「投票所が不安」だからみんなで行こう

投票所に1人で行くことにはハードルを感じるけれど、少し背中を押してもらえれば投票所に行ける。そんな人たちに寄り添う活動が、神奈川県藤沢市で続けられています。
投票への「見えない壁」を取り払うための取り組みです。
(横浜放送局・山田友明)

投票にちょっとした手助けを

藤沢市にある「さんわーくかぐや」は、障害や病気などで生きづらさを抱えている人たちの自立を支援するための通所の施設です。

「自分らしくありのままに」をモットーに、10代から60代までの約20人が、農作業や陶芸、木工などの創作活動に励んでいます。

この施設では約10年前から、選挙の際に利用者が投票に行きやすくするための手助けを行っています。

そのひとつが期日前投票を利用した、投票所への付き添いです。

「投票に行きたいけれど、 1人では行けない」という利用者たちのグループを作り、施設のスタッフが付き添って一緒に期日前投票に行くのです。

スタッフが付き添うのは投票所の入り口まで。利用者が投票を済ませて投票所から出てくるのを外で待ちます。

6年前の選挙で初めて付き添いを利用して以来、投票に行くようになったという長美里さんは、このように話しています

「投票を正しくできるのか、間違ったらどうしようかと1人で行くのが不安で投票に行けませんでした。しかし仲の良いメンバーと一緒に行けるようになり、毎回、投票できるようになりました。1票で自分の気持ちが伝わるとうれしいです」

長美里さん

さらにこの施設が行っているのが、選挙の仕組みや投票の流れを説明する「勉強会」です。流れなどを事前に説明することで、投票所に行ってからの不安を和らげようと取り組んでいます。

利用者の投票行動に影響が出ないよう、勉強会では、個別の候補者や政党に関する説明は行わないようにしているといいます。

勉強会の様子

「投票がこわい」

取り組みを始めたきっかけについて施設の理事長の藤田靖正さんは、ある利用者のことばだったと振り返ります。

藤田靖正さん

知的障害がある20代の女性が、藤田さんに付き添ってもらって初めて投票に行った際に「投票がこわい」とつぶやいたというのです。さらに女性は藤田さんに、

「投票所にはたくさんの視線があって、誰もが黙っている。次に何をすればいいのか分からず不安になる」

と話したそうです。

ほかの利用者からも、
「(投票所に)スーツ姿の人たちがいてものものしい」
とか
「(投票所の)部屋の中に入ると静かすぎて気持ち悪い」
といった声が、次々にあがったといいます。それならばと始めたのが、投票所への付き添いと投票についての勉強会でした。

最初は1人の利用者への付き添いから始まった取り組みですが、始まってから約10年が経ち、今では施設のスタッフを含めて6、7人がグループになって投票所に足を運んでいるといいます。

藤田さんはこのように話しています。

「1票はどんな社会にしたいかという意思表示の一つだと思います。ちょっとした手助けで投票所に足を行くことができるので、取り組みを今後も続けていきたいです。」

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