「投票所できめ細かいサポートを」
 自治体で進むマニュアルづくり

障害のある人たちが投票しやすい環境をつくろうと、投票所の係員に向けた応対マニュアルをつくる動きが各地で広がっています。

障害者団体などでつくるNPO法人には、投票所で困った経験として、視覚障害のある人から「係の人が付き添いのしかたに慣れていなくて不安だった」とか、聴覚障害のある人から「受付で何を言われているかが分からない」といった声が寄せられています。

こうした中、各地の自治体では障害がある人が不安なく投票できる環境を作ろうと、投票所の応対のマニュアルをつくる動きが広がっています。

「社会が障害をつくっている」のであれば

目黒区の応対マニュアル

東京・目黒区は8年前に障害のある人やお年寄りへの応対マニュアルを作成し、投票所に従事するすべての係員に配っています。

定年退職したあと再任用で働く堀切さん

マニュアルづくりを提案したのは、当時、目黒区選挙管理委員会の事務局長を務めていた堀切百合子さんです。

それまで福祉分野の部署で働いてきた堀切さんは、2006年に国連で採択された障害者権利条約の中に掲げられたある理念に気づかされたことがあったといいます。

堀切百合子さんの話:
「障害はその人が持っているのではなく、周囲の環境や社会がつくっているという“障害の社会モデル"という考え方に触れました。社会が障害をつくっているのであれば自分たちの手で改善することができるのではないかと思いました」

障害によって困りごとは異なる

障害のある人たちが投票にあたってどんなことに困っているのか、当事者団体などにアンケート調査をしたところ、「係員によって障害のことを分かっている人と不慣れな人がいる」とか、「支援をしてほしいのに気づいてもらえない」といった意見が寄せられたということです。

こうした声を受けて堀切さんたちはマニュアル作りに取りかかり、障害の特性によって異なる対応のしかたをまとめることにしました。

マニュアルでは視覚障害のある人に対しては、「あちら」「これ」といったことばでは伝わらないため、「10時の方向に3メートル進んでください」などと具体的に説明するように呼びかけています。

また聴覚障害のある人への対応では、筆談でやりとりをするなど相手の希望にあわせて応対することや、ことばで伝える場合でも1音ずつ区切って話すとかえって分かりにくいため、ことばのまとまりで区切って話すようアドバイスしています。

一度マニュアルを作成したあとも当事者からの声を聞きながら、ことばによるコミュニケーションが難しい失語症の人への対応方法を加えるなど、改訂を続けているということです。

堀切百合子さんの話:
「障害のある人たちは少し制度が変わることで生活が向上することも多く、政治への関心を高く持っているように感じてきました。一方で、投票所で嫌な体験をしたことをきっかけにそれ以来、投票にいかなくなってしまったという話も聞きます。このマニュアルのように、法律を変えたり、大きな予算をかけたりしなくとも変えていけることはあるので、もっと投票しやすい環境を整えていかなければいけないと思います」

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