新型コロナ 専門家の有志が
今後の医療や保健所の対応で提言

2022年8月2日

新型コロナウイルス対策にあたる専門家の有志は、より多くの医療機関で入院できるようにすることや、保健所や医療機関の負担になってきた感染者の全数把握を段階的に見直すことなど、今後の医療や保健所の対応についての提言をまとめました。

提言は、政府分科会の尾身茂会長など専門家の有志がまとめ、8月2日記者会見を開いて明らかにしました。

提言では、現在の感染状況についてオミクロン株の「BA.5」を中心とした感染が拡大し、入院のリスクや重症度は相対的に低いものの、これまでにない感染者の急増で重症者・死亡者数が増え、医療ひっ迫がさらに深刻化する懸念があるとする認識を示しています。

そのうえで、国が医療ひっ迫の深刻化を抑えながら社会経済活動を継続させることを選ぶ場合は、一人ひとりが基本的な感染対策をいままで以上に徹底するのと同時に、現在の医療や保健所の対応をオミクロン株の特徴に合わせて移行していく必要があるとしています。

提言ではこうした移行は段階的に行い、▽ステップ1で第7波への緊急対応として、現在の制度の枠組みで変更できることから始め、その後、▽ステップ2として法改正で大幅に改めるとしています。

具体的には医療の対応について、重点医療機関など限られた施設で入院患者に対応し外来でも厳格に感染者とそれ以外の患者の空間の分離を行っている現在の対応から、▽一般の医療施設でも行える感染対策に移行することで外来や入院で対応できる医療機関を拡大し、その後、▽より多くの医療機関で入院できるようにして、実際に患者の入院に貢献した医療機関を金銭的にも優先して支援するほか、外来は極力、一般の医療施設で行うなどとしています。

保健所の対応については、▽ステップ1で患者の健康観察をやめて相談窓口での対応とし、感染者の全数把握ではなく、重症化が懸念される患者の情報把握を続けるほか、現在は保健所が担っている患者の入院調整も医療機関の間で行うとしています。

そして、▽ステップ2では施設での療養ではなく、一般的な自宅での療養に切り替えていくほか、感染状況を把握する新たな方法を導入するなどと提言しています。

また、濃厚接触者の扱いについても保健所の認定によらず、一人ひとりの主体的な判断と行動を啓発し、ステップ2では感染症法での取り扱いを変更するとしました。

さらに、コロナ診療の費用負担について▽ステップ1では原則、公費負担を続けるものの▽ステップ2では重症患者への対応や高額な治療薬は公費負担とする一方、それ以外は通常の保険診療で対応するとしたほか、現在、法律に基づいて要請されている感染者の外出自粛についても、将来的には感染症法の取り扱いを変更することで、保健所による外出自粛要請によらず、受診のためなど最低限の外出は可能とするなどとしました。

提言では、国が早急に取り組むべき課題についても指摘し、▽第7波で社会経済活動を活発化させる選択をする場合には、高齢者を中心に重症者や亡くなる人が増加する可能性について社会に説明すること、▽濃厚接触者の待機期間の短縮で感染が広がるリスクが高まるため、リスクを下げる行動を取るよう働きかけること、▽抗原検査キットを確実に入手できる体制を確保すること、▽感染状況の把握のための新たな調査方法の構築に直ちに着手することなどを求めました。

専門家「今すぐどんな対応が必要なのかまとめた」

専門家の有志は、午後6時から東京 千代田区の日本記者クラブで開いた記者会見で提言を公表し、尾身会長は「いま医療機関や保健所の現場が限界にきている緊迫した状況で一人ひとりが感染リスクを下げる行動を取るとともに、いまのコロナへの対応を見直していくことについて、早急に社会に発信することが専門家の責任だと考えて提言をまとめた」と述べました。

また、提言をまとめた専門家の1人で、神奈川県の阿南英明医療危機対策統括官は「感染の第7波への対策として今すぐどんな対応が必要なのか対応をまとめた」と述べました。

そのうえで阿南統括官は「この2年半の間にウイルスの特性が大きく変化して、対策のあり方も変わっており、最終的には法的な位置づけの変更も必要になってくる。社会全体での議論が大切で、医療提供体制と社会経済活動のバランスを頭にいれながら模索していくことが必要だ」と訴えました。

尾身会長「感染が収まってからでは遅い」

政府分科会の尾身茂会長は提言の内容を実行に移すタイミングについて「いま全国で感染が今までにないスピードで広がっており、この状況を放置すると医療ひっ迫がさらに深刻化するおそれがあることを十分に認識する必要がある。法律上の扱いを変えるのには時間がかかるが、実態的な運用を弾力的に見直すことはいまこのタイミングでも行える。ステップ1として転換を求めた対応は、今の感染が収まってからやるのは遅いというのが私たちの総意だ。政府とは議論する過程で内容を共有しており、この提言をすでに受け取っているといえる。提言内容を政策にどう反映するのかは政府が判断することだと思う」と述べました。

一方、今回の提言が出されることで社会全体として感染対策を緩めることにつながるのではないかという質問も出されましたが、尾身会長は「政府の選択として社会経済活動を活発化させることが決まっている中で、私たちが何をするべきかということを議論した。強い行動制限が出されず対策の主体が個人に移っているが、しっかりと感染リスクを下げる行動をしてもらうなど、オミクロン株にふさわしい対応がどのようなものか強調したつもりだ」と述べました。