白人参加者の思いは
中西部のミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人の警察官にひざで首を押さえつけられて死亡した事件に対する抗議活動として始まったデモ。
3000キロ離れた西部カリフォルニア州ロサンゼルスでも連日、複数の場所で行われている。
これまでに5回、デモ会場に足を運んだ。
6月5日に、ロサンゼルス市庁舎前のデモで出会ったコリーン・バリーさん(30)。美術関係の仕事をしている。
アメリカが長年抱える人種差別問題にまず向き合うべきなのは、特権を享受してきた白人だと考えるバリーさん。こうした活動には6年前から参加しているが、今回の一連のデモには、これまでとは違う要素もあると感じているという。
まず、連日多くの若者がデモに参加していることについて、バリーさんの考えを聞いた。
「感染拡大の影響もあると思います。多くの人が仕事を失い、時間ができて、自分以外の人が抱える苦しみについて考えるようになったのでしょう」
“社会システムへの抗議”
ただそれだけではない。
今回バリーさんが感じているのは、一連のデモは、単なる警察改革の要求ではなく、長年、白人に特権をもたらしてきた社会システム全体が限界に達したと感じる若い世代が、その変革を求めているデモでもあるということだ。
バリーさんは、その1つが資本主義だと考えている。
資本主義はアメリカの長い歴史で白人に大きな恩恵をもたらしてきた。
しかし今回の新型コロナウイルスの感染拡大では、白人の自分も含めた若い世代の多くが仕事を失い、資本主義が抑圧的であることを見せつけられたと感じていると話す。
ミレニアル世代のバリーさんは、2008年のリーマンショックの影響を受け、経済的に厳しい状況に直面してきた。苦境を経験しているだけに、デモは、既存の社会システムの変革を望む意思表示だと考えている。
「私はミレニアル世代で経済的に厳しい状況が続き、学生ローンも多く抱えています。私たちの世代はフリーランスという立場で働いている人も多く、既存の仕組みに失望を感じています。資本主義という制度も問題だと思っていて、そうしたことも変えることで正義が実現されるのだと考えています」
“感染拡大が人種差別を顕在化”
一方、バリーさんは、今回の感染拡大が、人種差別問題の深刻さをより顕在化させたとも感じている。
バリーさんは先日、新型コロナウイルスに感染した黒人の友人を失った。
医療へのアクセス、居住環境などの面で、黒人が白人に比べて厳しい状況にあることは一般的なデータとしては知っていたという。しかし、そのことを現実の問題として突きつけられた。
「彼女は症状が出たので病院に二度も行ったにもかかわらず、治療も検査も受けられませんでした。3回目に行ったときにはこん睡状態になり、人工呼吸器をつけることになってしまいました。アフリカ系の彼女は人種が理由で不当に扱われ、検査も治療も拒否されたのです」
今も抗議活動は各地で続いている。
バリーさんは、トランプ大統領が抗議デモの一部で過激化した人たちを「悪党」と呼び、必要に応じて大統領の権限で連邦政府からも軍を投入する考えを示したその姿勢などが、かえってデモ参加者の団結を促しているとも感じている。
「トランプ政権になってから、多くの恐ろしいことが起きています。だからこそ人々は、信条、人種、性別をこえて団結しているとも言えます」
さらに会場には、ヒスパニック系やアジア系の人の姿も見られる。
抗議デモは人種の枠をこえて広がりを見せている。
1992年のロサンゼルス暴動のときは大学生だったという黒人女性、ダンナ・キールさんも、結束して声を上げることが重要だと訴える。
「さまざまな人種の人が結集することが、人種差別の問題に変化をもらたすことにつながります」
デモはアメリカ社会を変えるか
アメリカでは11月に大統領選挙がある。
社会の変革を実現するまたとないチャンスとなるはずだ。
バリーさんはどうするのだろうか。
野党・民主党の候補者選びでは、学生ローンの返済免除などを訴えていた左派のサンダース上院議員を支持してきたバリーさん。
選挙では中道派のバイデン前副大統領に投票するかどうかを聞いた。
「とても難しい質問です」と前置きしたバリーさんの答えはこうだ。
「バイデン氏のことは好きではないですし、政策には必ずしも同意できません。しかし、民主党の支持者が左派と中道派で分裂する、あるいは投票に行かないとなれば、結果的にトランプ大統領が再選されてしまいます。これだけは認められません」
全米各地で続く抗議デモの熱気が、どのように大統領選挙に向かうことになるのか。
若者たちの思いを引き続き取材していきたい。