壁をどう乗り越えた ベテランと新人議員の訴え方

障害のある人が議員になった後、議会活動を続けるなかでぶつかってきた課題について、当事者たちから話を聞く「政治参加の壁」。

今回は30年近い議員キャリアを持ち、これまで数々の課題を乗り越えてきた議員や、最近地方議会で壁を打ち破った新人議員の話から、課題解決のヒントを探ります。

(報道局選挙プロジェクト・西林明秀記者)

視覚障害の議員として8期目

取材に応じてくれたのは、新潟市議会議員の青木学さん(57)です。

青木さんは小学5年生のころから「網膜色素変性症」という病気のため視力が落ち、今は全盲です。

学生時代にアメリカに2年間留学した際、支援が当たり前のように公的に保障されている様子を見て、「一人一人の生き方が最大限尊重され、それを支えることが社会の役割だ」と考えるようになり、平成7年に新潟市議選に立候補しました。当選を重ね、30年近くにわたって議員活動を続けています。

大事なのは「理屈」と「コミュニケーション」

青木さんは常任委員会の委員長や、副議長などの要職も務めてきました。

1期目には行政資料や議案書、予算案の点字訳を実現。委員長や副議長時代には、目が見えなくても質問者や答弁者を指名できるよう、挙手した際に名前を名乗ってもらうようにするなど、議会活動での壁を次々と打ち破ってきました。

青木さんが大切にしたのは「理屈」をしっかり伝えることと、「共感」してもらうためのコミュニケーションを重ねることの両立だったといいます。

青木学議員
「市民代表として議会に出ている立場として、『議員が市民の負託に応えるため、きちっと議会活動できるような条件整備は必要だ』ということは、これまで理路整然と伝えてきました。その上で、皆さんに、その理屈を『やっぱりそうだよな』と共感してもらえる、分かってもらえるようなコミュニケーションを図ることや理解・合意形成づくりも、同じくらい重要だと感じています」

『俺たちも青木を支えるから』

そんな青木さんでも副議長になるときは少し不安があったそうです。背中を押してくれたのは、同僚議員たちにかけられた言葉でした。

青木学議員
「自分に副議長が務まるのかという不安は頭にあったんですよね。議員としての能力というよりは、やはり目が見えないということで本会議の運営ができるかな、と。
そんなとき、別の会派の議員から『俺たちも青木を支えるから、今回、副議長で頑張ってもらいたい』と言われたんですよね。視覚障害者である青木学という議員の活動を見ていてもらって評価してくれた結果だと思い、率直にうれしかったし、ありがたかったです」

新人議員が直面した「介助費用」の壁

新人の議員が壁を乗り越えたケースもあります。小金井市議会議員の高木章成さん(48)です。

おととし初当選を果たした高木さんは脳性麻痺のため手足が不自由で、言語に障害があります。

このため議会活動では、資料の整理やページをめくる作業などを介助者にお願いしています。高木さんは介助にかかる費用を自費で払っていて、大きな負担となっていました。

「どんなハンディキャップがあっても活動ができる環境は平等であるべきだ」と考える高木さんは、会派の力も借りながら、介助費を公費で支える新たな仕組みの必要性を訴えました。

議会事務局も、どのような予算の枠組みで支援ができるか、検討を重ねていきました。その結果、今年度の補正予算で、「議会活動支援介助委託料」が「議会費」として予算化され、去年の12月議会から運用が開始。高木さんは当選から約1年かけて、必要となる介助費を、公費でまかなう権利を勝ち取ったのです。

「介助費用を公費で」地方議会では画期的

障害のある議員などでつくる全国ネットワークの代表を務める熊本市議会議員の村上博さん(73)によりますと、介助費は議会運営のための予算として認められないケースが多く、ほとんどの地方議員は政務活動費や自費で賄うことを余儀なくされていると指摘しています。小金井市議会の事例は、全国的にも非常に珍しく、画期的だと評価しています。

高木さんは今回の意義について、次のように話しています。

高木章成議員
「自治体議会で具体的に合理的配慮が進められることが、職場をはじめ障害者の社会進出を進め、敷衍(ふえん)化していくノーマライゼーションの実現に向けた一つのモデルになればよいと考えています。私としてはハンディキャップがあっても、合理的配慮により環境整備がされれば、議員として成果を残せるということを、今後とも実現していきたいです」

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