新型コロナの感染者 10万人超
“診察受けられず”病床ひっ迫も

2022年7月15日

新型コロナの感染者の発表は7月15日、2022年2月以来、全国で10万人を超えました。

感染が急速に広がる中、新型コロナの感染が疑われても、すぐに診察を受けられなかったり、救急の受け入れ要請が急増し、病床がひっ迫する状態になっています。

現場の状況と、政府の対応、そして全国の感染状況をまとめました。

各地から心配や懸念の声

2年ぶりに酒類を提供しているビアガーデンでは、今後の感染者の動向を懸念する声があがっています。

東京・港区のホテルが運営するビアガーデンは、感染対策として来店時の検温や手指の消毒を徹底しているほか、600席ある座席を320席まで減らしてテーブルどうしの間隔を通常の2倍程度に広げています。

7月1日のオープン以降、週末を中心に多くの客でにぎわっているということで、ビアガーデンでは夏本番に向けてさらなる集客に期待を寄せる一方で、東京都では新型コロナの新規感染者数が4日連続で1万人を超えており今後の感染状況を懸念せざるを得ないといいます。

ビアガーデンを運営する東京プリンスホテル料飲部門の海老原正寿支配人は「楽しみにしてくださる方も多くいらっしゃるので、感染対策を徹底してできる限り営業を続けたい」と話していました。

また、関西有数の観光地として知られる和歌山県白浜町では、新型コロナウイルスの感染拡大で夏の観光シーズンへの影響を心配する声が上がってます。

町内の老舗の温泉旅館では、現時点では7月と8月の宿泊予約はいずれも前の年を上回っているということで、通常の感染予防に加えて宿泊者が発熱した場合に備えて、隔離できる部屋を複数確保するなどの対策をとっています。

しかし、このまま感染拡大が続けば予約のキャンセルが増えかねないと懸念しています。

旅館のおかみ、沼田弘美さんは「緊急事態宣言が出たときのように大きな影響は出ていませんが、少しずつキャンセルの連絡は入ってきています。第7波は心配です」と話していました。

岸田首相「行動制限せず 社会経済回復を」

全国的な新型コロナの感染再拡大を受けて、7月15日、政府の対策本部が開かれ、岸田総理大臣は、現時点では新たな行動制限は行わず、最大限の警戒を続けながら社会経済活動の回復に向けた取り組みを進めていく方針を示しました。

対策本部では、全国的な感染の再拡大を受けて、夏休みの帰省で高齢者に会う場合などの事前の検査や、密閉された空間の効果的な換気の実施を求めることなどを盛り込んだ基本的対処方針の変更を決定しました。

岸田総理大臣は「医療体制を維持・強化しながら引き続き最大限の警戒を保ちつつ、社会経済活動の回復に向けた取り組みを段階的に進めていく。まずは強化された対応力を全面的に展開し、新たな行動制限は現時点では考えていない」と述べました。

後藤厚労相 「対象を拡大 4回目接種進める」

また、政府は現在、60歳以上の人などに行っている新型コロナワクチンの4回目接種の対象範囲を、医療従事者と高齢者施設のスタッフなどにも拡大する方針です。

これについて、後藤厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で「来週22日に開催予定の厚生科学審議会で議論し、了承されれば、速やかに必要な手続きを行い、新たな対象者に対する4回目接種を進めたい」と述べました。

なかなか診察受けられない…「助けて」「薬がほしい」

東京都内の7月15日の感染確認は、前の週より1万人以上増え、1万9059人となり、急激な感染拡大が続いています。

都内に住む50代の女性は感染が疑われたあとも医療機関を予約できず、新型コロナの陽性と診断されるまでに発熱から3日かかったといいます。

女性は、中学生の息子の陽性が確認された翌日の7月9日、自身も発熱したため市販の薬を飲んで寝たものの、明け方に苦しくなって目覚めると39度6分まで熱が上がっていたといいます。

朝を待って、都の発熱相談センターに電話して専門の機関に病院を複数紹介してもらったものの電話がつながらない状況が続き、家族も病院を探してくれましたが忙しくて診られないと断られ、次第に熱は40度を超え午後には意識がもうろうとしてきたということです。

翌日の11日も、発熱外来などに電話をかけましたが予約がいっぱいで診てもらえず、熱が出てから3日後の7月12日に、子どものかかりつけ医の紹介でようやく診察を受けられ陽性と診断されました。

女性は自身の症状について「熱がすごくてインフルエンザの一番つらいときが一気に来たような感じで、全身が痛くトイレにも行けないような状況で、自分が思っていたコロナのイメージと違いました。ワクチンも打っているのにこんなに症状が出るんだと不安な気持ちになりました」と話していました。

なかなか診察を受けられなかったことについて「『助けて』『薬が欲しい』と本当にそれだけでした。今の日本では相談センターもたくさんありすぐに病院を紹介してもらえて安心したのに、その先の病院にまったくつながらないので愕然としました。自分でなんとかしないといけないんだと思いました」と話していました。

“受診する患者” “ワクチン接種の希望” 急増

対応に追われる医療現場。

新型コロナの感染の急拡大を受けて千葉市稲毛区のクリニックでは、6月は新型コロナの感染確認が1日に2人から3人程度でしたが7月に入ってから急増しています。

7月15日は午前中、発熱外来を訪れた50人のうち、4割を超える22人の感染が確認されました。

クリニックによりますと比較的症状が軽い患者が多かった第6波と比べて、高熱や強いけん怠感を訴える患者が多くなっているということです。

また、4回目のワクチンの接種を希望する人も急増し、多い日には1日100人分の予約枠を設けていますが、すでに7月24日まで埋まっていて、新たな予約を受けにくくなっているということです。

「稲毛サティクリニック」の河内文雄医師は「逃げ出したいくらいの忙しさになっている。行動制限がない状況なので、マスクや手洗いなど改めて感染対策を徹底してほしい」と話していました。

コロナ専用病床8割埋まる ひっ迫した状態

東京都内の病院では救急の受け入れ要請が通常のおよそ2倍に増え、コロナ専用病床の8割が埋まるなど、ひっ迫した状態となっています。

東京 北区の東京北医療センターは新型コロナの専用病床を41床確保して、中等症を中心に患者を積極的に受け入れています。

6月中旬の時点で埋まっていた病床は、疑似症の患者も含めて10床程度でしたが、先週から急増し、7月14日時点では、すでに34床が埋まり病床の使用率は8割を超えています。

入院患者は高齢者や子ども、妊婦が多く、熱やせき、のどの痛みなどを訴える人が多いということです。ただ、酸素吸入が必要になるなど重症化するケースは、今のところ多くないということです。

また、救急の受け入れ要請も一日40件から50件程度と、今週に入ってから通常のおよそ2倍に急増していて、このうち半数程度がコロナの疑いのある患者や自宅療養者だということです。

都心部や多摩地域など遠方からの要請もありますが、病床が埋まりつつあるため、受け入れられるのは半数程度にとどまっているということです。

病院は今後、熱中症の患者が増加するとコロナとの見分けが難しいため、陰性が確認されるまでは、専用病床に入ってもらうことになるため病床の更なるひっ迫を懸念しています。

東京北医療センターの宮崎国久医師は「先週から入院が増えて、行政からの依頼や救急のコロナ患者の依頼を断らざるをえない状況になっています。7月、8月はもともと熱中症などで高齢者が体調不良を起こし、入院することが多く、ベッドが埋まる時期でもあり、さらに病床がひっ迫するのではないかと心配です」と話しています。

人口の多い首都圏や関西など 前週の2倍超

新型コロナウイルスの新規感染者数を1週間平均で比較すると、すべての都道府県で増え、人口の多い首都圏や関西など32の都府県で前の週の2倍を超えています。

NHKは各地の自治体で発表された感染者数をもとに、1週間平均での新規感染者数の傾向について前の週と比較してまとめました。

全国

▽6月16日までの1週間では前の週に比べて0.87倍と5週連続で減少していましたが、
▽6月23日は1.00倍
▽6月30日は1.23倍、
▽7月7日は1.78倍、
▽14日まででは2.13倍と増加のペースが上がり続けています。

1日当たりの平均の新規感染者数はおよそ6万6345人で、新規感染者数はすべての都道府県で増加し、人口の多い首都圏や関西などを含む32の都府県で前の週の2倍を超えています。

沖縄県

▽6月30日までの1週間は前の週の1.15倍、
▽7月7日は1.23倍、
▽14日まででは1.57倍と増加しています。
1日当たりの新規感染者数はおよそ2694人で、直近1週間の人口10万あたりの感染者数は1284.86人と、全国で最も多い状態が続き、これまでで最も多くなっています。

1都3県

【東京都】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.40倍、
▽7月7日は2.02倍、
▽14日まででは2.21倍と急速な増加が続いていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ1万1322人となっています。

【神奈川県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.29倍、
▽7月7日は2.00倍、
▽14日まででは2.24倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ4794人となっています。

【埼玉県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.21倍、
▽7月7日は1.93倍、
▽14日まででは2.32倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ3329人となっています。

【千葉県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.36倍、
▽7月7日は2.03倍、
▽14日まででは2.26倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ2810人となっています。

関西

【大阪府】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.44倍、
▽7月7日は1.92倍、
▽14日まででは2.24倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ6905人となっています。

【京都府】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.14倍、
▽7月7日は1.86倍、
▽14日まででは2.32倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ1407人となっています。

【兵庫県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.22倍、
▽7月7日は1.86倍、
▽14日まででは2.20倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ2857人となっています。

東海

【愛知県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.26倍、
▽7月7日は1.78倍、
▽14日まででは2.34倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ4180人となっています。

【岐阜県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.25倍、
▽7月7日は1.76倍、
▽14日まででは2.06倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ794人となっています。

【三重県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.33倍、
▽7月7日は1.74倍、
▽14日まででは2.11倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ741人となっています。

その他の地域

【北海道】
▽6月30日までの1週間は前の週の0.85倍、
▽7月7日は1.17倍、
▽14日まででは1.56倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ1018人となっています。

【宮城県】
▽6月30日までの1週間は前の週の0.86倍、
▽7月7日は1.58倍、
▽14日まででは1.89倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ566人となっています。

【広島県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.05倍、
▽7月7日は1.33倍、
▽14日まででは1.77倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ814人となっています。

【福岡県】
▽6月30日までの1週間は前の週の1.31倍、
▽7月7日は1.92倍、
▽14日まででは2.24倍となっていて、
1日当たりの新規感染者数はおよそ3803人となっています。

このほか、
▽岩手県は14日までの1週間は前の週の2.78倍、
▽秋田県は3.64倍、
▽福島県は2.26倍、
▽栃木県は2.45倍、
▽群馬県は2.52倍、
▽新潟県は2.34倍、
▽山梨県は2.27倍、
▽長野県は2.49倍、
▽富山県は2.04倍、
▽石川県は2.18倍、
▽福井県は2.21倍、
▽静岡県は2.72倍、
▽滋賀県は2.34倍、
▽奈良県は2.75倍、
▽和歌山県は2.11倍、
▽鳥取県は2.05倍、
▽岡山県は2.04倍、
▽徳島県は2.16倍、
▽香川県は2.30倍、
▽大分県は2.21倍、
▽宮崎県は2.20倍と、
2倍を超える急速な増加となっています。

専門家「爆発的な増加が進行」

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、東邦大学の舘田一博教授は現在の感染状況について「感染者数の爆発的な増加が進行している状況だ。7月14日の段階で全国の感染者数はおよそ9万7000人で、2月の初めの第6波のピークの10万人と同じくらいになっている。この調子で増加すると、来週にも大きく超えるリスクが高まっている」と述べました。

この感染拡大の背景にある感染力が強いとされるオミクロン株の「BA.5」については「短時間で広がるリスクが見えてきている。重症化のしやすさははっきりとわかっていないが、感染者数が爆発的に増加すると重症者が増えてくるため、注意深く見ないといけない。一人ひとりが感染対策をしても感染者数を下げることができず増え続けることになれば、まん延防止等重点措置などを考えていかないといけない」と指摘しました。

その上で「3連休や夏休み、お盆の帰省などで人の接触の機会も増え、感染を増加させる要因になる。人と会うときに距離が近かったり、大声を出したりすることで感染が広がるので、一人ひとりがリスクをしっかり考えて行動することが重要だ。換気にも注意し、3回目のワクチン接種を受けていない人や、4回目を受けられる人は接種を受け、少しでも体調が悪いと思ったら早めに検査を受けてほしい。体調が悪ければ旅行を控え人との接触を避けることも大事になる」と話しています。