変異ウイルス 最新情報は?
WHO担当者に聞く

2021年1月22日

イギリスで最初に確認され、1月17日時点で日本も含めて58の国と地域で確認されている新型コロナウイルスの変異ウイルス。従来のウイルスとの違いは?ワクチンは効くのか?
WHO=世界保健機関のヨーロッパ地域事務局で変異ウイルスの対応にあたっているリチャード・ペボディ博士に話を聞きました。
(欧州総局記者 古山彰子)

北欧のデンマークにあるWHOヨーロッパ地域事務局で変異ウイルスの対応にあたっているリチャード・ペボディ博士は、イングランド公衆衛生庁に勤めたあと、2019年からWHOヨーロッパ地域事務局で、高脅威病原体(high threat pathogen)、危険性の高い病原体の対応にあたるチームリーダーを務めています。

今わかっていることは

(記者)
WHOでは、変異ウイルスについて、これまで何がわかっていて、何がわかっていないんでしょうか?1月15日時点の最新の情報を教えてください。

(ペボディ博士)
世界では今、複数の変異ウイルスが確認されています。ここでは、変異ウイルスとして世界でいちばん初めにイギリスで検出され、今は世界各地で確認されている変異ウイルスについて話します。

イギリスがこのウイルスを、去年12月に世界で初めて検出しました。それなので、私たちはまだどんな懸念があるのか日々学んでいるところです。

今すでにわかっていることは、この変異ウイルスは従来のウイルスに比べて速く感染が広がるという証拠が集まっていることです。

イギリスでは去年12月の数週間で感染が見られるようになり、1月には変異ウイルスの感染者の方が多くなりました。

症状の重さについては、つまり、入院したり死亡したりする可能性については、従来のウイルスとの違いが見られません。可能性が高いこともなければ、低いこともないんです。

イギリスでは感染者自体が増えているので、より多くの人が入院し、死者も増えています。

(ペボディ博士)
南アフリカで検出された変異ウイルスは、イギリスとは異なるものです。

ただ、イギリスでも、南アフリカで検出された変異ウイルスが確認されています。確認されたのはとりわけ、南アフリカから旅行してきた人と関係のある人たちからです。

日本について言えば、南アメリカから来たであろうウイルスが見つかっています。

これらのウイルスはすでに世界の複数の場所で確認されていますし、とても簡単に、速く感染が広がります。すべての国は、速やかに措置をとれるようにウイルスをいち早く検出できるシステムを持ち続け、感染を抑えていかなければなりません。

これまでに変異ウイルスを検出し報告した国々は、高度な監視システムを持ち、ウイルスを検出できているのです。きちんと報告し、正しいことをしているのです。

ほかの変異ウイルスもすでに広がっているのに私たちが気付いていないだけ、ということは、十分あり得ますし、そうなんだと思います。

予防対策は

(記者)
変異ウイルスに感染しないためにはどのような対策が必要ですか?。

(ペボディ博士)
従来のウイルス対策と同じで、その対策が、これまで以上に大切になってきています。

人との間に距離をとること、マスクを着けること、手を洗うこと、これらの対策すべてが、変異ウイルスであっても従来のウイルスであっても、感染が広がるのを防ぐことにつながります。

感染が広がりやすくなっているということはつまり、これらの対策を一段と徹底しなければいけないということです。とても大切なことです。

各国は、感染状況に応じて措置をとる必要がありますし、感染状況が深刻な国では、より強化された対策が必要です。

(記者)
必要以上に心配する前に、手洗いなど、できることをすべきということですね。

(ペボディ博士)
WHOや各国がすべきたとこれまで言ってきた対策を続けるべきです。手をしっかりと洗うこと、人と接するときはマスクをすること、人との間に距離を取ること。これらすべてが、ウイルスが広がる可能性を少なくするのに、大切なんです。

体調が悪くなったら、家で過ごすこと。感染した疑いのある人は検査を受けること。もし感染が確認されたら、隔離すること、変異ウイルスであっても従来のウイルスであっても、これらすべてが大切なんです。

ワクチンの効果への影響は

(記者)
ワクチンは、変異ウイルスにも効果がありますか?。

(ペボディ博士)
それに関するデータはまだ見ていません。データを待っているところです。ワクチンが、変異ウイルスにも効果があるかどうか、効果があったとしてもより限定的な効果になるのか、今まさに研究が進められています。

まだ研究の途中ですが、感触としては、少なくとも現段階で理論上は、ワクチンが変異ウイルスに効かないという根拠はありません。研究結果を見なければいけませんが、従来のウイルスに対しては、臨床試験の結果を見るとワクチンは効果があるので、ほかのどんな変異ウイルスに対しても予防の効果があると予想しています。

それでもやはり、研究結果を見て、本当に効果があるのか、確認しなければならないので、もう少し待ってみましょう。

(記者)
各国は今の段階では、ワクチンの接種計画を変える必要がないということですね。

(ペボディ博士)
もちろんです。変異ウイルスが検出されたからと言って、今のワクチン接種計画を変える必要は全くありません。

年齢による感染のしやすさは

(記者)
変異ウイルスは、若い人が感染しやすいという情報もありますが?。

(ペボディ博士)
大切な質問ですね。少なくともイギリスの証拠からすれば、今のところ、すべての年齢層で感染が広がりやすいです。若い人も、大人もです。年齢によって、感染しやすい、しにくいということはなく、すべての人が感染しやすいんです。

だから、これまでの対策の内容を変えるのではなくて、今までの対策を強化する必要があるんです。

休校という措置もありますね。今の対策のレベルでは感染を抑えきれていないのであれば、休校の措置を取るという方法もあるんです。でも大切なのは、子どものほうが感染しやすいという根拠はないということ。子どもも大人も同じです。

これからワクチン接種を始める国へ

(記者)
日本のように、まだワクチン接種が始まっていない国に対して、アドバイスはありますか。

(ペボディ博士)
変異ウイルスに関係なく、ワクチン接種はとても大切です。ワクチン接種は、重症化するリスクのある人たちを守る重要な追加的な要素ですね。だからこそ、各国でワクチン接種が始まっているわけです。

今、各国では、感染すると重症化しやすい人、死に至るリスクの高い人たち、特にお年寄りや高齢者施設の人たちを中心に接種を始めています。そして、医療従事者に対しても始まっています。彼らを守り、保健システムをもたせるために。各国は、誰を優先すべきなのか、見極め、接種を進めていく必要があると考えています。