「危機的状況に直面」
病床使用率は8割超
現場で起きていること

2021年1月13日

「危機的状況に直面している」。都の専門家がこう指摘するのが、都内の病床の使用率です。今、その割合は8割を超えていて、夏のいわゆる「第2波」の時よりもひっ迫しています。しかし、医療機関には、病床の拡大は容易ではないという事情があります。

都が、入院患者の人数を正確に公表するようになった2020年5月12日以降、いわゆる「第1波」で最も患者の数が多かったのは5月12日の1413人で、この時の確保病床3300床に対する使用率は42.8%でした。

その後、入院患者は減少して、6月中は使用率が20%台まで低下しましたが、7月ごろから患者が増加に転じると病床の使用率も上昇しました。

いわゆる「第2波」での病床使用率のピークは8月11日で、入院患者は1710人、確保病床は2400床で71.3%でした。

その後、9月下旬から11月上旬にかけては1000人前後でしたが、11月中旬以降、再び増えはじめます。

2020年12月、都は病床を2640床から3500床まで増やしましたが、患者の増加はとまらず、使用率は60%台から70%台前半になりました。

さらに、入院患者が初めて3000人を超えた1月5日(=3025人)は、確保病床3500床に対する使用率が86.4%まで上昇しました。

入院患者のさらなる増加に伴い都は、1月7日にさらに500床増やして4000床にしましたが、12日の時点で入院患者がこれまでで最も多い3427人となり、85.7%が埋まっていることになります。

夏の「第2波」のピークの時を超える厳しい状況が続いていて、都の専門家からは、今の感染状況などが続けば都内全体で確保している4000床を大幅に超える入院患者が出る可能性があると指摘されています。

病床拡大は待ったなし しかし…

病床の拡大は待ったなしの課題となっていますが、新型コロナの患者をすでに受け入れている医療機関からは、これ以上、病床を増やすのは容易ではないという声も聞かれます。

主に中等症の患者の治療にあたっている東京 北区の「東京北医療センター」は、2020年2月から新型コロナの患者を受け入れてきました。

当初は8床でしたが、患者の増加に伴って40床まで増やしてきました。しかし、2020年12月中旬ごろから、ほぼ満床の状態が続いています。

受け入れた患者の数は第1波のピークとなった2020年4月には1か月間に延べ47人でしたが、12月はおよそ倍の延べ93人に増加しています。

都からは、病床数をさらに50床まで増やしてほしいという要請が来ていますが、病院はこれ以上、コロナの患者を受け入れるのは難しいと判断。職員に増床しない方針を伝えています。

増床しない理由1. 通常診療に影響

その理由の1つが、新型コロナウイルス以外の通常診療に大きな影響が出るからです。

冬の時期は心筋梗塞や脳卒中、それに新型コロナウイルスが原因ではない肺炎などの患者が増加します。

こうした患者も入院や手術が必要となり、受け入れる病床を確保していかなければなりません。

この病院では新型コロナの専用病床も含めて全部で343床ありますが、現在327床が埋まっています。

特に、2020年12月からは病床の稼働率が100%を超える日も相次ぎ、医師や看護師の負担が増しているといいます。

東京北医療センターの宮崎国久医師は「冬場はどの患者も増えるので、コロナの患者ばかり受け入れるわけにはいかない。感染拡大から1年近くがたち、ほかの手術や治療を不要不急だといって中止するわけにもいかない」と話しています。

また、病床の管理などを行う又木満理看護部長は「介護が必要な人や症状が重い人の入院が増え、現場の負担が重くなっている。一般の入院患者も増え、内科担当の看護師であっても外科の患者をみたりしていて、緊張感とストレスが非常に大きい」と話しています。

増床しない理由2. 重症患者への対応

さらに、新型コロナの専用病床を増やせないもう1つの理由が、重症化した患者への対応です。

この病院では、患者が重症化した場合、感染症の指定医療機関などに転院してもらっていましたが、どこも病床がひっ迫し、今後、転院調整が難航するおそれもあります。

その場合、重症患者の治療にもあたらなければならず、医師や看護師など、さらに多くの人手が必要となります。

専用病床を増やしてしまうとマンパワーの面でも対応しきれなくなるおそれがあるのです。

宮崎医師は「最近は重症患者の転院調整が滞ってきた。さらに自宅や宿泊施設で療養中、あるいは入院待ちの人が急変して、救急搬送されることも増えてきたので、少しでも病床を空けておく必要がある。現状は厳しいが、助かる命を助けられなくなる事態だけは何としても避けたいと思っている」と話しています。

さまざまな病気で救急搬送も

東京北医療センターでは、1月に入って新型コロナだけでなくさまざまな病気で救急搬送される患者が急増しています。

搬送されてくるのは
▽発熱などの症状があり新型コロナの感染が疑われる人のほか、
▽脳卒中など緊急の治療を要する人などで、
多い日には30人と通常の倍近くにのぼります。

ほかの医療機関から受け入れを断られた人も多く、都外から運ばれてくるケースも目立っています。

さらに、最近は新型コロナに感染した人で自宅療養や入院の待機をしていて、体調が急変し救急搬送されるケースも相次いでいるといいます。

時には救急患者を受け入れられず断らざるをえない時も出てきていて、これ以上、新型コロナの患者を受け入れると救急医療が維持できなくなるといいます。

金井信恭救急科長は「1月の3連休や連休明けは、ひっきりなしに電話がかかってくる状況で、このまま患者が増えると病床もなくなってきて行き場のない患者が増えてくる。すぐに治療を行う必要があるのに後回しになる患者が出てくることが最も危惧される」と話しています。

医師会「真の解決は患者の増加を抑えること」

新型コロナの病床拡大について東京都医師会の猪口正孝副会長は「新型コロナの患者を受け入れるということは、病院の中に、もう1つ病院を作るのと同じこと。さらにスタッフの配置や機材の整備などもあり、病床を増やすことは簡単ではない」と指摘しています。

そのうえで「医療の効率化をはかることが必要で、例えば病院をまるごと専門病院にする。そうすれば患者が動く動線は1つで済むし、患者を診るスペースも増える。さらに入院調整も楽になるので、効果は大きい。東京都がいくつかそうした病院を作るということなので、大きな期待を寄せている。また、個々の病院も少しでも病床を増やそうと努力している。しかし、真の解決方法は患者の増加を抑えることしかない。このまま増え続ければ医療の限界は超えてしまう」と話しています。

病床確保へ 国の支援は

新型コロナウイルスの患者を受け入れる病床を確保するため、国が医療機関に対して行っている支援策の主な内容です。

まず、医療機関が2月末までに新型コロナウイルス対応の病床を新たに増やした場合の支援策として、1床当たり重症者病床の場合1500万円、その他の病床の場合は450万円を補助しています。

これに加えて、緊急事態宣言が出された都道府県の医療機関には、それぞれ1床当たり450万円の補助を上乗せして支援します。

こうした補助で
▽医療従事者の人件費や
▽院内感染を防ぐのに必要な対策を行う費用などをまかなってもらうことにしています。

また、新型コロナウイルス自体の治療はめどがついたものの体力が落ちるなどして退院できない患者が多いことから、こうした患者を別の医療機関が受け入れる場合には診療報酬を7500円上乗せして支払います。

さらに、地域で必要な医療スタッフを確保できるよう新型コロナウイルスの患者を受け入れている医療機関に、別の医療機関が医師や看護師などを派遣した場合には、派遣元の医療機関に最大で▽医師は1時間1万5100円▽看護師は5520円を補助します。