「できるよ」選挙と向き合う視覚障害のある若者

松山市の盲学校では、視覚障害がある若者に投票に行ってもらおうと「主権者教育」に取り組んでいます。愛媛県知事選挙にあわせて行われた授業の現場、そして選挙に向き合う若者の思いを取材しました。
(松山局・的場恵理子記者)

松山市にある県立松山盲学校では、視覚に障害がある20人が学んでいます。

主権者教育を担当する阿部暁子さんは、点字や代理投票など視覚障害者向けの選挙制度について教えていますが、これから選挙権を持つ生徒からは不安の声が寄せられるといいます。

阿部暁子さんの話:「選挙というものに対して、不安感を感じている生徒も結構何人もいたので。投票に行って、うまくいかないことがあって、傷つくのが怖いということを言っていた生徒もいました」

生徒たちの不安にどう応えるか。阿部さんは視覚に障害がある同僚の教員に、投票する際に困ったことを聞きました。

すると投票所の入り口が分からず迷った経験や、担当者が点字投票についてよく知らず待たされたといった声があった一方で、点字さえ使えれば困ることはないという声もありました。

多少の苦労があっても投票に行くという、前向きな意見が寄せられたのです。

阿部暁子さんの話:「うまくいかないことがあるかもしれないけど、できるよということがすごく印象に残りましたね」

授業で模擬投票を実施

この日、11月15日は愛媛県知事選挙にあわせて授業をすることになりました。インターネットを使ってどのサイトに選挙に関する情報があるかを確認しました。

参加した生徒5人は全員17歳以下で、まだ選挙の経験はありません。

このため実際に使う投票箱やついたてを借りて投票所を再現して、模擬投票を行いました。

生徒たちは投票用紙に名前を書いたり、点字を使ったりして自分の意思を示します。

投票箱の投入口の場所が分からず戸惑う場面もありましたが、それぞれの1票を投じました。

生徒の話:
「いざ選挙に行くとなっても不安がたくさんあったりするのでこうやって事前に練習しておくことで、少しは不安が解消されるのではないかなと思います」

「できるんだな」を実感

こうした授業などを通して、選挙と積極的に向き合うようになった若者がいます。盲学校の専攻科に通う、松浦佑美さん(22)です。

松浦さんは重い視覚障害がありますが、毎回欠かさず投票に行くといいます。

松浦佑美さんの話:
「視覚障害があっても『あ、できるんだなっ』て、自分にも普通にできることがあるということが分かって、また(投票に)来ようと思いました」

松浦さんは選挙のたびに自分にあった方法を模索しています。いま候補者の情報を調べるために使うのは、もっぱらスマートフォン。文字の読み上げ機能を使って検索します。

投票する際にも続けていることがあります。18歳になって初めて行った投票所で、戸惑うできごとがあったからです。

松浦佑美さんの話:「誘導していただく係の人とかがその場所にいらっしゃらなくて、係の人を呼ばないといけなかったり、お互いバタバタするという感じになってしまったりしたので、ちょっとそこが残念だったかなって思いましたね」

そこで松浦さんは、比較的混雑していない期日前投票を利用するようにして事前に役場にも電話するようにしました。

自分なりのやり方を見つけて、真剣に選挙と向き合う松浦さん。障害がある同じ若い世代に伝えたい思いがあるといいます。

松浦佑美さんの話:
「どうしても、視覚障害やほかの障害があると、(投票所に)行きづらいという気持ちはわかるんだけど、票をいれることは、自分にもできる、障害があってもなくても、できることだから、一人前にできることだから投票所に行って、票を入れてほしいなと思います」

さらに多様な手段が必要

視覚障害がある人への支援はまだ十分とは言えません。今回の愛媛県知事選挙では候補者の経歴や主張を紹介する点字版の「選挙公報」が発行されましたが、点字版の「選挙公報」は、法律で義務づけられたものでなく、あくまでそれぞれの自治体が任意で作成するものとなっています。

愛媛県内では国政選挙や知事選挙、それに松山市の選挙では発行されていますが、松山市以外の19の市と町で行われる首長選挙や議員選挙では作られていません。

また視覚障害がある人からは「スマートフォンなどでふだんから情報を得ているので、デジタル化した情報が充実してほしい」という意見もあり、多様な手段が必要となっています。

2022年11月18日放送

【動画】「できるよ」選挙と向き合う視覚障害のある若者
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