トランプ支持率上昇の背景

アメリカのトランプ大統領の支持率が上昇し、3月27日、過去最高を記録した。
新型コロナウイルスの感染が広がり始めた当初、楽観的な発言を繰り返して批判を浴び、支持率は一時、下落したが、3月下旬に入り上昇し続けている。
その背景と分析をデータからひもといた。

目次

    ①民主党支持層と無党派層の変化

    3月27日、トランプ大統領の支持率が、政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」による各種世論調査の平均値で47.3%を記録した。
    これは2017年1月のトランプ大統領就任以来、最高だ。

    背景に何があるのか。
    まずは、新型コロナウイルスの感染の拡大状況と支持率の変遷を見てみる。

    アメリカで最初の死亡者が報告された2月28日。
    このときの支持率は45.7%だった。

    その8日後、3月7日にフロリダ州で記者から拡大への懸念を聞かれた大統領は「全く心配していない。われわれはすばらしい仕事をしている」と回答。
    支持率は44.5%。

    世論調査専門のピュー・リサーチセンターの3月10日から16日にかけての1週間の結果では、トランプ大統領が新型コロナウイルスの脅威を「甘く見ている」と回答した人は52%に。

    支持率は3月11日に1月以来の低水準の44%に落ち込む。
    このとき、ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が歴史的な値下がりを記録していた。

    全米に緊急事態を宣言するトランプ大統領(3月13日)

    その2日後の3月13日、トランプ大統領は全米に非常事態宣言を発令。
    ここから連日、みずから記者会見に立ち、対策を次々に打ち出し、指導力をアピールする。
    すると支持率は上昇に。
    多少の上下はあるものの3月下旬にかけて上昇傾向は続き、27日の過去最高の水準に到達する。

    では上昇の具体的な要因は何だったのか、調査の具体的な分析から見ていく。

    歴代大統領の支持率調査で定評のあるギャラップ社の値では、トランプ大統領の支持率は3月13日から22日までの10日間で前の週から5ポイント上昇し、49%に到達した。
    この値は、2月にいわゆるウクライナ疑惑をめぐる弾劾裁判でトランプ大統領に無罪評決が出された前後とほぼ同じ水準で、この3年余りで最も高い水準だ。

    内訳を見てみると、共和党支持層の支持率は前回調査から1ポイント上昇して92%。この層の支持率は過去も一貫して高い。

    では何が上昇を後押ししたのか。
    それは民主党支持層と無党派層の支持率の変化だった。

    民主党支持層で大統領を「支持する」と回答した人は全体の13%だったものの、前回調査と比べると6ポイント上昇。
    無党派層では「支持する」が43%で、前回から8ポイント上昇していた。
    それぞれの支持層の過去の支持率と比べると、いずれも最も高い水準だ。
    さらにトランプ大統領の新型コロナウイルスへの対応の是非を聞いた質問では、60%が「支持する」と回答している。

    この結果についてギャラップ社は「民主党支持層と無党派層の支持率上昇は異例だ」と指摘。
    新型コロナウイルスの感染拡大という国家的危機に直面したことが、その要因だと分析する。
    歴代、アメリカが危機に直面したときの大統領の支持率は、平均で10ポイント上昇しているという。

    ②感染者は民主党地盤に集中?

    一方、共和党、民主党の支持層で新型コロナウイルスへの危機感に差があることもこれまでの調査結果で分かってきた。

    トランプ大統領の支持層で新型コロナウイルスが「国民の健康にとっての脅威だ」と回答したのは3月24日現在、52%。
    これに対し、民主党支持層では78%と民主党の支持層のほうが危機感が強い。
    この危機感の強さが危機管理の対応により敏感に反応している可能性もある。

    では共和、民主の間でなぜ危機感に差が生まれているのか。
    トランプ大統領がこれまで楽観的な見通しを示してきたことが影響している可能性もあるが、データから推測されるのはそれぞれの地盤での感染の広がりの違いだ。

    実は新型コロナウイルスの感染は、民主党が支持基盤とする地域でより広がっている可能性がある。

    病院の前に並ぶ患者たち(ニューヨーク)

    3月28日現在の全米の感染状況と、2016年の大統領選挙の結果を照らし合わせてみると、全米の感染者の75%は民主党のクリントン候補が勝利した州に集中している。
    トランプ大統領が勝利した30州では合わせても25%にとどまっている。

    これは、ニューヨークなどの都市部では民主党、地方では共和党という伝統的な傾向と地盤の性質が関係しているかもしれない。
    ただこの傾向は今後、変化する可能性はある。
    感染拡大に伴い共和党支持者の脅威の認識も高まっているからだ。

    ③メディア戦略の奏功か

    上昇するトランプ大統領の支持率。
    これにはメディアの露出も影響している可能性がある。

    アメリカの主要ニュースチャンネルのCNN、FOX、MSNBCのことし2月28日から3月27日までの1か月間の全放送データを解析したグラフを見てみる。
    「新型コロナウイルス」、「トランプ大統領」、野党・民主党の候補者選びを争う「バイデン前副大統領」、「サンダース上院議員」。
    この4つのことばに言及した時間をGDELTと呼ばれるサービスを使って数値化して分析している

    民主党の候補者選びの大きなヤマ場となった3月3日のスーパーチューズデー。
    バイデン前副大統領の大逆転が全米の注目を集めたこの前後の期間に比べて、その後、主要テレビの放送で民主党候補に言及される時間は激減している。
    これに反比例して新型コロナウイルスへの言及が急増。
    関心が民主党の大統領候補者選びから新型コロナウイルスの感染拡大に移っていったことを物語っている。

    事態の深刻化を受けてトランプ大統領は連日、記者会見で対策を打ち出すが、この内容や結果もテレビで大きく取り上げられている。
    トランプ大統領を支持するメディアのコメンテーターたちは今、新型コロナウイルスをめぐる大統領の対応に批判が向かわないようさまざまな「敵」をつくりだしている。
    「感染が拡大したのは中国のせいだ」と中国を批判。
    トランプ大統領から「大統領自由勲章」を授与された保守派の大物ラジオ司会者は、感染対策の最前線に立つCDC=疾病対策センターがトランプの再選を阻む陰の勢力「ディープ・ステート」だと陰謀めいた主張まで展開し始めている。

    感染拡大でアメリカ国民の多くが自宅での待機を強いられ、メディアで流される情報への感度も高まっている。
    トランプ大統領のメディア戦略もまた、支持率上昇に影響していると言えそうだ。

    濱本 こずえ

    国際部記者

    濱本 こずえ

    2009年入局
    函館局、大阪局などをへて国際部
    関心分野は、アメリカ、中国、ITテクノロジー