五輪 東京 神奈川 埼玉 千葉の
全会場で無観客開催へ

2021年7月9日

東京都で新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、4回目の緊急事態宣言が出されることが決まったことなどを受けて、東京オリンピックは東京、神奈川、埼玉、千葉、1都3県のすべての会場で観客を入れずに開催されることになりました。

東京オリンピックは、開幕が2週間後に迫るなかで競技会場の大部分が無観客になるという極めて異例の事態となりました。

東京オリンピックの観客の扱いをめぐっては、大会組織委員会と政府、東京都、IOC=国際オリンピック委員会、IPC=国際パラリンピック委員会の5者は6月、国内の観客について会場の収容定員の50%以内で上限1万人を原則とすると決めていました。

しかし、その後、都内の感染者の増加に歯止めがかからず、政府が7月12日から東京都に4回目の緊急事態宣言を出すことを決めたことなどを受けて、7月8日夜、改めて5者による会談が開かれました。

この中で人流を抑えより厳しい措置を取るとして、都内で開催される競技は一転してすべての会場で観客を入れずに開催することが決まりました。

さらに5者の会談のあとに開かれた、競技会場がある自治体と組織委員会などの会議で、まん延防止等重点措置が延長されることになった神奈川、埼玉、千葉の3県についても東京都と同様に無観客での開催が決まりました。

一方で、宮城、福島、静岡の3つの県は収容定員の50%以内で上限1万人とする原則で観客を入れ、茨城県は学校連携観戦チケットによって子どもたちの観戦のみ認めることとしました。

北海道は扱いが決まらず、検討が続けられます。

東京オリンピックは、大会の直前で大会の根幹とも言える観客の扱いが変わり、競技会場の大部分が無観客になるという極めて異例の事態となりました。

これによって大会運営や輸送態勢、それにボランティアの対応などに大幅な見直しが迫られることになり、コロナ禍で初めて開かれるオリンピックは選手のモチベーションへの影響など数多くの課題を抱えたまま、2週間後の開会式を迎えることになります。

一方で、7月16日までに観客の扱いを決める方針だった東京パラリンピックについては新型コロナの感染状況などが見通せないとして、オリンピックの終わったあとに判断が先送りされることになりました。

組織委 橋本会長「より多くの方に理解いただける」

大会組織委員会の橋本会長は「より多くの方に理解いただけるという判断のもとに無観客での開催を決めた」と理由を説明し、「1都3県では無観客となったがアスリートの活躍がすばらしいものだったと思ってもらえるような努力を続けていく」と話しました。

会場に入場できる関係者について武藤事務総長は、「IOC委員、国際競技団体の幹部などは観客ではない。それぞれの役割を持った人たちでアクレディテーションというパスが支給されるので入ることができる。必要な人数を絞る必要はあるが、大会関係者はオリンピック憲章に基づいて行動している人で会場に入ることができる」としました。

一方で武藤事務総長は、医療体制について「医師や看護師についてはほとんど確保できる状態ではあったが、このような事態を踏まえ、医療従事者の負担を軽減するために従事してもらう期間や人員の数を縮減できる可能性がある。見直しに着手したい」と話しました。

また、パラリンピックの観客の判断について橋本会長は「今後の感染状況を踏まえて判断する必要があることから、オリンピックが閉会したのちに観客数の取り扱いを決めることとする」と話しました。

丸川五輪相「より一層の縮減を」

丸川オリンピック・パラリンピック担当大臣は、5者会談などのあと記者団に対し「今回の緊急事態宣言などの発出を受け、東京都で行われる競技については無観客とすることとされた。また、埼玉県、千葉県、神奈川県で行われる競技についても無観客とされ、宮城県、福島県、静岡県で行われるものについては、6月21日の5者協議の合意のとおり、収容人数50%、あるいは1万人以内の小さいほうとすることとされた。茨城県については、学校連携のみ、北海道については検討中となったところだ」と述べました。

そのうえで「私からは、大会運営関係者について、真に必要な人数に限ることとし、より一層の縮減を図るよう強くお願いした。また、宣言の発令に伴い、対象となる地域では、日中も含めた不要不急の外出や移動の自粛などが求められていることを伝え、海外から入国するすべてのアスリートや大会関係者が宣言下で行われる大会であることを認識したうえで、『プレーブック』に示された水際対策の強化などについてしっかり理解し、順守するよう周知徹底をお願いした」と述べました。

そして、丸川大臣は「大会まで残り2週間となったが、引き続き5者での緊密な連携のもと、安全安心な大会の実現に向けて準備を進めていく」と強調しました。

千葉県 熊谷知事「感染リスク 大きく低減された」

千葉県の熊谷知事は、政府や組織委員会、関係自治体とのオンラインでの協議会のあと、記者団の取材に応じ「1都3県についてはすべての会場で無観客とする案が組織委員会から示されたので、それに賛同しました。県民に行っている要請との矛盾が回避され、感染リスクが大きく低減されたと思っている」と述べました。

また「組織委員会からは学校連携観戦チケット分も含めて、無観客とする方針が示された。ただ、これは決まったものではなく、県内の開催自治体から子どもたちは入れてほしいという希望も出ているので、今後協議していきたい」と述べました。

東京都 小池知事「断腸の思い」

東京都の小池知事は臨時の記者会見で、「5者協議で私からは『都民の命と健康を守り、安全を重視した大会にするため、人の流れの抑制や感染拡大の防止に向けたより厳しい措置が必要である』という考えを申し上げた。都内の会場については、人の流れを抑制して感染拡大を防止する観点から無観客となった」と述べました。

そして、「大会会場で直接見たいということで楽しみにしていた方々もたくさんいると思う。断腸の思いだが、ぜひ、家族で、自宅で、安全・安心に大会を存分にご覧いただきたい」と述べました。

また、小池知事は「東京大会の原点は、復興オリンピック・パラリンピックであり、平和の祭典だ。今、世界中がコロナに苦しんでいるなかで、懸命な努力を重ねてきたアスリートが一堂に会して競うというスポーツの力で、世界に向けて勇気や団結、連帯を示す大会になることを期待している。何としても感染の拡大を抑え、安全・安心な大会として成功に結びつけていくことが東京や日本の貴重なレガシーになると考えている」と述べました。

神奈川県 黒岩知事「神奈川だけ観客をいれることはできない」

神奈川県の黒岩知事は政府や組織委員会、関係自治体とのオンラインでの協議会のあと取材に応じ、「1都3県は無観客が決定した。楽しみにされていた方がたくさんいると思うので申し訳ない気持ちだが、感染が増えつつある状況でまん延防止等重点措置が出されていることもあり、やむをえない」と述べました。

そのうえで、「県内で競技を開催するために苦労して誘致したのを無観客にするのは非常につらい決断だったが、感染拡大につながることも想定されるなかで、神奈川だけが観客をいれることはできないと判断した」と話していました。

埼玉県 大野知事「1都3県は同一の基準にすべき」

埼玉県の大野知事は5者会談の後に開かれた連絡協議会後に報道陣の取材に応じ、県内で行われるサッカーやバスケットボールなど4つの競技すべてについて無観客とすることを決定したと明らかにしました。

大野知事は協議会の中で、政府や組織委員会から「埼玉県でも無観客としたい」という案が示され、1都3県は同一の基準にすべきという観点などからこの案に賛成したということです。

そのうえで大野知事は「楽しみにされていた方、チケットを買われていた方には申し訳ないが、感染状況を考え、安心・安全を優先させることにした。大変残念だが、感染防止の観点からはこの決定を歓迎する」と述べました。

茨城県は「学校連携観戦チケット」の入場者のみ

茨城県の大井川知事は、カシマスタジアムの観客について夜間の試合は無観客とし、午後5時から行われる試合は競技会場のある自治体などの児童・生徒たちに割り当てられている「学校連携観戦チケット」の入場者のみを受け入れると決めたことを明らかにしました。

「学校連携観戦チケット」は、カシマスタジアムで午後5時からの6試合のうち3試合に用意されていて、鹿嶋市とつくばみらい市にある小中学校と、県内の高校、合わせて23校からおよそ4000枚の申し込みがあったということです。

大井川知事は、「われわれの判断を取り入れる形で決定いただいた。観客は県内に住む人に絞られることになるので、組織委員会には大会関係者と選手の感染対策を責任を持ってやってもらいたい」と述べました。

福島 観客の上限7150人で

福島や宮城などでは観客を入れることになりました。

このうち福島市で行われるソフトボールと野球の試合は、観客の上限を7150人とすることが決まりました。

福島県の内堀知事によりますと、組織委員会側から、緊急事態宣言などが出されていない地域では観客を入れて開催するよう要請があり、検討が続く北海道を除く福島、宮城、茨城、静岡の4県では、感染対策を行った上で観客を入れることが決まりました。

7月21日と22日、それに28日に福島市の県営あづま球場で行われるソフトボールと野球の試合は、通常のチケットと学校連携観戦チケット、東日本大震災被災3県チケット、それに大会関係者を含めて、オリンピック用の収容定員の半分の7150人が上限となったということです。

県庁で記者会見した内堀知事は「最優先課題は安全安心の確保だ。気を引き締めて福島県として最善の措置を尽くしていかないといけない。直行直帰が一番のポイントで、しっかり啓発して実行するよう組織委員会などに訴えていきたい」と述べました。

チケット収入は大幅に減

観客を収容定員の50%以内で1万人を上限とした際に、900億円と見込まれていたチケット収入は、当初の想定の半分を下回るという見通しが示されていました。

これが東京など1都3県の会場を無観客とすることでチケット収入は大幅に減少し財政面の負担増加は避けられない状況です。

2020年12月に公表された東京大会の予算は、総額1兆6440億円でこの経費は組織委員会と東京都、それに国が負担することになっていますが、すでに組織委員会の収入が足りず東京都が150億円を肩代わりする事態になっています。

それぞれの実質的な負担額は組織委員会が7060億円、東京都が7170億円、国が2210億円です。

観客のコロナ対策や警備費用などはキャンセル料がかかったとしても経費負担が少なくなる可能性もありますが、費用が不足することになれば、東京都などの税金からさらに負担が増える可能性があります。

新型コロナウイルスの経済への影響が続く中で東京大会開催が都民や国民の理解を得られるかがあらためて問われることになります。

大会ボランティア 全員参加は現時点では見通せず

東京オリンピック・パラリンピックには、競技会場や選手村などで運営をサポートする大会ボランティアがおよそ7万人参加することになっています。

このうち観客に関係する役割では、競技会場などでの観客の案内がありますが、案内を行う対象は大会関係者を含むため、無観客になる場合でも一定の人数は必要になるとしています。

組織委員会は、無観客になる場合でも希望するボランティアすべてに参加してもらいたいとしていて、ほかの役割に変更することや活動する日数の調整を検討していますが、関係者によりますと、無観客になる会場が多くなると調整が難しい可能性があり、全員が参加できるかは現時点では見通せないということです。