警戒すべき変異ウイルスの特徴は

2021年3月17日

新型コロナウイルスのうち、感染力が高いとされる変異や免疫が働きにくくなるとされる変異があるものなどが世界の100を超える国や地域から報告されていてWHO=世界保健機関や各国が警戒を強めています。
(3月16日現在)

懸念は3つの変異ウイルス

新型コロナウイルスは1か月に2か所ほどのペースで遺伝情報の一部の変異を繰り返していますが、ほとんどの場合はウイルスの感染力や病原性に影響は出ません。

ところが、一部のウイルスについては感染力が高くなる変異や免疫の攻撃から逃れる変異があり国際的に「懸念される変異株」としてWHOや各国は監視体制を強化しています。

特に警戒が必要なのは、
▼イギリスで最初に見つかった変異ウイルス、
▼南アフリカで最初に見つかった変異ウイルス、
それに
▼ブラジルで広がった変異ウイルスで、いずれも「N501Y」と呼ばれる変異があり、ウイルスが人などに感染する際の足がかりとなる表面の突起部分が感染しやすいように変化していて感染力が高くなっていると考えられています。

イギリスで報告のウイルス

このうち、イギリスで最初に見つかった変異ウイルスは、2020年12月上旬に最初に報告されましたが、その後行われたウイルスの解析から2020年9月20日にはこの変異ウイルスに感染した人がいたことが分かっています。

この変異ウイルスの感染力は、ECDC=ヨーロッパ疾病予防管理センターによりますと、複数の研究から36%から75%高くなっているとしています。

イギリスでは、2020年12月上旬には1日当たりの感染者数は、1万人台でしたが、その後急増し、12月下旬には5万人台に、そして1月に入ると6万人を超えた日もあり、増加の大きな要因は変異ウイルスによるものとみられています。

WHOによりますと、この変異ウイルスは3月9日までに111の国と地域で感染が確認されています。

また、イギリス政府は従来のウイルスより入院や死亡のリスクの上昇に関わっている可能性が高いとしていて、検証が行われています。

一方で、ワクチンの効果には大きな影響はないとしています。

南アフリカで報告のウイルス

南アフリカで最初に見つかった変異ウイルスは、2020年8月上旬に発生したとされ11月中旬に南アフリカで行われた解析では、ほとんどのケースがこの変異ウイルスだったとみられています。

WHOによりますと感染力は50%高いとされ、3月9日までに58の国と地域で感染が確認されていますが、発症した場合の重症度は従来のウイルスと比べて変わっていないとしています。

一方、このウイルスには「E484K」と呼ばれる体の中で作られる抗体の攻撃から逃れる変異があるため、再感染するリスクが上がると考えられています。

さらに、ワクチンが効くかどうかについて、抗体がウイルスを抑える効果が下がるという研究結果が出ていて、各ワクチンメーカーはそれでも十分な効果はあるとしていますが検証作業を進めています。

ブラジルで広がったウイルス

ブラジルで広がった変異ウイルスは、ブラジルから日本に到着した人でことし1月6日、最初に検出されました。

ブラジルでは、北部のマナウスで2020年12月4日に最初に出現したと見られ、1月の時点ではマナウスで報告された感染者の91%がこの変異ウイルスへの感染だったということです。

WHOによりますと、感染力が従来のものより高いとされ、3月9日までに32の国と地域で感染が確認されていますが、発症した場合の重症度への影響は限られているとしています。

また、このウイルスも南アフリカで最初に報告された変異ウイルスと同様に、抗体の攻撃から逃れる「E484K」と呼ばれる変異があるため、再感染したケースが報告されています。

一方で、ワクチンへの影響については現在、調査が行われている途中だということです。

ほかの変異ウイルスも

このほか、国内では2月25日にフィリピンから入国した人で感染しやすく変化した「N501Y」の変異と、免疫の攻撃から逃れる「E484K」の変異がある別の変異ウイルスが検出されたと報告されています。

国立感染症研究所によりますと、このウイルスはフィリピンでも報告されていて、従来のものより感染力が強い可能性があり、国際的に懸念されているほかの変異ウイルスと同程度の脅威があると考えられるとしています。

さらに、免疫の攻撃から逃れる「E484K」の変異がある別のタイプの変異ウイルスも3月3日までに400例近く見つかっています。

この変異ウイルスには感染しやすく変化した「N501Y」の変異はなく、感染力は従来のものと変わらないと考えられるものの、中には国内で変異が起きたとみられるものもあり、国立感染症研究所は「注目すべき変異株」として遺伝情報の解析などを通じて実態を把握していくとしています。

専門家「年度替わり より素早く対策を」

変異ウイルスの国内での状況について、公衆衛生学が専門で国際医療福祉大学の和田耕治教授は「国内でどこまで広がっているのかまだ分かっていないことも多いが、各国の状況を見ると封じ込めることは難しく、国内でも感染の主流に置き換わると考えるべきだ。変異ウイルスの情報が盛んに出始めた年末年始の時期以降、感染者数が減ってきていて一般の人はなかなか危機感を持ちにくい状況だと思うが、変異ウイルスが主流の流行が起きれば、感染拡大のスピードや感染者数などの状況がこれまでより厳しくなるおそれがある」と述べました。

そのうえで行うべき対策について、和田教授は「個人で行う対策は全く変わらないが、年度替わりの時期で多くの組織で人事異動で感染対策の責任者が替わり、これまでやってきていた対策がうまく引き継がれないケースもあるかもしれない。2020年の同じ時期にもそうしたケースが見られていて特に高齢者施設、医療機関、自治体などではこれまでの対策をより素早く行う必要があり、徹底してほしい。また、監視体制の強化も必要で、民間の検査会社が検査したウイルスの検体からも変異ウイルスを検出できるように、しっかりとしたルール作りを国が行うべきだ」と話しています。