「デモをいかに鎮めるかに主眼置いていた」
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アメリカの社会問題に詳しい慶應義塾大学環境情報学部の渡辺靖教授は、「トランプ大統領は当初からデモをいかに鎮めるかということに主眼を置いていた。今回の警察官の対応を批判せず、デモを行っている人の憤りに理解を示すことなく、ひたすら強硬なメッセージを発しているため怒りがトランプ大統領に向いている」と分析。
そして、抗議デモの今後の見通しについて、「まだ、トランプ大統領は事件現場を訪れて花を手向けていないし、警察の在り方を改める必要があるという、平和的なデモを行う人に寄り添うメッセージを発していない。それが徐々に、警察から、トランプ大統領そのものへの批判に変わりつつあるとなれば、デモは秋の大統領選挙に向けて続いていくのではないか」と指摘した。
トランプ氏 略奪や暴力行為に「国内でのテロ行為」と非難
今回の抗議デモに対するトランプ大統領の政治姿勢を端的に表していると言われているのが、1日にホワイトハウスで事件後初めて行った7分間の演説。
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この中でトランプ大統領は「私は法と秩序の大統領であり、すべての平和的な抗議の味方だ」と述べる一方、略奪や暴力行為については「国内でのテロ行為だ」と強く非難した。
そして「もし州政府や自治体が、住民の財産や命を守るために必要な行動をとらない場合は、私がアメリカ軍を派遣し、速やかに問題を解決する」と述べ、必要に応じて軍を現場に派遣することも辞さない考えを強調した。
「国民全体の融和を誘う内容にはなっていない」
この演説について渡辺教授は、「トランプ大統領は、暴力や略奪の制圧を強調する一方で、警察官のふるまいや人種差別の憤りに寄り添う姿勢は見せていない。また、反ファシズムを掲げる『アンティファ』には言及する一方、極右の側には触れていない。保守的な白人には共感しやすいが、国民全体の融和を誘う内容にはなっていない」と指摘。
そして「平和的なデモをする人は、警察の暴力に対してこそ法と秩序が大切だと思っている。そこに理解を示さぬまま、強硬姿勢を崩さない失望感が、さらなるデモへの広がりを助長する格好になっている」と指摘した。
オバマ氏「マイノリティーへの不公正 米全体で捉えるべき」
アメリカでは、黒人に対する白人警察官の対応が発端となり、大規模な抗議デモへと発展する歴史が繰り返されてきた。
黒人初のアメリカ大統領となったオバマ大統領の時代も例外ではない。
2014年7月には、ニューヨークで白人警察官が、当時43歳だった黒人のエリック・ガーナーさんを違法なたばこ販売をしていた容疑で逮捕する際に、首を絞めて死亡させた。この年の12月、地元の大陪審が白人警察官の起訴を見送る決定をすると、抗議デモが全米へと広がった。
この年は中西部ミズーリ州ファーガソンでも、武器を持たない18歳の黒人少年が白人の警察官に射殺される事件が起きていて、オバマ大統領は12月、黒人社会を中心に抗議と憤りの声が頂点に達する中、演説を行った。
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この中でオバマ大統領は、マイノリティーに対する不公正な対応は、人種や地域、宗教に関係なく、アメリカ全体の問題として捉えるべきだと訴えた。
この演説について、慶應義塾大学の渡辺靖教授は、「オバマ前大統領は警察官の置かれた難しい環境に理解を示しつつ、警察、人権団体、宗教指導者や地域社会との対話を通して、相互不信を取り除くための具体策を模索しようとした」と指摘している。
ただ、人種差別の問題に真正面から取り組む姿勢を示したオバマ大統領だったが、問題はあまりに根深く、8年間の任期中に解決への道筋を示すことはできなかった。
トランプ大統領 演説全文(6月1日)
(ジョージ・フロイドさんが死亡したことを受け、全米に抗議デモが広がる中、ホワイトハウスで演説)
国民の皆さん、大統領としての私が、最初に取り組むべきで、かつ最大の務めは、この偉大な国と国民を守ることです。
私は、この国の法を擁護すると宣誓しましたが、まさにそれを実行する決意です。
すべての国民はジョージ・フロイドさんの残忍な死を前に、居たたまれなくなり、反感を抱きました。
私の政権は、フロイドさんと、彼の家族に公正な裁きがもたらされるよう、全力を尽くします。彼の尊い犠牲をむだにしません。
しかし、平和的に訴えるまっとうな人々の叫びが、怒った暴徒によってかき消されるようなことがあってはなりません。
暴動の最大の犠牲者は、貧困に直面する平和を愛する国民の皆さんです。大統領として、私は皆さんの安全を守るために戦います。
私は法と秩序を重んじる大統領であり、平和的な抗議活動を行う人々の支持者です。
しかし、ここ数日、この国はプロの無政府主義者や暴力的な群衆、放火犯、略奪者、犯罪者、暴徒、ANTIFA(反ファシズムを掲げるグループ)などの勢力に脅かされています。
一部の州政府や自治体は、住民の安全を確保することに失敗しています。
テキサス州ダラスの路上で放置されて亡くなった若者や、ニューヨーク北部で危険な悪党によって攻撃された女性のように、罪のない人々が残酷な暴力に直面しています。
個人事業主の夢が徹底的に壊されています。
ニューヨーク市警の顔がレンガで殴られています。
新型コロナウイルスと対じしてきた勇敢な看護師が、外出することすら恐れています。
警察の分署が攻撃され、ここ首都ではリンカーン記念館と第二次世界大戦の記念碑が荒らされました。最も歴史のある教会の1つが燃やされました。
カリフォルニアでは、法執行のかがみであった黒人の連邦警察官が銃で撃たれ、亡くなりました。
こうした行為は、平和的な抗議活動とは呼びません。これらは、国内のテロ行為です。
罪のない人々の命を奪うことや、罪のない人々の血を流すことは、人類に対する侮辱であり、神に対する犯罪です。
この国が必要としているのは、創造であり、破壊ではない。求められているのは協調であり、軽蔑ではない。安全であって、無秩序ではない。癒やしであって、憎しみではない。公正さであって、混乱ではない。
これが私たちが目指すものであり、私たちは必ず成功させます。100%、成功させることができます。この国は必ず勝利します。
だからこそ、私は直ちに大統領権限を行使して、暴力をやめさせ、アメリカの治安と安全を回復させることにしました。
私は、連邦政府が備える人的資源、すなわち、文民と軍隊を最大限活用し、暴動や略奪、放火や破壊活動を終わらせます。そして、個人が銃を所持する権利を保障している憲法修正第2条と法を守る全国民の権利を守ります。
これから発表することは、直ちに実施されます。
まず、全国に拡大した暴動と無法状態を終わらせます。今、直ちに終わらせます。
本日、私は全国の知事に対し、街中に十分な数の州兵を配備し、街を支配することを強く勧めました。知事や市長は、暴力が鎮圧されるまで、警察権力の圧倒的な存在感を示さねばなりません。
もし州政府や自治体が、住民の財産や命を守るために必要な行動をとらない場合は、私がアメリカ軍を派遣し、速やかに問題を解決します。
私は、偉大なる首都、ワシントンを守るために迅速かつ断固たる措置も実行に移します。
昨夜この町で起きたことは、恥さらしです。
私は、何千人もの武装した兵士と軍人、それに法執行官たちを、暴動、略奪、破壊行動、暴行、財産の無慈悲な破壊行動を止めるために、今まさに、派遣しているところです。
これは、すべての人への警告です。午後7時の外出禁止令は厳格に実施されます。
罪のない人の命や財産を脅かす者は、法律に基づいて、逮捕され、拘束され、訴追されることになるでしょう。
私は、このテロ行為の主催者に、手厳しい刑事罰と長い刑期に直面することを通告しておきます。これは、暴力を導いているANTIFAやそれ以外の扇動者を含みます。
法と秩序。そこにあるのは、たった1つの法律です。
私たちにはすばらしい法律がある。そして、その秩序が取り戻せたら、私たちは皆さんの会社と家庭を、必ず助けます。
アメリカは、法の支配の上に成り立っています。これは、この国の繁栄、自由、生き方の基礎となっています。
法がなければ、チャンスはありません。公正さがないところには、自由はありません。安全がないところには、未来がありません。私たちは、怒りや憎しみに屈服してはいけません。悪意や暴力が優位となれば、自由はありません。
この国への強い愛着と情熱をもって、こうした行動を実行に移す強い決心があります。
最もすばらしい日々はこの先に待ち受けています。
ご清聴に感謝します。
ではこれから、とても特別な場所に行って敬意を払いたいと思います。
ありがとうございました。
オバマ大統領 演説全文(2014年12月)
(黒人のエリック・ガーナーさんを窒息死させた白人警察官が不起訴になった直後の2014年12月に演説)
すでに耳にしているかもしれませんが、大陪審はきょう、ニューヨーク市でエリック・ガーナーさんを取り押さえた警察官らを不起訴とする決定をしました。
すべてがビデオテープに録画されており、私たちがこの1週間、1か月、1年、そして悲しいことに何十年もの間、議論してきた、より大きな問題を提起しました。
それは、あまりにも多くのマイノリティー(非白人の少数派)にとっての懸念、すなわち、警察が彼らに公正に向き合わないという問題です。
そしておそらく、警察から追加の発表があるでしょう。私は、まだ調査が行われる可能性がある事案について、言及しないことにしています。
しかし、皆さんに知ってもらいたいことがあります。
われわれは今週、(ミズーリ州)ファーガソンで起きた問題について、専門の調査グループを立ち上げました。彼らの役割は、差別されていると感じる非白人や少数派の人々と警察との関係をどうやって強化していくか、具体的な提案をすることです。
さらに、私たちは非白人の社会での取締りについて、州や地域の自治体とともに、訓練や業務の方法を改善するため具体的な対応をとろうとしています。
そして、公平さと説明責任が懸念される進行中の事案について、細心の注意を払って調査を行います。
申し上げたように、私はファーガソンの人々や、警察、それに聖職者や人権活動家と会ったとき、これは私たちがあまりにも長く議論している問題で、今こそ、もっと進歩を遂げるべき時にあると話しました。私は話すことではなく、行動することに関心があります。
私はアメリカの大統領として間違いなく、すべての人が法の下に平等であることを心から信じられる国家を実現するため、力を尽くしていきます。
私は、エリック・ホルダー司法長官と電話しました。彼はニューヨークの事案について、より詳しいコメントをするでしょう。
しかし私は、私の演説をきょう聴いている人だけでなく、すべての人に知ってほしい。私たちは、警察と地域社会との間に、より強固な信頼と説明責任を見いだせるまで、決して諦めないということを。
私は、警察が、非常に難しい仕事をしていると感じています。
男性も女性も制服に身を包み、私たちを守るために命を危険にさらしています。
彼らには、私たちと同じように、仕事を終えたあと、家に帰る権利があります。
彼らには、来る日も来る日も、対処しなければならない犯罪があります。
しかし、皆さんの信頼がなければ、彼らは仕事を効果的に実行できないのです。
そして今、残念なことに、警察の対応の公平性に人々が不信感を抱く事例があまりにも多く発生しています。
そのいくつかは、誤解ですが、しかしいくつかは、真実です。
私たちはアメリカ国民として、この問題を人種や地域、宗教に関係なく、アメリカの問題として捉えなければなりません。黒人やヒスパニック、先住民などといった少数派だけの問題ではないのです。
これはアメリカの問題です。この国において、たとえ1人でも、法の下で平等に扱われなければ、それが問題なのです。
そして、それを解決する手助けをすることこそ、大統領としての私の責務なのです。
(国際部記者 松崎浩子、藤井美沙紀、濱本こずえ)