あなたの声が届かない 聴覚障害のある人の
「無音の選挙」(サイトへのご意見より)

ある日の街頭演説

「耳が聞こえない私にとっては、平等な選挙にはなっていないんです」

聴覚に障害がある女性がかたった、重いことばの意味を取材しました。

みんなの話を平等に聞きたいのに‥

NHKのサイトに寄せられたご意見

「聴覚障害者です。(政見放送の)字幕、手話通訳は、立候補者や政党の判断によってつけられています。それでは、公正な判断が出来ません。街頭演説も同じです」

この「みんなの選挙」のサイトに悩みを寄せてくれたのは、三重県多気町に住む日間賀恵子さん(48)です。

音声での質問が文字になって表示される携帯電話の機能を使って、インタビューに応じていただきました。

日間賀さんは聴覚の障害で耳がほとんど聞こえません。悩みのひとつは、投票先を選ぶための情報を十分に得られないことだといいます。

例えば候補者や政党が行う街頭演説。ふと足をとめてみることはあるものの、手話通訳がなければ何を言っているのか、理解するのは難しいのです。

聴覚に障害のある人の中には、相手の口の動きから話の内容を読み取る人もいますが、新型コロナの影響でマスクをして演説をする候補者もいるため、さらに候補者のことばが届きづらくなっています。

日間賀恵子さんの話:
「最近では、街頭演説で手話通訳をつけてくれる候補者も徐々にですが増えてはいます。ただ手話をつけている候補者とそうでない候補者がいた場合に、私はどうしても手話を介して言っていることが分かる候補者の方に投票したいという気持ちになってしまうんです。みんなの話を平等に聞いて投票先を選びたくても、選択肢が狭まってしまうんです」

以前は、選挙ポスターで候補者の表情を見比べて、良い印象を持った人を選んだこともあったといいます。日間賀恵子さんは、今回の参議院選挙では時間の許すかぎり、手話がついた政見放送をみるなどして、候補者の人柄や政策を吟味しようと考えています

投票所にも壁が

いざ投票所に行っても困ることがあります。

日間賀恵子さんの話:
「投票所に着いたら、まず受付にいきますよね。そこで係の人が何かを話してくれているのですが、さっぱり分からないんです。もしかしたら話しかけられているのにも、気がついていないことがあるかもしれません」

コミュニケーションボード

自治体によっては聴覚に障害のある人のために、「筆談をしたい」など、伝えたい内容がイラストで書かれた「コミュニケーションボード」を準備したりしているところもあります。

ただ相手が障害のある人だと気がつかなければ、それらが使われることはありません。

日間賀恵子さんの話:
「耳が聞こえないことを伝えて筆談をお願いすると、とまどってしまう人がいたり、耳が遠いだけだと勘違いをされて耳元で大きな声で話しかけられることもありました。耳の障害のあることを伝えようと思っていても、お互い嫌な思いをしてしまうのではないかと心が折れてしまうこともあります」

日間賀恵子さん

音のない選挙に向き合ってきた日間賀さん。最後に投票所でのうれしかった経験と少し複雑な気持ちを語ってくれました。

日間賀恵子さん:
「あるときに訪れた投票所では、一生懸命に身振りや手振りで伝えようとしてくれる係の人がいました。そうやって何とかしようとしてくれる気持ちが、私はとてもうれしかったんです。一方で、常に何かお願いをしたり、助けてもらって感謝したりするばかりではいけないなとも思います。障害がある人も、そうでない人も、お互いに助け合って認め合うことができて、『助けてもらった』とか考える気持ちを持たなくてもいい、そんな世の中に変わっていってくれればと思います」

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