投票したい思いに理解とサポートを 
選挙を前に家族の不安

障害のある人やその家族の中には、投票に難しさや不安を感じる人もいます。投票所での意思疎通も「壁」のひとつです。

知的障害のある25歳の女性とその家族の、投票に向けた取り組みを取材しました。
(名古屋局・山下理華記者)

愛知県瀬戸市に住む、池戸美優さん(25歳)(いけど・みゆ)には、重度の知的障害があります。

美優さんに投票所の入場券が届いたのは、18歳選挙権が導入された6年前。参議院選挙のときでした。

字を書くことや話すことが難しい美優さん。母親の智美さんは迷った末に、1票を無駄にしたくないと投票所に連れて行くことを決意しました。

投票を終えて、うれしそうな表情を見せた美優さん。それ以来、選挙には欠かさず足を運んできました。

智美さんの話:
「大事な1票ですので、たとえそれが無効になって白票だったとしても、参政権というんですかね、選挙に行くっていう意思の表れかなっていうふうに思っていたので」

投票に向けて一緒に練習

投票の際、美優さんにとって壁となるのが、「意思の伝達」です。美優さん本人が、投票したい候補者を、代筆してくれる投票所の職員に、はっきり伝える必要があるからです。

智美さんの話:
「意思のくみ取り方が難しいので、それが(投票所の職員に)伝わるかな?っていう不安と、こんなに知的に重いのに選挙に来るんですか、っていうふうに思われるんじゃないかなっていう不安がずっとありました」

実際、職員から「意思がはっきりわからず白票になった」と言われたこともあったと言います。

意思をはっきり伝えられるようにと、美優さんと智美さんは、選挙公報などを切り抜いて作ったカードで、意思を伝える練習を重ね、投票に臨むようにしています。

判断は投票所の管理者に

しかしカードを使っての意思表示をめぐり、これまで投票所での美優さんへの対応は、選挙ごとにまちまちでした。カードの持ち込みは認められたり、認められなかったりしました。

対応が異なるのはなぜなのか?。瀬戸市選挙管理委員会は、持ち込めるものについては明確な基準がない上、障害者へのサポートは、投票所の管理者がそのつど判断していると説明しています。

選挙管理委員会の話:
「(選挙公報が)なければ投票ができないという形であれば、投票管理者が合理的配慮の上で判断する形となる。サポートの方法は、障害の程度によってもさまざまだし、望まれるサポートというのはその方によって変わってくると思う。すべてマニュアル化することはできないので、現場で投票管理者が判断することになる」

今回の選挙では?

今回の参議院選挙ではどうなるのか?。選挙管理委員会に問い合わせたところ、数年間、選挙のたびにやりとりし、事情を理解してもらえたからか、「おそらく持ち込める」と言われたといいます。

智美さんの話:
「『ああよかった』と思ったんですが、当日、投票所でもしかしたら『ダメ』と言われる可能性もあるかもしれないという不安はあります。投票したいという思いがある人たちが、どうしたらそれが叶うのかなということを、自治体まかせというよりも、私たち側もアピールして実現していけたらいいなと思います」

総務省の通知では「OK」

美優さんの場合、選挙公報などを切り抜いたカードの扱いが課題となっていましたが、実は、選挙を所管する総務省は「選挙公報の切り抜きで意思確認をすることは可能」という通知を、全国の選挙管理委員会に出しています。

しかし選挙実務の現場では、どこも人員が十分とは言えず、十分に障害者のサポート体制を整えられていない、という課題も指摘されています。

障害者の政治参加に詳しい立命館大学の山本忠教授は、まずは行政側が可能な限り、障害者のニーズをくみ取る努力をして欲しいと指摘しています。

山本教授の話:
「その人にとって、写真が必要だということであれば写真を持ちこんでいいと思うし、公報の切り抜きが必要だということであれば、それを持ちこんでもいいと思う。同じ障害の名前を持っていても、その人が求めるニーズは人によってちがってくる。具体的に何が必要か、どういう援助が必要かというのは、当事者との話し合いで決定していくしかない」

公正な選挙を実施するため、選挙にはさまざまなルールがありますから、支援の幅を広げるには当然、難しさも伴うと思います。ただ障害の有無にかかわらず、誰もが安心して投票できるよう、障害者への理解を社会全体で深めていく必要があります。

2022年6月28日放送

【動画】投票したい思いに理解とサポートを
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