外国人観光客受け入れ 6月10日再開
当面添乗員付きツアー客限定

2022年6月10日

新型コロナの影響で停止していた外国人観光客の受け入れがツアー客に限定する形で、6月10日から再開されました。再開はおよそ2年ぶりですが、ビザの発給手続きなどのため実際にツアー客が訪れるには早くても1か月程度かかる見込みです。

政府は、6月10日から外国人観光客の受け入れをおよそ2年ぶりに再開しました。

一日当たりの入国者数の上限2万人の範囲内で受け入れ、入国の対象は感染のリスクが最も低いとされるアメリカや韓国、中国など98の国と地域です。

感染拡大を防ぐため当面は、添乗員付きのツアー客に限定することにしています。

大手旅行会社によりますと、ツアーの参加者の募集やビザの発給手続きに時間がかかるため、実際にツアー客が日本を訪れるには早くても1か月程度かかる見込みだということです。

一方、観光庁が旅行会社など事業者向けに作成したガイドラインでは、ツアー客に対してマスクの着用をはじめ感染防止対策を徹底することや、国内で入院したり治療を受けたりする場合に備えて、民間の医療保険に加入してもらうことに同意を得る必要があるとしています。

外国人観光客の受け入れ再開は地域経済の回復につながることも期待されますが、訪日外国人が年間3000万人を超えていたコロナ前の水準には到底及ばず、今後、感染対策を徹底しながら制限を緩和していけるかどうかが課題となります。

各国の感染状況などに応じ 水際対策も緩和

外国人観光客の受け入れを再開するに伴い、各国の感染状況などに応じて水際対策も緩和されています。

今回受け入れの対象になる98の国と地域からの添乗員付きのツアー客は、ワクチン接種を受けていなくても入国時の検査や待機措置は免除されます。

これ以外の国と地域については、引き続き入国目的はビジネスや留学などに限定され、観光客は受け入れの対象とはなっていません。

ただ、このうちインドやベトナムなど99の国からの入国者は3回のワクチン接種で検査や待機措置が免除され、パキスタンなど4か国はこれまでどおり検査と待機を求めます。

これまで入国者を受け入れていた成田空港、羽田空港、中部空港、関西空港、福岡空港に加えて、6月中には新千歳空港と那覇空港でも国際線が再開され、受け入れが始まる予定です。

厚生労働省によりますと、各空港では検査が必要な人と必要ない人の動線を分け、スムーズに手続きができるようにしているということです。

検査が必要ない人で事前にウェブ上で審査の一部を完了している場合は30分程度で検疫の手続きを終えているということです。

一方、いずれの入国者も、入国時のサーモグラフィーによる検温で発熱が確認された場合などは検査や宿泊施設での待機を求めています。

厚生労働省は「検疫体制を改めて整え、陽性者が出たり重症化したりした場合は適切に対応したい」としています。

松野官房長官「地域経済活性化につながること期待」

松野官房長官は、閣議のあとの記者会見で「訪日旅行の再開が地域経済の活性化などにつながることを期待している。観光庁が感染拡大防止のために留意すべき事項などを整理し公表したガイドラインを各関係者に十分理解し、順守していただくよう、引き続き周知に努めていく」と述べました。

そのうえで、今後の水際対策について「段階的に平時同様の受け入れを目指していくが、入国者総数の管理も含め検疫体制や防疫体制の実施状況などを勘案し、新型コロナの内外の感染状況や主要国の水際対策の状況などを踏まえながら適切に判断していく」と述べました。

後藤厚労相 水際対策の緩和「段階的に」

後藤厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で、水際対策の緩和について「客観的なエビデンスにしたがって、通常の生活を取り戻す観点とのバランスで進めてきたが、今後も、感染状況などを丁寧に見ながら検討し、段階的に進めていく」と述べました。

旅行会社 添乗員同行のプランに作り直しなど対応

外国人観光客の受け入れ再開に向け、都内の旅行会社は感染防止対策などをまとめた国のガイドラインの求めに応じ、自由行動が設定されていたこれまでのツアーを改め、全行程で添乗員を同行させるプランに作成し直すなどの対応に追われています。

東京 品川区の旅行会社は、外国人観光客の受け入れ再開にあたり、感染防止対策などをまとめた観光庁のガイドラインに基づき、ツアーを検討する会議を開きました。

このうち、スペイン語圏からの旅行者向けの東京や京都をめぐるツアーでは、これまで自由行動の日が設定されていましたが、ガイドラインでは全行程で添乗員が同行することを求めているため、このツアーを改め、添乗員が同行する新たなプランを作成することにしました。

また、国や地域によって濃厚接触者の定義や求められる行動制限が異なることから、日本での考え方を十分周知することや、これからの暑さに向け、3密を避けられる場所などではマスクを外すよう、添乗員がこまめに案内することを確認していました。

会社は今後、添乗員を対象にガイドラインを徹底するための研修を検討しています。

「JTBグローバルマーケティング&トラベル」の西内史 イベロアメリカ営業部長は「旅行者にガイドラインを丁寧に説明し、おもてなしと感染防止対策の両立を目指したい」と話しています。

デパート SNS使った情報発信を強化

いわゆる「インバウンド消費」が新型コロナ前の業績を下支えしていた大手デパートでは、外国人観光客の受け入れ再開を機に、売り上げの回復を図ろうとSNSを使った情報発信に力を入れています。

大手デパートの三越伊勢丹では、外国人観光客の受け入れ再開に向けて、この春以降、主に中国人向けにSNSでの情報発信を強化してきました。

これまでは日本への関心をつなぎとめようと国内の観光名所を主にPRしてきましたが、内容を大幅に更新し、靴や帽子をはじめ、店で扱う日本で流行の商品を情報の中心に据えました。

さらに、受け入れ再開後は時計をはじめとする高級品を前面に押し出すなどブランドイメージを高める戦略です。

このグループでは、新型コロナ感染拡大前の2018年度には売り上げのおよそ6%が外国人観光客によるもので、そのおよそ7割を中国からの観光客が占めていましたが、感染拡大で激減しました。

中国ではいまも、感染を徹底的に抑え込む「ゼロコロナ」政策が続けられ、中国からの観光客の実際の来店はまだ先とみられますが、店の魅力を前もって発信することで旅行の計画段階から選択肢に入れてもらい、売り上げの早期回復を図りたい考えです。

三越伊勢丹の谷井千英子さんは「今後は感染対策の呼びかけ方や免税などの受け入れの体制も整え、外国の人たちが来日した際に店での買い物を楽しんでもらいたい」と話していました。

長野 善光寺 外国人向けガイド 準備を本格化

各地の観光地では期待が高まっています。

長野市の善光寺の参道にある菓子店の店員は「日本人の観光客も増えてきたので外国人の方にも善光寺を知ってもらいたいです」と話していました。

また、善光寺などの観光地で外国人向けのガイドを行うボランティアグループ「梵鐘の会」では、受け入れ再開に向けた準備を本格化しています。

このグループのメンバーはおよそ60人で年間5000人以上にガイドをしてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大でしばらくの間、活動の休止を余儀なくされました。

その間もいつ外国人観光客の受け入れが再開しても対応できるようにと月に2回のガイドの研修は続けてきたということで、すでにイギリスやタイからガイドの依頼が入っているということです。

「梵鐘の会」の半田武夫会長は「再スタートになるので、十分準備してガイドの精度を上げて取り組んでいきたい」と話していました。

広島 宮島 着付けや茶道など体験施設の事業者 期待と不安

世界遺産の厳島神社がある広島県の宮島で、着物の着付けや茶道などの体験を行っている事業者からは期待と不安の声が聞かれました。

この施設は300年以上の歴史がある寺を改修して5年前にオープンし、着物の着付けや茶道、それに書道、座禅などを体験することができます。

新型コロナウイルスの感染拡大前には多いときで月に300人ほどの利用客がいて、このうち9割以上はアメリカやヨーロッパ、オーストラリアなどからの外国人観光客でした。

しかし、感染拡大の影響で利用客は大幅に減少し、おととしは3か月間休業したほか、いまも予約が入った日だけ営業しています。

このため、外国人観光客の減少を少しでもカバーしようと、おととしから日本人向けに着付けや茶道をセットにしたプランを通常より安い価格で提供してきましたが、ことしの売り上げは感染拡大前の3割ほどにとどまっています。

一方、海外からの観光客が来なかった間もスタッフは自宅で英語の勉強を行うなど準備を続けてきました。

外国人観光客の受け入れの再開が決まったあとも予約が増えているわけではありませんが、今後の利用客の回復に期待しています。

「okeiko Japan」の橋口栄 代表取締役は「インバウンドを中心に営業してきたので、本当につらい2年間でしたが、絶対に諦めないという気持ちで事業を続けてきました。やっと海外の方を迎えられるかと思うと楽しみですが、売り上げが新型コロナの感染拡大前のように回復するか、正直まだ不安も大きいです」と話していました。

外国人に観光ガイド「通訳案内士」まだほとんど仕事の依頼入らず

外国人観光客の受け入れが再開されるものの、外国人に観光ガイドを行う国家資格「通訳案内士」の団体にはまだほとんど仕事の依頼が入っておらず、苦境が続いています。

東京 中野区に事務所がある通訳案内士の団体は、旅行会社などから観光ガイドの仕事の依頼を受け、全国のおよそ1000人の通訳案内士を紹介しています。

しかし、外国人観光客の受け入れ再開が決まったあとも仕事の依頼はまだ数件しか入っておらず、いずれも来年の春や夏のものばかりだということです。

今の時点では一日当たりの入国者が2万人に制限されているうえ、対象者がツアー客に限定されるため、団体には海外の人から「当面、訪日を控える」という声も寄せられているということです。

この団体が2021年、通訳案内士を対象に行った調査では、回答した489人のうち80%近くの人が「この仕事での収入がほぼゼロだった」と答えていますが、外国人観光客の受け入れが再開されても状況が好転するのはまだ見通せない状況です。

全日本通訳案内士連盟の松本美江理事長は「再開されても私たちが期待したような状況にはなっていない。個人の旅行客が入国できない状態なので回復は難しい」と話していました。