選挙に行ったことありますか? 就労支援施設の問いかけ

18歳以上のすべての国民が同じようにもつ、投票する権利。

しかし障害がある人のなかには、その権利を行使するのが難しい人がいるかもしれない。

障害のある人の就労支援施設を取材した経験のある記者が、和歌山県知事選が始まるなかで、再び施設を訪ねました。

(取材・和歌山局 伊藤 敬一郎記者)

考えたことがなかった

私(記者)が訪ねたのは和歌山県岩出市にある、知的障害や精神障害など16人が通う就労支援施設です。

「利用者の皆さんは選挙のときはどうされていますか?」

質問に対して、開所から3年半、利用者ひとりひとりと向き合ってきた山口恭範さんは、障害のある人たちの投票については考えたことはなかったと明かしてくれました。

施設の代表 山口恭範さんの話:
「恥ずかしい話ですが皆さんが投票に行っているのか、それとも行っていないのか、まったく考えたことがなかったです。
記者さんからの問いかけを機に、投票できるために何ができるのか考えてみようと思います」

選挙のことは知っている、でも…

山口さんは早速、利用者のみなさんに和歌山県知事選挙について尋ねました。

「今月の11月27日の日曜日、何があるか知っていますか」

利用者の男性は少し考えて、

「あの~、投票。知事、和歌山県知事」

この日の利用者8人のうち、知事選のことを知っていたのはこの男性ひとりだけでした。

山口さん、今度は利用者にアンケートを配り、より詳しく聞いてみることに。

「選挙に行ったことがありますか?」「投票の仕方は分かりますか?」など、7つの項目について尋ねました。

16人の利用者のうち14人が回答しました。結果は、

「選挙に行ったことがある」と答えた人は、約70%にあたる10人。

誰と選挙に行ったかを尋ねると「家族と一緒」が8人。

「自分1人で行った」という人は2人でした。

なぜ投票所に1人で行かないか聞いてみると、ある利用者はこんな不安を打ち明けました。

「投票所までの行き方が分からない。1人で行って道を間違えたら…」

アンケートでは、投票所で自分で投票用紙を書くことが難しい場合に、係の人に書いてもらう「代理投票」の制度についても聞きました。

制度について知っていると答えたのは2人。ほとんどの人が知らないと回答しました。

そもそも制度を知ってもらうことにも課題があることが分かりました。

一方で県知事選挙が行われていることについては、6人が知っていました。

その全員が投票に行くと答えたものの、詳しく話を聞いてみると…。

「候補者が3人いることは分かります。なんか入れないとなと思って行くけれど、名前までは分からない」

候補者全員の名前を言える人や、候補者それぞれの政策を知っている人はいませんでした。

山口さんは、投票先を決める重要な情報を分かりやすく伝えていく必要もあると感じました。

施設の代表 山口恭範さんの話:
「初めてアンケートをしてみて、障害がある人が選挙に行くのは簡単ではないということを実感しました。
選挙権はみんなに平等に与えられているので、字が書けない人、人混みに行くのが不安な人、いろんな障害のある人が投票に行けるような態勢をまず整えることが大切だと思いました。
選挙に行きたいという人がいたら、その意思を大切にしてあげられるよう、家族、地域の人、我々のような施設、行政、周囲からの支援も大切だと思いました。施設も人手が限られるので、ひとりひとりを投票所まで連れて行くということはできないけれど、これから何ができるかを考えていきたい」。

選挙の情報を分かりやすく伝えないと

施設を訪ねて、障害のある人たちが投票に行きやすくするためには、想像していたよりも多く課題があることが分かりました。

制度の周知や、政策をはじめとする選挙の情報を分かりやすく伝えることなど、私自身が記者の仕事を通してできることがあることにも気づきました。

誰にでも平等に与えられている選挙権を使いやすい社会にしていくため、これからも取材し、発信していきたいと思います。

2022年11月24日放送

障害者の投票 課題は
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