オミクロン株 水際対策
当面継続も段階的見直し含め検討へ

2021年12月29日

オミクロン株への水際対策について、政府は当面継続する方針です。ただ、国内での市中感染が相次ぎ効果は限定的になりつつあるという指摘もあり、今後の感染状況も見極めながら段階的な見直しも含め検討していく方針です。

オミクロン株の世界的な拡大を受けて、政府はおよそ1か月前から水際対策を強化していて、外国人の新規入国を原則停止し、日本人の帰国者などは滞在先の感染状況に応じて検疫所が指定する宿泊施設に3日間から10日間とどめる措置をとっています。

また、感染が確認された人の濃厚接触者には、14日間、自治体が確保した宿泊施設などに待機するよう求めています。

これによって、政府はオミクロン株の国内への侵入を一定程度遅らせることができたとしていて、当面継続する方針です。

一方、検疫での感染確認が増え続け、待機などに必要な施設を確保するのが難しくなる中、政府は12月28日から感染者と同じ飛行機に乗っていた人の「濃厚接触者」の定義を見直しました。

これまでは「乗客全員」を濃厚接触者としていましたが、「感染者と同じ列と、前後2列の乗客など」に限定されました。

専門家などからは、国内で市中感染が相次ぎ水際対策の効果は限定的になりつつあるとして、国内での感染対策に重点を移すべきだという指摘も出ています。

このため政府は、年末年始の感染状況も見極めながら水際対策の段階的な見直しも含め対応を検討していく方針です。

現在の水際対策は?

新型コロナの変異ウイルス、オミクロン株の世界的な拡大を受けて、政府は11月末から当面の措置として水際対策を強化しました。

具体的には、人道上の配慮が必要な場合などを除いて、世界のすべての国や地域からの外国人の新規入国を原則、停止しました。

また、オミクロン株の感染が確認された国や地域から帰国した日本人などは入国後、滞在先の感染状況に応じて3日間から10日間、検疫所が指定する宿泊施設にとどめる措置をとってきました。

厚生労働省などによりますと、こうした措置の対象は12月29日現在でおよそ60の国と地域に広がっています。

▽オミクロン株が最初に確認された南アフリカやジンバブエ、アンゴラなど、アフリカの11か国は10日間、▽イギリス、イタリア、韓国など14の国と地域は6日間、▽アメリカの大半の州、カナダ、ロシアなど38の国と地域は3日間となっています。

さらに、検疫で確認された感染者の濃厚接触者についても、14日間、自治体が確保した宿泊施設などに待機するよう求めています。

こうした中で、水際での感染確認や濃厚接触者が増え続け、施設が確保しにくくなっていることなどもあり、濃厚接触者の定義が見直されました。

これまでは感染者と同じ飛行機に乗っていた「乗客全員」でしたが12月28日から「感染者と同じ列と、前後2列の乗客など」となりました。

これは従来の新型コロナのウイルスと同様の対応です。

専門家「方針転換が求められる時期」

政府のオミクロン株の水際対策について、厚生労働省の専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授は「当初、オミクロン株の感染が非常に広がりやすいことが海外のデータで示され、水際対策としてできることはやろうという方針で、入国者の制限や一定期間の待機などが行われてきた。また濃厚接触者を広めに捉えて検査なども追加で行ってきたことで、ある程度の時間稼ぎができて、オミクロン株の病原性や今後の戦略を検討することができた。しかしながら、国内で徐々に市中感染が見えている中で、今後はできるだけ国内対策を重視していくような方針転換がちょうど求められている時期だ」と指摘しました。

その上で、医療体制について「医療機関は、特に軽症のオミクロン株の感染者が増えてくることを想定して受診体制などを構築していく必要がある。特に冬場は新型コロナウイルスだけでなく心筋梗塞や脳梗塞など循環器系の疾患が多い時期なので、通常の医療と両立するには限られた医療資源を有効に使い、徐々にシフトしながら乗り越えていくことになる。今後、都市部で市中感染が増えてくるという想定で、病床を少しずつ国内の対応に使い、特に軽症の患者は自宅でも待機できるようにするなどして感染者の急増に備えていく必要がある」と述べました。

そして、感染対策について「やはり急がれるのは3回目のワクチン接種で、どれだけ早く進められるかがその後の感染をどの程度抑えられるかにもつながっていく。また、市民の方は基本的な感染対策を継続し、かぜのような症状があれば正月の間、ほかの人に会わないようにして場合によっては帰省も諦めていただきたい。今、検査もいろいろなところで受けられるようになってきているので、そういったことも活用して海外のような急激な感染者の増加をみんなで食い止めていくことが、この冬場の日本に求められている」と指摘しました。

感染者入院の医師「急増時の対応 できるだけ早く示して」

新型コロナウイルスのオミクロン株に感染した人が入院している東京都内の医療機関の医師が、NHKの取材に応じました。病床や医療従事者の数は限られていて、国に対して感染者が今後急増した場合の対応をできるだけ早く示してほしいとしています。

東京 大田区の荏原病院は新型コロナウイルスに感染した患者を受け入れる専門病院で国内で、最大規模の240の病床があります。

東京都からの要請を受けて12月18日からオミクロン株に感染した人やその疑いがある人を受け入れていて、12月28日の時点で26人が入院しています。

診察などを行っている吉利賢治医師によりますと、26人全員が12月海外から帰国した人で、せきなどの症状のある人がいるものの軽症の人がほとんどで、症状がないケースも多いということです。

重症化した人は今のところいないということです。

吉利医師は「オミクロン株に感染した人は『元気なのになぜ入院する必要があるのか』という思いが強く、説明や不満を聞くなどの対応をしているが、医療従事者の精神的な負担が大きいと感じる」と話しています。

現在は病床にまだ余裕はあるとした上で「オミクロン株に感染する人がさらに増えると、対応できる病床の数はそれほど多くはないので、感染した人全員が入院する今の対応を続けることは難しい」と述べて、国に対して、オミクロン株の感染者が急増した場合の対応をできるだけ早く示してほしいとしています。

吉利医師は「オミクロン株の感染拡大が防げるのであれば、きちんと対策をとった上で感染した人を病院ではない施設で受け入れるなどの対応が考えられるのではないかと、現場で対応する医師として思っている」と話しています。

検査機器備えた「移動病院」の活用検討

東京 墨田区は、オミクロン株による第6波の感染拡大に備えて、ある車両の活用を検討しています。

それは検査機器を備えた「移動病院」ともいえる医療用の大型車両で、感染が拡大している地域に駆けつけ、臨時の医療の拠点として活用を検討しています。

この「移動病院」は医療用の大型車両で、車内にPCR検査や超音波検査、さらに肺炎の状態を確認するCT撮影ができる機器が設置されていて、どこにでも移動させて臨時の医療の拠点として使うことができます。

墨田区は、東京曳舟病院が災害対応のためにこの車を導入したことを受けて、第6波では臨時のPCR検査センターなどとして活用しようと、今週、病院と合同で訓練を行いました。

訓練は車のそばに設置されたウイルスを飛散させない「陰圧テント」の中で患者の検体を採取したあと、すぐに車内でPCR検査を行い、患者のCT画像を撮影するまでの手順を確かめました。

区によりますと、PCR検査は15分ほどで結果が出て迅速に陽性か判断できるうえ、CT画像を人工知能=AIが解析し、肺炎の状態も確認できるということです。

墨田区は、介護施設などで大勢の発熱者が出た場合、車で現地に駆けつけ感染の有無や症状の重さをその場で確認し、緊急度の高い患者を速やかに入院につなげたいと、活用の検討を進めています。

墨田区保健所の西塚至所長は「コンパクトで車を停める場所さえあれば、総合病院がすぐ来てくれるようなもの。重症者をできるだけ早く入院させていくトリアージの拠点としても大きな力を発揮すると思う。感染力が高いとされるオミクロン株で、1人の重症者、死者も出さないように、どう活用するか検討していきたい」と話しています。