およそ8割を占めています。

市の選挙管理委員会によりますと、投票率低下の流れを食い止めるための一手としても期待しているということです。

詳しくは選管に

こうしたタクシーでの移動支援。自治体ごとに申請の期限や手続きが異なりますので、詳しくはお住まいの地域の選挙管理委員会までお問い合わせください。

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