盲ろう者のための「政見放送を見る会」

視覚と聴覚の両方に障害のある「盲ろう者」の人たちは、選挙公報や政見放送などから情報を得ることが困難です。選挙に誰が立候補しているか、どんな公約を掲げているかさえ、通訳者がいないとわかりません。そんななか、石川県金沢市では、障害者団体が主体となって、盲ろう者のための「政見放送を見る会」を行っています。(2022年6月22日)

こちらの写真は、去年の衆議院選挙の際に行われた「政見放送を見る会」の様子です。

金沢市の福祉会館で、全ての候補者の政見放送をスクリーンに上映、その内容を手話通訳者が通訳して、盲ろう者はその手話を直接触って読み取ります。

「触手話」というコミュニケーション方法です。

「触手話」

この会には金沢市内に暮らす3人の盲ろう者が参加しました。その1人、中谷行男さん(73)は、もともと耳が聞こえませんでしたが、40代後半から眼の病気のため視力が低下し、手話や文字を読み取ることができなくなりました。

中谷行男さんの話:
「以前は立候補者の公約も読めましたし、政見放送も字幕や手話を見て、そうか、こんなことを考えているんだとわかったんですが、目が見えにくくなってから、いくら手話がついていても見えなくなりました。妻に触手話で通訳してもらったりしたこともありましたが、全部は訳せず漏れもあり、もっと詳しく聞きたいと思っていました」

中谷行男さん

中谷行男さんの話:
「政見放送を見る会では、立候補者の話を通訳者が細かくきちんと通訳してくれるので、非常にありがたいです。誰に投票するか選ぶには非常に良いと思います。自分で考えて自分で選んで投票するという権利は大事だと思っています」

最初は聴覚障害のある人から始まった

「政見放送を見る会」は、もともと聴覚障害のある人たちのために始まりました。以前は政見放送に手話や字幕が付与されていなかったため、内容を把握することが困難だったのです。

そこで行政と交渉し、県の選挙管理委員会が放送局と仲介して、政見放送をDVDにコピーし、通訳者の人件費なども県の予算で賄う形で、2007年から続いてきました。

その後、次第に手話や字幕をつけた政見放送が増え、テレビの放送を見れば聴覚障害のある人も情報を得られるようになりました。

その一方で、もともと聴覚に障害のある人が高齢化や病気などのために視力が低下し、盲ろうになる人が出てきたのです。そこで触手話の通訳を手配して、「政見放送を見る会」に盲ろう者も参加できるようにしました。

最近では盲ろう者だけが参加することが多くなっていますが、選挙の情報を保障するために大切な場であるとして、続けてきています。

「見る会」を主催している「石川県・手話通訳制度を確立する推進委員会」委員長の吉岡真人さんのお話です。吉岡さん自身もろう者です

吉岡真人さん

吉岡真人さんの話:
「盲ろう者の方々は耳が聞こえず目も見えなくて、触手話だけが頼りなんです。かつてはろう者が、参政権は持っているけれども、候補者が何を言っているのかわからないということで、誰を選んだって一緒、どうしたらいいのかわからない、ということがありました。全てのろう者・盲ろう者が情報を得られるよう、今後もこの会を続けていきたいと思っています」

今回の参議院選挙に向けた「政見放送を見る会」は、7月9日に行われる予定です。盲ろうの中谷さんは必ず参加したいと考えています。

中谷さんの話:
「立候補者の情報を得て、選んで投票ができるというのは、とても大事だと思っています。こんどまた参議院選挙がありますが、7月9日にいろんな話を聞いて、自分で決めたいと思います」

盲ろう者のための「政見放送を見る会」は、全国的にも珍しいといいます。盲ろう者が選挙に行くこと自体をあきらめてしまうことのないよう、こうした取り組みが全国に広がってほしいと、石川盲ろう者友の会の会長、宮永聖明さん(74)は話しています。

宮永聖明さん

宮永聖明さんの話:
「触手話での通訳がなければ私は選挙に行くこともできませんので、政見放送での触手話通訳は絶対必要だと思います。政見放送を見る会を続けてほしいですし、もっと他の地域でも開かれるようになってほしいと思います」

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