コロナ病床確保に交付金も
“ピーク時でも病床使用率は6割”

2023年1月13日

新型コロナウイルスの入院患者を受け入れる病床を確保した医療機関には、経営を支えるための交付金が支払われています。

“空床補償”とも呼ばれる、この交付金を受けている病院について、会計検査院は「病床利用率は感染が拡大した時期でも平均6割程度だった」と指摘。2022年11月に続く2度目の指摘で、厚生労働省に制度の見直しを求めています。

一方で、専門家からは「利用率が高いか低いかは医療現場の感覚で考えるべき」とする指摘も。

Q&Aで詳しくまとめました。

Q1.どんな交付金?

“空床補償”は、正式名称で「病床確保料」と呼ばれる交付金です。

本来は患者を入れて得られるはずの収入が減るケースを念頭に、コロナ患者を受け入れる医療機関の経営を支える目的で2020年4月から始まりました。

こうした医療機関ではコロナ病棟に看護師などの医療従事者を集めて一般病床を閉鎖したり、もともと複数の患者で使用していた部屋を患者1人で使うなど、1つの病床を確保するためにやむをえずほかの病床を空けることもあります。

このため、交付金は以下のような病床がある医療機関を対象に、国から都道府県を通じて1日単位で支払われます。

▽コロナ患者の受け入れで休止した病床
▽確保しながら患者で埋まらなかった病床

厚生労働省などによりますと、2020年度と2021年度の2年間で全国約3500の医療機関にあわせて3兆1000億円余りが交付され、1月10日時点で最大5万1000床余りが確保されているということです。

Q2.会計検査院の指摘はどんな内容?

指摘は大きく分けて2点あります。

1つは交付金を受けている医療機関の病床の利用率についてです。

「病床の利用率」について、会計検査院は「感染が拡大した時期でも平均して6割程度だったことがわかった」と指摘しています。

会計検査院は、新型コロナ対策の拠点となっている全国496の病院について、緊急事態宣言が出されていた2021年の1月と8月、それにオミクロン株の感染が拡大した2022年2月の利用状況を調べました。

病床の利用率は80%や90%を超える病院も一部あったものの、平均すると以下のような数字だったということです。

▽2021年1月 54.5%
▽2021年8月 61.2%
▽2022年2月 61.2%

利用率が50%以下の病院に理由を聞いたところ、9割近くの病院が「患者受け入れの要請自体が少なかった」と答えました。

それらの病院は背景として、重症患者や妊婦、子どもなどを専門に扱っていたことや、地域によってコロナ患者自体が少なかったことを挙げ、患者の症状や地域によってミスマッチが起きていた可能性を示唆したということです。

一方、1割程度の病院は「空いている病床はあったが事情があって受け入れの要請を断った」と答え、その理由として医師や看護師の人手不足を挙げるところもありました。

会計検査院は「必要な病床を確保して新型コロナ患者に十分な医療を提供することが課題だ」として、厚生労働省に対し、人手の問題も含めてすぐに患者を受け入れられる病床を交付金の対象にするなど、制度の見直しを検討するように求めました。

Q3.もう1つの指摘は?

もう1つは、1つの病床あたりに支払われる金額が適正かどうか、です。

交付金は、医療機関の役割や病床の種類によって、1床ごとに1日1万6000円から43万6000円が支払われます。

会計検査院は、全国の426の「重点医療機関」について、交付金の上限額と、患者を受け入れた場合に得られる診療報酬を、以下のように比較しました。

▽一般病院のICU=集中治療室の場合(1床あたり1日の額)
・交付金の上限額 30万1000円
・診療報酬の平均 36万3821円

交付金の上限額が診療報酬の平均を約6万円下回り、このため医療機関によっては十分な補償が受けられていない可能性があるとしています。

一方、逆のケースについても指摘しています。

▽高度な医療を提供する「特定機能病院」などのICUの場合(1床あたり1日の額)
・交付金の上限額 43万6000円
・診療報酬の平均 36万9130円

交付金の上限額が診療報酬の平均を6万6000円余り上回っていて、補償すべき金額以上の交付金が支払われている可能性があるということです。

会計検査院はこれらの実態を踏まえ、交付金の額の算定方法や上限額の設定について見直しなどを検討するように求めています。

Q4.コロナ禍で病院の経営状況は変わった?

今回の検査対象になった病院のうち、国が出資する独立行政法人や国立大学法人などが運営する269の病院の経営状況を会計検査院が調べたところ、新型コロナの感染拡大前より経営が上向いていることが分かりました。

会計検査院によりますと、269の病院について▽新型コロナの影響が少ないとされる2019年度と▽感染が拡大した2020年度、2021年度の経営状況を調べたところ、以下のような結果でした。

医業収支の平均
▽2019年度 3億8600万円余りの赤字
▽2020年度 2億9000万円余りの黒字
▽2021年度 7億500万円余りの黒字

これらの病院に支払われた新型コロナ関連の補助金は、1つの病院あたりの平均で2020年度は11億2000万円余り、2021年度は14億1000万円余りで、多くの病院が補助金なしでは大幅な赤字だったとみられます。

会計検査院は「新型コロナの確保病床などとして補助金を受けることは、従来の病床のままにする場合に比べて病院経営の改善につながる傾向があると思われる」としています。

Q5.専門家はどう見ている?

財政学が専門の慶應義塾大学の土居丈朗教授は、感染拡大初期の受診控えで収入が大きく減った病院でも病床を確保するための支援をする役割を果たしたと評価したうえで、次のように指摘しています。

「病床を確保するためにそんなにたくさんのお金を出してよかったのかというところは検証されるべきだ。お金を出してもコロナ病床がうまく確保できないという事態があるなら、そのお金の出し方を直ちに改める臨機応変な対応は必要だ」

「新型コロナの現場対応が大変だということは理解できるが、医療は国民から預かっているお金で成り立っているので、政府はお金が適切に使われたかどうかをしっかりと検証する必要がある」

このように指摘して、新型コロナの感染拡大が始まってまもなく3年がたつ今、空床補償を含めたコロナ政策の財政支援について国が検証する時期に来ているとしています。

一方、地域医療に詳しい城西大学の伊関友伸教授は次のように指摘しています。

「利用率の6割が高いか低いかは医療現場の感覚で考えるべきで100%では病院はパンクしてしまう。感染が爆発した場合に備えて余裕を持って確保するので、病床が埋まらなくてもやむをえない部分はある。新型コロナ患者の受け入れは院内感染などリスクも伴うので補助金にはその埋め合わせという趣旨もある」。

その上で、制度の見直しについては。

「今は第8波の最中で、火事で言えば消火活動中だ。その時に火を消すポンプの水が閉まるようなことを求めるのは時期尚早で、本当に感染が落ち着いた時に、今回を踏まえた制度を見直すべきだ。病院側も黒字になった分は、新型コロナに代わる次の感染症に対応できるような医療体制の充実や人材育成に使ってもらいたい」。

Q6.厚生労働省はどんな対応?今後の見直しは?

「病床確保料」は医療機関に支払われるコロナ関連の交付金のうち最も多くの額が支出されている交付金で、厚生労働省もこれまで制度の見直しを行ってきました。

2022年1月には患者の受け入れを十分に行わない病院に支払う金額を引き下げたほか、2022年10月には感染拡大前に患者を受け入れた際に得られていた収入と比べて交付額が大きく超えないように上限を設けるなどの見直しを行いました。

一方で、会計検査院は今回の指摘の前に、2022年11月にもこの交付金についての指摘を行っています。

2021年度予算の検査報告書で、13都道府県の106医療機関を調査したところ9都道府県の32病院で、受給対象となる日数を過大に申請したり、より高い病床の単価で支払われていたりするケースが見つかり、あわせて55億円余りが不適切に支出されていたという指摘でした。

これを受けて厚生労働省は都道府県に対して、2020年度と2021年度の2年間で支払いを受けた約3500の医療機関に適正に交付されていたかどうか検証するよう求めていて、過大な受給が確認された場合には、国に返還を求めるとしています。

返還の見込み額が大きい医療機関や、ほかの医療機関より病床使用率が著しく低い医療機関などには現地調査の実施も検討するよう求めています。

空床補償はコロナ収束の見通しが立たない中でこれまで期限がたびたび延長されていて、現在はことし3月末が期限となっています。

厚生労働省は今回の指摘を受けて「必要な看護師が確保されていないことを理由に患者の受け入れを断った事例がないかなど、今後、都道府県に対して調査や報告を改めて求める」とコメントしています。

そのうえで、4月以降の制度のあり方について感染状況や会計検査院の指摘などを踏まえ検討するとしています。