新型コロナ 変異ウイルス 専門家
「日本にも入る前提で対策を」

2020年12月21日

イギリスで、感染力が強いとされる変異した新型コロナウイルスの感染が広がっていることを受けて、ヨーロッパをはじめ、世界各国でイギリスからの旅客機の受け入れを停止するなど、影響がさらに広がっています。国立感染症研究所によりますと、日本国内ではこれまでのところ確認されていないということですが、専門家は「いずれ国内に入ってくる前提で対策を考える必要がある」と話しています。

イギリスでは、首都ロンドンを含む南東部で変異した新型コロナウイルスの感染が拡大していることを受けて、12月20日から急きょ、この地域での外出制限など、厳しい感染対策が導入されました。

これを受けてヨーロッパでは、ドイツやイタリア、それにオランダなど各国がイギリスからの旅客機の受け入れを停止する措置を決めたほか、フランスやベルギーはこれに加えて鉄道やフェリーの受け入れも停止するとしています。

また、EU=ヨーロッパ連合は、12月21日に専門家の会合を緊急に開き、現状の分析や今後の対応を協議することにしています。

このほかヨーロッパ以外でも対応が相次いでいて、イランがイギリスへの国際線を2週間停止することにしたほか、ロイター通信によりますと、南米のアルゼンチンとチリも、イギリスとの間の国際線を停止すると発表しています。

また香港は、12月22日から当面、14日以内にイギリスに2時間以上、滞在したことのある人を対象に香港に入ることを禁止することになりました。

さらにインド政府も12月21日、イギリスとの間を結ぶ国際線の運航を12月22日から12月31日まで停止すると発表しました。

一方、ドイツで感染対策を担うシュパーン保健相は変異したウイルスについて専門家らと協議したとしたうえで「ワクチンに与える影響は何もない」と述べました。

変異のウイルス 日本国内で確認されず

新型コロナウイルスの遺伝子を分析している国立感染症研究所によりますと、これまでのところ国内ではイギリスで報告されている変異したウイルスは、確認されていないということです。

デンマーク オランダ オーストラリアでも確認

WHO=世界保健機関で新型コロナウイルス対応の技術責任者を務めるバンケルコフ氏は12月20日、イギリスの公共放送BBCの番組に出演し、変異した同じウイルスがイギリスのほか、デンマーク、オランダ、それにオーストラリアでも確認されたことを明らかにしました。

そのうえでバンケルコフ氏は「ウイルスの変異自体は常に起きうる。大切なのは今回の変異で何が起きるのか、理解することだ」と述べ、変異したウイルスの特性を見極める必要があるという考えを示しました。

また、イタリア政府は12月20日、イギリスからの旅客機の受け入れを禁止し、過去14日間にイギリスに滞在した旅行客の入国も禁じると発表しました。

すでにイギリスからイタリアに入国した人に検査を呼びかけていて、これまでに1人が変異した新型コロナウイルスに感染していることを確認したということで、隔離を行うとともに家族など濃厚接触者の調査を行っているとしています。

専門家「いずれ国内に入る前提で対策を」

イギリスで変異した新型コロナウイルスが報告されていることについて、日本ウイルス学会理事長で大阪大学の松浦善治教授は「イギリスの論文を確認したが、ウイルスが感染するときの足がかりになる『スパイクたんぱく質』に変異が見つかっている。新型コロナウイルスのようなRNAウイルスは次々に変異するのが特徴で、変異して感染性が強くなったウイルスが増えるというのはよくあることだ」と指摘しています。

一方で、今回の変異が 症状の重さや、ワクチンの効果に何らかの影響を及ぼすことを示すデータは今のところないということで、松浦教授は「現在、開発されているワクチンで防ぐことができないなら問題だが、その点はすぐに研究が行われるだろう。また、毒性が強くなったかどうかもまだよく分かっていない。すぐに慌てるのではなく、慎重に様子を見たほうがいいと思う」と話しています。

また「こうした変異は、これからもどんどん出てくるだろう。イギリスは変異したウイルスが見つかったことで、慎重を期してロックダウンを選んだのではないだろうか。日本でも、いずれ国内に入ってくるという前提で対策を考えておく必要がある」と話していました。

ウイルスの変異とは

新型コロナウイルスはヒトに感染すると、ヒトの細胞の中で遺伝子のRNAを次々とコピーすることで数を増やしていきます。

この時、まれにコピーした遺伝情報にミスが起きてしまい、突然、RNAの配列の一部が欠けたり、入れ代わったりすることがあり、これを「変異」といいます。

国立感染症研究所によりますと、新型コロナウイルスでは、こうした変異は2週間に1度くらいの頻度で起きているとみられ、これまで日本で見つかっているウイルスでもいくつも変異が起きていることが確認されているということです。

通常、遺伝子の一部が変異してもウイルスの特徴や性質に大きな変化が起きることはありません。

ただ、偶然、遺伝子の中で、ウイルスの性質に関わる場所に変異が起きたり、たくさんの変異が積み重なったりすると、
▽感染しやすくなったり、
▽症状が重くなったりすることがあるということです。

これまでの研究では、新型コロナウイルスが細胞に入り込む際の足がかりとなるウイルスの表面にある突起「スパイクたんぱく質」の性質が感染力に影響するとされていて、このたんぱく質を作り出す遺伝子に変異が起きると、感染力も変わるおそれがあるということです。

東京大学医科学研究所などのグループが先月、発表した研究では、
▽中国 武漢で報告された新型コロナウイルスと
▽現在、世界中で広がっているヨーロッパ系統のウイルスでは「スパイクたんぱく質」の遺伝子の一部が異なっていて、ハムスターを使った実験ではヨーロッパ系統のほうが飛まつ感染しやすい性質があったということです

ただ、この実験では症状の重さや抗体への反応などには変化は見られませんでした。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大でウイルスがヒトに感染して増殖する機会が増えれば、遺伝子に変異が起こるリスクも高まると考えられていて、各国の研究機関がウイルスの遺伝情報を解析するなどして警戒しています。

日本とイギリスの往来 現状は

政府は現在、イギリスを入国拒否の対象国としていることから特段の事情がないかぎり、新規の入国は認めていません。

イギリスからの入国が認められるケースは、
▽日本人と、中長期の在留資格を持つ外国人で、ウイルス検査や14日間の自宅などでの待機が求められます。

また、
▽日本に住んでいる日本人や外国人がイギリスに7日間以内の短期出張をした場合は、帰国や入国の際、一定の条件のもと14日間の待機は免除されます。