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お母さん、落ち着いて

コロナ禍で生活が厳しくなる遺児家庭を支援しようと、あしなが育英会が去年11月、緊急の支援金を出しました。
その記者会見で「死のうなんて思ってはだめだ」と強いことばで遺族に訴えた人がいました。
新型コロナの影響が続く今、そのことばの意味を改めて聞いてみました。

(ネットワーク報道部 大窪奈緒子)

お母さんに言っておきたい

コロナによる影響で経済的に厳しい状況が続く、親を亡くした遺児たちや配偶者を亡くした母親たち。

去年11月の記者会見で、あしなが育英会は生活や進学の助けとなるよう、緊急で遺児家庭に20万円の支援金を出すと発表しました。

会長の玉井義臣(86)さんは遺児家庭にこう訴えました。

「きみたちのこと、生活について、とことん面倒を見る。死のうなんて思ってはだめだということをはっきり、この場で子どもたち、お母さんたちに伝わるように言っておきたい」

語気強く、訴えるような言い方がいまも忘れられません。

なぜ、“死のうなんて”という強いことばを使ったのか、ずっと気がかりでした。

寂しさ、心細さが気力を奪う

1969年に始まった「あしなが運動」は、個人や企業などからの寄付で遺児の生活や進学を支援しています。

玉井さんも中心となって活動し、交通遺児への支援をスタートに、自死遺児、がん遺児、災害遺児と、支援対象を広げてきました。

初期の活動では、遺児家庭を一軒一軒訪れて、声を聞いて回って話を聞きました。

玉井さんは、記者会見で強いことばを使ったことをこう話していました。

「生活が苦しくなると、心の支えのない人たちが増えてくるように思う。人間は貧しさだけで死に向かうのでなく、貧しい中で、頼れる人がいない、弱音を吐くこともできない。その寂しさ、心細さが、生きる気力を奪うのです」

「コロナ禍で人々はあまり話し合わず、生活の苦しさと孤独で、亡くなっていく人が出るのがこわかったんです」

お母さん、落ち着いて

去年4月、コロナによる減収で苦しむ遺児家庭へ最初の緊急支援金を給付した時に、添えた文章にも、玉井さんは心を支えることばを添えました。

それは「お母さん、まず、落ち着いて」でした。

このことばに救われたという人がいます。

沖縄県の与那国島で小さな宿を営む50代の女性です。

手紙を受け取ったときの気持ちをツイッターに投稿していました。

「『お母さん、まず、落ち着いて!』に…涙がぽろぽろっと溢れて。あー私、いっぱいいっぱいだったんだなって気づきました」

女性には社会人の娘と、神奈川の大学で学ぶ大学4年生の息子がいます。

夫は5年前の春に海の事故で亡くなりました。

あしなが育英会の奨学金を受けることで、なんとか息子を大学に進学させることができたと言います。

去年4月、コロナの影響で宿泊客のキャンセルが続き宿を閉めざるをえない日が続きました。

収入がない中でも学費の仕送りが差し迫り「自分でも気付かないうちに、すごく気持ちが追い詰められていた」(女性)と言います。

そんなときに届いたのがこの手紙でした。

(女性)
「手紙がね、ふっと、気持ちに寄り添ってくれた。読んで、涙が出た。母子家庭でひとりでやっている中で本当に寄り添ってくれることばだった。社会全体が大変な状況で、なかなかこういう風に声をかけてくれる人がいなかったように思う。心が、救われたように感じました」

あしなが育英会に届いた手紙の中にも「生活も先行きも不安いっぱいの中、『お母さん、まず、落ち着いて!』このことばに、どんなに勇気づけられたことか。感謝で涙が止まりませんでした」といったことばがありました。

みんな一生懸命

玉井さん
「みな、孤立しているわけですよ。聞いてくれる人もいないし、分かってくれる人もいない」

「そういう中で、子どものためになんとか暮らしていこうと一生懸命になっている。生活を支える金銭的なものももちろん大切ですけど、コロナ禍で人と人とがふれあいにくい今だからこそ、もっともっと心を支えることばや心を支える政策が大切だと思っています」

コロナ禍で子育て世帯を取り巻く厳しい状況は、まだまだ続いています。

つらいときには頼ってほしい、声に出して伝えてほしい。

強いことばにはそんな思いが込められていると感じました。

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