民主党 バイデン前副大統領の受諾演説

野党・民主党の大統領候補に指名されたバイデン前副大統領が指名受諾演説を行った。
トランプ大統領を厳しく批判し、「今、歴史上、経験したことのない困難に直面しているが、私はこれに立ち向かう準備ができていると信じている」と訴えた演説のポイントをまとめた。

目次

    バイデン氏 指名受諾演説

    「私は闇ではなく光の味方」 今の大統領はあまりに長い期間、アメリカを暗黒で覆っています。怒り、恐怖、分断があまりに大きすぎます。私が大統領になればこの国の悪い点ではなく、良い点を引き出します。私は闇ではなく、光の味方となります。 われわれ国民が団結するときが来ました。団結すれば、アメリカの暗黒の季節を必ず乗り越えることができます。恐怖ではなく希望を、うそではなく事実を、特権ではなく公正さを選ぼうではありませんか。 私は誇り高い民主党員です。大統領選挙で党の代表として戦うことを誇りに思います。
    私は謹んで、アメリカ大統領候補の指名を受諾します。
    私は民主党の候補者ですが、アメリカ全国民のための大統領となることを約束します。私は、私を支持した人のためだけでなく、私を支持しなかった人のためにも懸命に働きます。それが大統領としての務めだからです。 大統領はすべてのアメリカ国民のためにあります。政党や党派、そして支持層のための存在ではありません。将来に向けた希望、光、お互いを思いやる気持ちを総動員するべき瞬間です。私たちは共和党対民主党の利害の衝突にとらわれず、それより大きく立派であるべきです。 ルーズベルト大統領は、ウイルスと病に打ちひしがれたアメリカを必ず立ち直らせると信じ、それを実現させました。私たちにも、それができるはずです。 この運動は票の問題ではなくアメリカの魂と心を勝ち取るためのものです。自己中心的な人のためではなく、思いやりのある人たちのため、特権階級のためではなく、国のために懸命に働く人たちのため、そして首をひざで押さえつけられる不条理さを突きつけられている仲間のために、そして何より拡大する格差とチャンスが無くなったアメリカしか知らない若い世代のために勝たなければならないのです。この世代にもアメリカの約束を十分に享受する権利があるのです。

    歴史上 経験したことのない4つの危機 今、私たちはこの国の歴史上、経験したことのない困難に直面しています。直面している危機は4つです。同時多発的に起きた嵐の襲撃に直面しています。それは100年に1度のパンデミック、大恐慌以来の経済危機、60年代以降で最も力強い人種差別問題への訴え、そして深刻化する地球温暖化の問題です。私はこれに立ち向かう準備ができていると信じています。 大切でない選挙などありませんが、今回の選挙ほど重要な選挙はありません。今、アメリカは転換点を迎えています。同時に困難の中にあっても途方もない可能性も秘めています。 怒りや分断、疑念に満ちた道を選ぶこともできるでしょう。あるいは皆でこの傷を癒やして一致団結して改革し、希望と光の道を選ぶこともできます。

    アメリカの未来を決める選挙 これはアメリカの未来を決める歴史を変える選挙です。そこで問われているのは人格、思いやり、まっとうさ、科学、民主主義そのものです。私たちは今、どんな国なのか、何のために闘うのか、そして、今後どうありたいと考えているのかが問われているのです。 そして、その選択肢がこれほど明確だったことはありません。事実に基づいてこの大統領を審判してください。新型コロナウイルスに感染した人は500万人、死亡者は17万人に上ります。世界の中でも最悪です。失業手当を申請した人はことし5000万人以上。1000万人以上が健康保険を失い、6分の1の零細企業が閉鎖に追い込まれました。 この大統領が再選されたら、何が起こるのかは明らかです。感染者数も死亡者数も多いまま、個人商店は今度こそ、閉鎖に追い込まれるでしょう。労働者は苦しみ、1%の大金持ちが新たな減税対策で膨大なお金を手にするでしょう。「オバマケア」への攻撃が進み、2000万人が健康保険を奪われるでしょう。 ここでオバマ前大統領に感謝の意を示したいと思います。オバマ前大統領は子どもたちが尊敬しうる、そして実際に尊敬した偉大な大統領でした。
    このことを今の大統領に言う人はいないでしょう。この大統領にあと4年を任せたら、これまでの4年間と全く同じことをするでしょう。責任を取らず、他人を責め、独裁者にすり寄り、分断をあおる。彼は毎朝、大統領の職はほかの誰のためでもなく自分のためにだけあると信じて目覚めるでしょう。
    それがあなたが将来や子どものために望むアメリカでしょうか?私には違うアメリカが見えます。思いやりがあり、強く、謙虚なアメリカです。一緒にアメリカを再建しようではありませんか。

    トランプ大統領はアメリカを守ることに失敗した 私が大統領に就任したら、まず最初に、たくさんの人たちの命を奪った新型コロナウイルスの対策に取り組みます。現大統領が、当初から取り組まなかったことです。新型コロナウイルスに対処しないことには、経済を回復できないし、子どもを安心して学校に戻すことはできません。生活を取り戻すことはできないのです。 今、直面する悲劇は、これほど深刻になる必要はなかったものです。カナダはこれほどひどくありません。ヨーロッパも、日本も。ほかのほとんどの国もです。トランプ大統領は、ウイルスは消えると言っています。彼は、奇跡が起きることを待っているのです。私は彼にこう言います。奇跡は起きないと。 経済は、ぼろぼろです。黒人、ラテン系、アジア系アメリカ人、先住民はその矢面に立たされています。こんな状況なのに、トランプ大統領には計画がありません。私にはあります。3月から計画を練っている国家戦略を就任したその日から実施します。 すぐに結果が出る検査の展開。医療器具や防護のための機器の確保は、中国やほかの国に振り回されないように、アメリカで製造します。学校が安全かつ効果的に再開できるようにするために資源を確保します。政治は脇に置き、専門家に圧力をかけず、社会が求めている情報を得られるようにします。率直で、ありのままの真実を。マスク着用を国として義務化します。それは重荷ではなく、お互いを守るための国民としての義務なのです。 今の大統領は、国への基本的な義務を果たすことに失敗しました。彼はわれわれを守ることに失敗しました。アメリカを守ることに失敗しました。そして、これは、許されないことです。私は大統領として、約束します。私はアメリカを守ります。見える攻撃、見えない攻撃、すべての攻撃から守ります。常にです。

    より良い再建を = Build Back Better われわれが一緒になれば、経済を回復できます。回復させるのです。そして、われわれはただ回復させるだけではなく、より良いものにします。次のように、より良い再建をはかります。 近代的な道路や橋、ブロードバンド、港、空港を整備することによって、経済の成長の基礎を作ります。すべてのコミュニティーにきれいな水を供給するためのパイプを建設するほか、製造業やテクノロジーの分野で新たに500万の仕事を創出します。 トランプ大統領が廃止しようとしているオバマケアを拡充し、保険料や薬代が安くなる医療保険制度を作ります。教育制度を整備し、若者が、よい仕事に就けるようにするほか、高額の学費で大学進学が妨げられたり、卒業後の学生ローンの返済に苦しめられたりしないようにします。 親が仕事に行けるような保育の環境、高齢者が尊厳を保ちながら過ごせる介護の環境を作ります。経済を強くするための移民制度の構築、労働組合の強化、男女の賃金の平等化、賃金の底上げなどをはかります。 気候変動に取り組みます。気候変動は、危機であるとともに、大きなチャンスでもあるのです。アメリカがクリーンエネルギーで世界をリードする、そして何百万もの、高賃金の仕事を作るチャンスなのです。 こうした投資の財源は、税金逃れを無くすとともに、トランプ大統領が実施した1%の富裕層と大企業のための1兆3000億ドル分の減税を取りやめることで確保できます。 高齢者のための年金制度は、侵してはならない約束です。しかし、現大統領は、その約束を破ると脅しています。彼は、社会保障費のほぼ半分を賄っている税金を減らすと提案しています。減税分を賄うすべが無いにもかかわらずです。私はそんなことはさせません。私が大統領になったら、年金と高齢者向け医療保険制度を守ります。

    若者の声に耳を傾ける 今、最も強い声を上げているのが、若者です。彼らは、アメリカの不平等や不公平に対して、声を上げています。経済状況や人種問題などでの不公平についてです。 私には彼らの声が聞こえます。そして、耳を傾けると、あなたにも聞こえると思います。それは、気候変動による脅威であったり、学校での銃撃事件への恐怖であったり、職に就けないという問題であったりします。これらを解決することこそが、次の大統領の役目なのです。

    ハリス氏はアメリカを代弁する存在 こうしたことは、私1人で成し遂げるわけではありません。なぜなら、私のそばすばらしい副大統領(候補)がいてくれるからです。それは、カマラ・ハリス上院議員です。彼女は国を力強く代弁する存在です。彼女の歴史はアメリカの歴史です。 彼女はさまざまな人たち、すなわち、女性、黒人の女性、黒人、南アジア系アメリカ人、移民の行く手を阻む障壁について理解しています。こうした人たちは、取り残された人たちなのです。ただ、彼女自身は、そうした障壁を乗り越えてきました。彼女ほど、大手銀行や銃規制の圧力団体に対して強かった人はいません。彼女ほど、今の政権が過激であることや、法に反していることを非難した人はいません。

    家族の支え 私もカマラも家族から力をもらっています。最初の妻を交通事故で亡くしたあと、ジルと出会い、彼女が家族をまとめてくれました。彼女はこの国をとても愛しているので、いいファーストレディーになるでしょう。 (2015年に脳腫瘍で亡くなった)長男のボーは、もうこの世にはいませんが、彼は今も毎日、私を奮い立たせてくれます。彼はイラク戦争で国に仕えました。

    最高司令官としての責任 私は最高司令官として仕えることに個人的にとても重大な責任を感じています。 私は同盟国や友好国と共に立ちます。そして、敵対国に対し、独裁者とのなれ合いの日々は終わったということをはっきり分からせます。
    バイデン政権の下では、アメリカはロシアがアメリカ兵の首に懸賞金をかけることに目をつむったりはしないし、民主主義の柱である選挙への外国からの干渉を許したりはしません。

    構造的な人種差別の根絶を 歴史は私たちにもう一つの緊急の課題を突きつけました。私たちは、アメリカ人に染みついてきた人種差別を一掃する世代となれるでしょうか?私は、なれると信じています。 1週間前のきのうは、(2017年に白人至上主義者と反対派が衝突した南部バージニア州)シャーロッツビルの事件から、丸3年でした。憎悪を広げようという人々と、それに勇気を持って立ち向かおうという人たちの間で起きた激しい衝突を覚えていますか?そして、トランプ大統領が言ったことばを覚えているでしょうか?「どちらの側にも非常に立派な人たちがいる」という彼のことばを。 この衝突は、私たちが目を覚ますための警鐘でした。私にとっても行動を起こすきっかけでした。私は父から、黙って見ていることは、犯罪を犯していることと同じだと教わりました。私は黙って見ることは絶対にしません。あのとき私は、“われわれは、この国の根幹に関わる闘いの中にある”と言いました。そして、今もです。 この選挙キャンペーンで、私にとって最も大事だった会話の一つが、ジョージ・フロイドさんの葬儀の前日に交わした、6歳の娘のジアンナちゃんとの会話でした。彼女はとても勇敢な子です。私はあのときのことを忘れません。私がかがんで彼女と話したとき、彼女は私の目を見て「お父さんは世界を変えた」と言いました。彼女のことばは私の心の奥深くに刺さりました。 おそらく、ジョージ・フロイドさんの殺害事件は、社会の限界点でした。(人種差別の撤廃に尽力し、先月亡くなった黒人の民主党政治家である)ジョン・ルイス氏の死も、社会への刺激となりました。その結果、アメリカは、ルイス氏が目指した、構造的人種差別の根絶に向けて行動する準備が整いました。

    暗黒の時代を終わらせる 今こそ希望を見いだし、歴史を刻む時です。情熱と目的を持って動き出しましょう。
    憎しみではなく愛を。恐怖ではなく希望を。暗闇ではなく光を。
    今こそがその時です。これこそが私たちの使命です。
    今夜をもって、このアメリカの暗黒の時代を終わらせ、国の根幹を取り戻すための闘いが始まったことを歴史が証明するでしょう。そして、私たちはこの闘いに勝ちます。

    専門家「“結束”をアピール」

    政権奪還への支持を訴えたバイデン氏の演説について、専門家の分析を聞いた。

    明治大学 海野素央教授

    アメリカの民主党の選挙活動を研究してきた明治大学の海野素央教授は、バイデン氏の指名受諾演説について「今回の演説は熱意がこもっていた。アメリカを結束させることや新型コロナウイルスをコントロールすることへの強い決意が示されていた」と指摘。
    中でも「unite=結束」ということばが複数回、使われていたことが興味深かったという。

    海野教授 「このことばは陣営のスローガンでもあり、トランプ大統領との対比を鮮明にするために使っている。バイデン氏は、トランプ大統領はアメリカを守ることができなかった、だから自分が守るのだというメッセージを伝えていた。バイデン氏は、新型コロナウイルスへの対応でトランプ大統領の失敗を強調していたが、共和党支持者の中には、トランプ大統領の対応に強い不満を持っている人もいて、共和党支持でありながらバイデン氏への投票を考える『隠れバイデン票』を獲得しようというねらいがあった」

    こう述べて、国を結束させることができる強いリーダー像をアピールするねらいがあったと分析した。

    また、今回の民主党の全国党大会全体を通じたねらいについては…

    海野教授 「オンライン開催という異例中の異例の党大会となり、熱意がなかなか有権者に伝わりにくかった。それでも、新型コロナウイルスに対応した党大会であったこと、こうせざるをえなかったのはトランプ大統領の失敗によるものだというメッセージを伝えるねらいがあったのだと思う。本来なら『トランプ対バイデン』が今回の選挙の本質だが、党大会では、黒人、女性、若者、共和党関係者までもが演説し、オール・アメリカを演出しようとしていた。つまり、『トランプ対アメリカ』という構図に持っていきたいというのが民主党のねらいだ」

    また、全米の世論調査では一時は10ポイント以上あったバイデン氏のトランプ大統領に対するリードが、7ポイント余りの差へと縮まっていることについて、海野教授はこう分析する。

    海野教授 「アメリカ国民の関心の高い新型コロナウイルス、人種差別(をめぐる抗議デモ)、それに失業率、という3つの課題のうち、後者の2つは状況が改善されつつあり、それがバイデン氏の支持率にも影響している。来週結果が出る世論調査で、バイデン氏の支持率が10ポイント以上上がれば党大会は成功したと言えるのではないか。一方、5ポイント以下であればうまくいかなかったと言える」

    (取材班)