名古屋 病床ひっ迫などで
“搬送が困難な事例”が5倍近くに急増

2021年1月20日

新型コロナウイルスの感染拡大で病床がひっ迫するなか、名古屋市では救急搬送の受け入れ先がなかなか決まらない事例がこの1か月余りで5倍近くに急増していることが消防への取材でわかりました。名古屋市消防局によりますと事例のほとんどは新型コロナの疑いではない患者で通常の救急搬送にも影響が出ている実態が浮かび上がっています。

総務省消防庁は患者の搬送先が決まるまでに30分以上かかり、病院への問い合わせが4回以上あったケースを「搬送が困難な事例」としていて名古屋市消防局など全国52の消防機関が毎週、件数を報告しています。

名古屋市の「搬送が困難な事例」は2020年12月7日からの1週間は11件でしたが、年末にかけて急増し今月11日からの1週間は54件と1か月余りで5倍近くに急増していることが消防局などへの取材でわかりました。

前の年の同じ時期と比べても4倍以上に増えていて、増加の割合は52の消防機関のうち川崎市消防局に次いで2番目に高いということです。

消防局によりますと受け入れがかなわなかった理由として医療機関からは新型コロナウイルスの入院患者を受け入れているため、空いている病床が少ないことや対応できるスタッフがいないことなどが挙げられたということです。

また、搬送に時間がかかった54件うち、新型コロナウイルス以外の患者が45件とほとんどを占めていたということです。

この中には、心筋梗塞が疑われる患者や骨折している患者などがいたということで、通常の救急医療にも影響が出ている実態が浮かび上がっています。

救急搬送先は駆けつけた隊員が電話で問い合わせ

名古屋市で救急搬送先を探す際、どのようなルールになっているのか名古屋市消防局に聞きました。

名古屋市では通常、駆けつけた救急隊員が患者の容体を確認し、現場から症状に合った治療ができそうな病院に電話をして受け入れが可能か問い合わせをしているということです。

患者が意識がないなど重篤な場合は、早急に搬送先を確保する必要があるため、現場の隊員ではなく119番通報を受ける通信指令の担当者が病院を探すこともあります。

自宅療養中の陽性者や濃厚接触者は市の対策班が対応

一方、自宅療養している新型コロナウイルスの陽性者や濃厚接触者の場合、名古屋市では救急隊員ではなく保健センターから連絡を受けた市の対策班が搬送先を探すことになっています。

病院が調整できると対策班が救急隊に搬送を依頼し、防護服やN95マスクなどを身につけた隊員たちが患者の搬送を行います。

ただ、最近は新型コロナウイルスの感染者の急増による病床のひっ迫から、市の対策本班も搬送先を見つけるのに時間がかかることがあり、患者の容体が悪く一刻も早い搬送が必要な場合は、救急隊も現場で受け入れ可能な病院を探しているということです。

現場の救急隊員「現場は異常な状況」

名古屋市消防局の救急隊員がNHKの取材に応じ、搬送先を決めるのに時間がかかっている現状について「現場は異常な状況だ」と話しました。

名古屋市消防局の蛭川宗健さんは本部救急隊に所属し、名古屋市中心部の救急搬送の対応にあたっています。

蛭川さんは最近の救急搬送について「(新型コロナウイルスの感染者の増加で)搬送しようとした病院に入院できるベッドがないという状況があって救急車の受け入れができないと回答を受けることが多くあります」と説明しました。

さらに、息苦しさや発熱などの症状が少しでもあると、消防が新型コロナウイルスの疑いが低いと判断していても、病院から感染の可能性を指摘され受け入れてもらえなくなる傾向があるといいます。

蛭川さんは2020年12月、発熱や息苦しさを訴えた患者についてその症状の程度や感染者との接触がないことなどから、新型コロナウイルスの疑いが低いと判断し、通常の患者として搬送先の病院を探しました。

しかし、病院から感染の可能性を指摘され搬送先がなかなか決まらず、7か所目の病院がようやく受け入れてくれましたが、現場に1時間ほどとどまらざるを得なかったとということです。

また、腰痛を訴えて通報してきた患者のケースでは、患者に熱が少しあったため、30分以上受け入れ先が決まらず、ほかにも過呼吸の患者で受け入れ先がなかなか決まらなかったケースがあったということです。

いずれも病院側は感染している可能性も否定できないとして、患者を受け入れるベッドが足りないとか、対応するスタッフがいないといった理由で引き受けが難しいと説明されたということです。

こうした状況について蛭川さんは「胸が痛いとか息が苦しいとかそういったものは心筋梗塞の症状としてはよくあることなんですけど、どうしても新型コロナウイルスの症状と少し重なる部分があることで医療機関側もなかなか通常の対応が難しいという回答を受ける場合があります」と話しました。

そして蛭川さんは「医療機関の現状やベッドのひっ迫状況を理解している」としたうえで、「救急車というのは命に関わるものでなので、1分1秒でも早く医療機関へ患者様をお連れするのが仕事ですので、現場に長くとどまっているのは異常な状況じゃないかなと考えています。いつ、大きな急変があるか分からない状況ですので、現場の救急隊員としてもそこに強い不安を感じています」と話していました。

名古屋市消防局「医療機関、市の対策班、消防が連携を密に」

名古屋市消防局の鳥居太救急課長は、救急搬送の受け入れ先がなかなか決まらない事例の増加について「新型コロナウイルスの新規感染者が増加しているという中で、病院に入院している人が増えている。そのためすぐに救急搬送の患者を受け入れる病院が少ないということが要因だと思っています」と分析しています。

そして「医療機関にも厳しい現状があり、直ちに有効な解決策を見つけるのは簡単ではない」としたうえで「医療機関、名古屋市のコロナ対策班、消防がしっかりと連携をして情報を密にして対応していくしかない。われわれも少しでも早く119番通報に応えたいと一生懸命活動しているので、少しでも努力していきたい」と話していました。