1. トップ
  2. “泣き声通報”がこわい ~虐待を疑われて~

“泣き声通報”がこわい ~虐待を疑われて~

秋になり、窓を開けて外の風を取り入れる機会も増えました。

わが家(野田家)では、2歳の末っ子がイヤイヤ期真っ盛りで、窓が開いていてもお構いなしで泣き叫びます。

その横では上の子たちが言い争い…ついイライラして「静かにしなさい!」と大きな声を出し、はっとすることもしばしばです。

「虐待を疑われ通報されてしまう。お願いだからみんな、静かにして」。

そんな“泣き声通報”を心配している親は、私だけではないようです。

(ネットワーク報道部:野田綾 大窪奈緒子)

ツイッターより
「#警察にいわれたこと何度でも書く。
(子どもの泣き声で通報されて)『うん、虐待はなさそうだね。ごめんね、一応規則だから確認しなきゃいけないんだ。
...お母さんの方が疲れてそうだけど大丈夫?区役所でね、育児相談ってのあるから。一回行ってみるといいよ。頑張ってね』
住之江警察最高です。」

ある母のツイート

先月8日、大阪府に住む40代のシングルマザー、K子さんがSNSに投稿すると、数日のうちに6万7000ものいいねが集まり、1万回以上リツイートされました。

K子さんに話を聞くと、「自身の経験を多くのお母さんと共有したい」と思ってコメントしたそうです。

2人の子どもがいるK子さん。

6年前の夏に離婚したとき、子どもは小学2年生と保育園の年長でした。

小2の息子は精神的に不安定になり、大声で泣き叫ぶようになったといいます。

K子さん
「家の玄関でいやだ!と泣き叫ぶこともありましたが、泣き叫べばかまってもらえると思ってほしくなかったので、落ち着くまで黙って待つようにしていました。すると、ばたつかせた足を痛めたのか『痛い!』と言いだし、『ママやめてよ!』と叫んだんです。息子にかまわない私に『無視するのをやめて』と言いたかったのかもしれませんが、外には状況までは伝わらないので、虐待としか思えない内容になっていました」

そして、とうとう通報されます。

初夏の暑い日、エアコンもなく窓を開けて過ごしていると、風呂も入らずに寝ていた息子が夜中に起きて「暑い!」と泣き始めました。

うちわであおいでも「いやだ!やめて!」シャワーを浴びようと声をかけても拒否。

ただ泣き続けました。

K子さん
「夜中の2時ごろ、警察官が2人来ました。ついに来たなと、覚悟しました。」

警察官は、とても穏やかに「ちょっとごめんね。泣き声が聞こえるって通報があったから、ちょっと上がらせてね」と言いながら部屋に入ってきました。

泣き疲れて寝てしまった子どもの体にあざがないことを確認。

虐待ではないと判断すると、「お母さんの方が疲れてそうだけど大丈夫?区役所でね、育児相談ってのあるから。一回行ってみるといいよ。頑張ってね」と声をかけてくれたと言います。

K子さん
「警察官が来たときは、少なからずショックを受けましたが、虐待はしていないので、きちんと状況を説明しようと思っていました。優しい声かけをしてもらってとても温かな気持ちになり、今でも感謝しています」

母親たちの共感の声

K子さんの投稿には、“泣き声通報”を恐れる母親たちから多くの共感のコメントが寄せられました。

子どもがむずかって泣くときは、親も困り果てています。

そんなときに助けが入ったことに、感謝する人も多くいるようでした。

増える虐待相談

泣き声で、虐待を心配した近所の住民などが通報する“泣き声通報”。

「泣き声」というくくりでどれほどあるのか、正確にはわかりませんが、厚生労働省によると、平成30年度、全国の児童相談所には「近隣・知人」から2万1449件もの虐待相談が寄せられました。

この10年で3.5倍に増えていて、虐待について、世の中の意識は高まっているとみられます。

民間の相談窓口にも不安の声

民間の相談窓口にも、“泣き声通報”に関する多くの相談が。

1975年に母親の育児相談窓口「エンゼル110番」を開設し、45年以上、全国の母親などの相談にのっている「森永乳業」に話を聞いてみました。

すると、子どもが「泣く」ことについて、以前は「近所迷惑にならないか」という相談が多かったのに対し、この10年ほどは「泣き声で通報されないか」を心配する母親の相談が多くなっているということです。

去年1年間の相談内容を振り返ったリポートには、悲痛な声が紹介されています。

「上の子が泣いて、警察が来て事情を聞かれた。こんなに頑張って育児をしていたのに」
「双子の男の子がイヤイヤ期でかんしゃくがひどい。ママとお姉ちゃんが買い物に行く間に、パパと双子の3人で自家用車の中で待っていた。男の子が大泣きして警察官に事情聴取された」
「1か月前に児童相談所から2人来て、子どもを見せてくださいと言われた。育児に自信をなくした」

エンゼル110番のチーフ相談員、為我井圭子さんは「子どもが亡くなる事件が報道されることもあり、社会も泣き声に敏感になっている。実際に通報されることで、親が『子どもを泣かせてはいけない』と追い詰められたり、『親失格』と非難されたように感じたりする様子がうかがえる」と分析しています。

エンゼル110番 チーフ相談員 為我井圭子さん

「お母さんたちはお子さんを泣かすことに悩みを抱えています。育児に煮詰まったとき、子どもと離れる時間を持つとほっと息をつけますが、ことしは新型コロナウイルスの影響で子育て支援センターや児童館が閉鎖され、一時預かりやファミリーサポートも中止になった自治体が多くありました。以前のような体制に戻るのは難しいとは思いますが、ぜひ自治体はお母さんがひと息つける場を設けてほしい。他人に不寛容な社会は誰にとっても生きにくい社会です。
どうか社会にも温かく子育てを見守ってほしいと思います」。

専門家は

子どもの泣き声に追い詰められる母親たち。

ただ、「もし本当に虐待事件だったら」と考えると、周囲の人たちも安易に見過ごせないと思います。

どうすればいいのでしょうか。

日本大学危機管理学部 鈴木秀洋准教授

児童虐待の問題に詳しい、日本大学危機管理学部の鈴木秀洋准教授は、「泣き声は支援が必要な家庭のSOSであって、その後の家庭への継続的な支援を考えれば、迷わず市区町村の子ども関係の部署や児童相談所に相談、通告してほしい」としています。

伝える先は、警察よりもまず市区町村や児童相談所、ということのようです。

鈴木秀洋准教授
「警察は通報を受けたら家庭だけでなく、周辺の聞き込みをするなどして子どもの安全確認を徹底することがあります。
警察としてはあるべき職務なのですが、警察に来られた家庭が極度に萎縮する例や、『警察が調べている家庭』と周囲に見られ、一層、孤立してしまう例も報告されています」

児童虐待の相談については、児童相談所につながる全国共通の専用ダイヤル「189」が設けられています。

厚生労働省も「虐待を疑ったらまずは迷わず189に電話を」と呼びかけています。

顔を見せて声をかけて

鈴木さんは、「子どもが泣いていて親がどうすればいいか困っているような場合も多いです。そんなときは、市区町村に連絡するなど、子育てをサポートしてくれる地域の継続的な支援につなげてあげてほしい」と話しています。

そのうえで鈴木さんは、周囲の人たちは、通報以外にもできることがあると話してくれました。

鈴木秀洋准教授
「親子を守るためにさらに大事なのが、街づくりです。あいさつや声かけなどがあれば、『味方がいる』『1人じゃないんだ』と感じられるので、そんな地域をつくっていければと思います。顔を隠して遠くから心配するのではなく、顔を見せて声をかけて、近くで見守ってあげてください」

子どもは、特に小さな赤ちゃんは、泣くのが当たり前です。

でも、泣き声は親を動揺させてしまいます。

「よく泣いてるね。大変だね。お母さん大丈夫?」

そのひと言が、大きな支えになるのかも知れません。

トップページに戻る

コロナ禍で専門家に聞く①“自宅がツライ理由”

新型コロナウイルスの影響で自宅にこもる日々。外出の自粛要請などは少しずつ緩和されつつありますが、自宅で家族と一緒に過ごすのがつらくなり、家族関係が変わってしまったと感じている人もいるかもしれません。

続きを読む

コロナ禍で専門家に聞く②子どもが乱暴に!その理由は

新型コロナウイルスの影響で学校が休校になり、外出の自粛が長引く中、子どもの言動が乱暴になったという不安の声を聞きます。

続きを読む