コロナ第6波に備える “飲み薬”
治療薬の開発はどこまで

2021年11月8日

新型コロナウイルスの感染はいまは収まってきていますが、いつ来るか分からない感染拡大の第6波に備える動きも進んでいます。感染する前に接種するワクチンについては、アメリカで5歳から11歳の小学生の年代のワクチン接種も始まり、日本国内でも3回目の接種の議論が行われています。

一方で、感染した場合の対策の切り札として期待が高まっているのが飲み薬などの治療薬です。

開発の現状についてまとめました。

11月4日 イギリスで初めて承認

11月4日、新型コロナウイルスに感染した患者の初期段階の治療に使える飲み薬がイギリスで初めて承認されました。

症状が悪化しないうちに自宅などでも服用できる飲み薬があれば、重症化を防ぐことができ、亡くなる人を減らすことにつながるとされ、各国の製薬会社が開発を急いでいます。

「メルク」開発 “モルヌピラビル”

イギリスの医薬品規制当局は、11月4日、新型コロナウイルスの増殖を抑えるための飲み薬「モルヌピラビル」を承認したと発表しました。

アメリカの製薬大手「メルク」が開発したこの薬は、重症化を防ぐ効果が示され、初期段階の患者に使える初めての飲み薬です。

感染が確認されたらなるべく早く、症状が出た場合は5日以内に服用することが推奨され、軽症から中等症の患者で、肥満や糖尿病などの重症化するリスクが少なくとも1つはある人が対象だとしています。

▽入院や死亡のリスク 約50%低下

会社の発表によりますと、治験では発症から5日以内の患者で、重症化リスクのある760人余りを薬を投与するグループと、プラセボと呼ばれる偽の薬を投与するグループに分けて、経過を比較したところ、プラセボを投与したグループでは、入院した人や死亡した人の割合が14.1%だったのが、薬を投与したグループでは7.3%で、入院や死亡のリスクがおよそ50%低下したとしています。

メルクは、アメリカのFDA=食品医薬品局にも緊急使用の許可を申請しているほか、日本国内でもメルクの日本法人が承認申請して年内の供給を目指す考えをこれまでに示しています。

「ファイザー」開発の飲み薬

アメリカの製薬大手ファイザーは11月5日、新型コロナウイルスの増殖を抑えるための飲み薬について、入院や死亡のリスクを89%低下させる効果がみられたと発表しました。

新しい抗ウイルス薬と既存の抗エイズウイルス薬を組み合わせた薬で、欧米やアジアなどで最終段階の治験が行われています。

▽入院や死亡のリスク 89%低下

治験では、新型コロナの発症から3日以内で重症化リスクのある患者770人余りに対し、薬を投与するグループと、プラセボと呼ばれる偽の薬を投与するグループに分けて経過を比較したところ、入院、または死亡した人はプラセボを投与したグループでは385人中27人で7.0%だったのが、薬を投与したグループでは389人中3人で0.8%と、入院や死亡のリスクが89%低下したとしています。

有害事象も薬を投与した人たちとプラセボを投与した人たちで頻度は変わらず、ほとんどが軽かったとしています。

ファイザーは、今後速やかにアメリカFDA=食品医薬品局に緊急使用の許可を申請する手続きを進めるとしています。

「メルク」と「ファイザー」は、それぞれ感染者と同居する人が予防的に服用することで、感染や発症を防ぐ効果があるか調べる治験も進めています。

「ロシュ」開発 “AT-527”

スイスの製薬大手「ロシュ」は、「AT-527」と呼ばれるC型肝炎の治療薬として開発を進めてきた抗ウイルス薬が新型コロナウイルスにも効果があるかどうか、日本の患者を含めて最終段階の治験を進めています。

日本国内での開発などを行っている中外製薬によりますと、来年にも、厚生労働省に承認申請をしたいとしています。

▽軽症や中等症ではウイルス量の明らかな減少示されず

しかし、この薬について、海外で行われている治験の中間的な結果では、基礎疾患があり、重症化リスクのある患者でウイルス量の減少が見られた一方、軽症や中等症の患者ではウイルス量の明らかな減少が示されなかったとしていて、計画の見直しを検討しているとしています。

「塩野義製薬」開発の飲み薬

大阪に本社がある製薬会社「塩野義製薬」は2021年7月から薬の安全性を確かめる第1段階の治験を進め、安全性に大きな問題はなかったとして、最終段階の治験を2021年9月から始めたと発表しました。

しかし、国内で感染者が大きく減少していることから、患者の確保が難しくなる可能性があるとして、11月1日、依然として感染者数が多いシンガポールや韓国、イギリスなど海外でも臨床試験を行う方針を明らかにしています。

「富士フイルム富山化学」「興和」も治験進める

このほか、日本の製薬会社の「富士フイルム富山化学」がインフルエンザの治療薬の「アビガン」について、同じく日本の製薬会社の「興和」が寄生虫による感染症の特効薬「イベルメクチン」ついて、それぞれ新型コロナに対する効果があるか、最終段階の治験を進めています。