審査対象の11人が
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2019年9月13日判決諫早湾干拓事業 開門の是非は

どんな
裁判か

  • 長崎県諌早湾の干拓事業をめぐり排水門の開門を命じた確定判決を無効とするよう国が求めた裁判
  • 最高裁第2小法廷は、福岡高裁で審理をやり直すよう命じた
  • 開門の是非には直接触れないものの、開門を命じた確定判決を無効にする方向性を示唆

諌早湾の干拓事業では、1997年に国が堤防を閉めきったあと漁業者が起こした裁判で開門を命じる判決が確定した一方、農業者が起こした別の裁判では開門を禁止する決定や判決が出されました。司法の判断が相反するなか、国は、開門を命じた確定判決の効力をなくすよう求める裁判を起こし、2018年7月、2審の福岡高裁は、「漁業者の漁業権はすでに消滅している」として、国の訴えを認め、確定判決を事実上、無効とする判決を出し、漁業者側が上告していました。

これについて、最高裁第2小法廷は「漁業権が一度消滅しても免許が再び与えられる可能性があり、開門を求める権利は認められると理解すべきで、2審には法令違反がある」と指摘して、国の訴えを認めた2審の判決を取り消しました。
その上で、「長い時間が経過し事情が変わったことによって、確定判決に従わない国に制裁金を課すことが権利の乱用となっていないかなど、判決を無効とする理由がないかさらに審理を尽くすべきだ」として、福岡高裁で審理をやり直すよう命じました。

開門の是非には直接、触れませんでしたが、高裁で審理すべき争点を具体的にあげたことから、開門を命じた確定判決を無効にする方向性を示唆したといえます。
4人の裁判官のうち裁判長(今回の審査対象外)は補足意見を書き、開門を命じた確定判決を無効にする方向性について、考え方を解説しました。

ねじれる司法判断

開門の是非をめぐって、司法の判断がねじれた状況になったのは、開門を求める漁業者と、開門に反対する農業者が、それぞれ国相手に裁判を起こし、いずれも勝訴したためです。
1997年に堤防が閉めきられる直前から事業に反対する市民や漁業者が国を相手に事業の差し止めなどを求めていくつもの裁判を起こしました。このうち、漁業者らが開門を求めた裁判で、2010年に福岡高裁は、1審に続いて、堤防を閉めきったことと漁業被害との因果関係を認め、3年以内に開門するよう国に命じました。この判決は当時の民主党政権が上告せずに確定し、国に開門の義務が生じました。
これに対し、今度は、開門に反対する農業者らが国を相手に開門を禁止するよう仮処分を申し立てました。2013年、長崎地裁は、「開門すれば干拓地の農業に被害が出る」などと農業者側の訴えを認め、国に開門を禁止する決定を出しました。
これにより、国は「開門しなければならない」という義務と、「開門してはならない」という義務の、相反する2つの義務を負うことになりました。
相反する義務を負った国は、3年以内に義務づけられていた開門を先送りにします。開門してもしなくても、どちらかの義務に違反して制裁金が課せられる状況になり、国は、開門の義務に従わず、制裁金を支払いました。
こうした状況を打開するため、国が開門を命じられた2010年の確定判決を事実上、無効にするよう求めたのが今回の裁判です。
その上で国は、2017年、開門しない方針を明確にしました。開門しないことを前提に、国は漁場の回復を目指す100億円規模の基金案を示しましたが、和解協議は決裂。そして2018年7月、福岡高裁は、確定判決を事実上、無効にする判決を出し、漁業者側が上告していました。

この裁判についての最高裁判所の資料はこちら(NHKサイトを離れます)

審査対象の裁判官たちの判断は

  • 三浦 守

    結論と同じ

  • 草野 耕一

    結論は同じだが別の意見

    開門のために国が支出しなければならない金額が開門によって回避できる損害額を上回り、漁業権の侵害行為で漁業者側が受けた損害を国が全額弁済していれば、特別な事情がない限り開門を強制することは権利の乱用にあたる。2審はこうした損害額などを具体的に認定しておらず、審理を尽くさせる必要がある。

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