コロナ感染者
急速減少の理由 専門家の見解は…

2021年10月6日

新型コロナウイルスの感染は、この夏の「第5波」では8月中旬に全国の1日の感染者数が2万5000人を上回るなど、過去にない規模となりましたが、8月下旬以降、一転して急速に減少しました。10月4日には東京都でおよそ11か月ぶりに1日の感染者が100人を下回り、全国でも、10月5日まで3日連続で1000人を下回って、ピーク時の25分の1以下となっています。

急速に減少したのはなぜか。
9月28日、緊急事態宣言の解除が決まった際の記者会見で、政府分科会の尾身茂会長は、
▽連休やお盆休みなど、感染拡大につながる要素が集中する時期が過ぎ、拡大の要素がなくなったこと、
▽医療が危機的な状態となったことが広く伝わって、危機感が共有されたこと、
▽感染が広がりやすい夜間の繁華街の人出が減少したこと、
▽ワクチンの接種が進み、高齢者だけでなく若い世代でも感染が減少したこと、
▽気温や雨など、天候の影響があったことを挙げています。

【感染拡大要素がなくなった】

7月下旬から8月にかけての夏休みや連休、お盆休みといった人の移動が活発になる要素が集中する時期が過ぎ、要素がなくなったことが減少の背景にあると考えられています。

【医療危機伝わり感染対策】

感染しても医療機関で受け入れられなくなって、自宅での待機を迫られたり、自宅で亡くなる人が出たりするなど、医療が危機的な状況に陥ったことが広く報道されたことで、危機感が高まり、一般の人たちがさらに感染対策に協力するようになったと分析されています。

【夜間の人出減少】

感染が拡大しやすい繁華街での夜間の人出が、たとえば東京都では、8月中旬ごろから9月下旬の1か月余りにわたって4回目の緊急事態宣言が出される前の7月上旬に比べて25%から40%ほど減少した状態が続きました。
さらにこのうち、年代ごとのワクチン接種率から試算すると、ワクチンを接種していない人で夜間に繁華街にいた人は、7月上旬に比べて70%程度減少したとみられるとしていて、2020年春の1回目の緊急事態宣言のときと同じ程度の水準まで大きく減った可能性があるとしています。

【ワクチン接種の効果】

2回のワクチンの接種を終えた人は、政府のデータで8月上旬の段階では全人口の30%ほど、高齢者では80%ほどでしたが、9月中旬には全人口の50%を超え、高齢者では90%近くになっています。

また、東京都のデータによりますと、2回の接種を完了した人は、8月10日の時点で50代が18.7%、40代が11.4%などと低い状態でしたが、9月1日には50代が44.1%、40代が31.8%に、緊急事態宣言の期限だった9月30日の時点では50代が69.4%、40代が58.9%などと上昇し、30代で49.1%、20代で43.7%、12歳から19歳で34.9%などと若い世代でも高くなってきています。

とくに高齢者では接種が先に進んだため、これまでの感染拡大では多かった医療機関や高齢者施設での高齢者の感染が大幅に減ったとみられています。

【天候の影響】

気温や雨などの影響を受けた可能性も指摘されています。
尾身会長は「科学的な根拠はまだない」としながら、気温が下がって屋外での活動がしやすくなり、感染が起きやすい狭い空間での接触の機会が減った可能性があると指摘しています。

どの要因がどの程度、感染の減少に寄与したか、判断するのは難しく、さらに検証を進めるとしています。

感染減少 専門家の見解は…

“ワクチン+季節的な要因も”

感染が急激に減少した要因について、厚生労働省の専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授は「ワクチンを多くの人が接種したことや、さらに涼しくなって冷房の効いた室内での活動が減って人と人との距離が確保されやすくなったという季節的な要因も考えられると思う。ただ、複数の要因がそれぞれどの程度感染減少に貢献しているか、数値として示すことはなかなか難しいと考えている」と話しています。

そして、今後の感染の見通しについては「これから冬にかけて気温が大きく下がってくると、感染が再び広がる可能性がある。そのときは、ワクチンや感染によって免疫を獲得している人の割合が比較的少ない10代後半から20代の若い世代が感染の中心になり、そこからワクチンを接種していない中高年層に感染が広がり、重症化してしまうという流れが懸念される。ワクチン接種から時間がたち抗体の値が下がった高齢者でも感染が多く見られるようになるおそれもある」と述べました。

そのうえで、必要な対策について「冬に向けワクチンの接種率が高ければ高いほど医療のひっ迫を避けることができる。接種をしていない人はなるべく10月中に接種をしてほしい。一方で、ワクチン接種が進んだことで感染者数がある程度まで増加しても、これまでのように医療がひっ迫しないということもあり得る。新型コロナウイルスをどう捉えどこまで対策をしていくのかという議論も必要になってくる」と指摘しました。

“集団の中で免疫を獲得している人の割合増”

感染が急激に減少したことについて、感染症に詳しい長崎大学熱帯医学研究所の山本太郎教授は「自治体から毎日公表される感染者数が、実態と比べてどの程度妥当なのかということの検証がないと、減少要因についても正しく評価ができないと考えている」と述べました。

その一方で「ワクチン接種の広がりや、感染を経験した人が増加したことによって、集団の中で免疫を獲得している人の割合が増えてきていることは確かだと思う。これからコロナが日常的にあっても人的、社会的、経済的に許容できるレベルに抑えられる社会を目指すのだとすると、どこが許容できるレベルなのか議論することが必要だ。感染者の数を指標として流行状況を評価するのではなく、重症者や亡くなる人の数の推移といった指標に重点が移っていくフェーズに入りつつあると考えている」と指摘しました。

さらに今後求められる対策について「コロナゼロを目指して徹底的な制限や対策を続ける中で、ウイルスが変異し感染力などが変化すると、私たちは今よりもっと難しい状況に追いやられる可能性もある。大きな視点で『コロナウイルスとの共生』を考えていく必要があるが、個人の視点では自分や家族がウイルスに感染して重症化したり亡くなったりするリスクが残ることになる。セーフティーネットとして感染しても少なくとも亡くなることのない治療方法や医療体制を構築していくことが必要だ」と話しています。

“冬に向けて準備が必要”

感染が急激に減少した要因について、厚生労働省の専門家会合のメンバーで京都大学の西浦博教授は「減少要因については現在、分析している途中で結果が出そろったところで説明ができればと思っている」とコメントしています。

そのうえで「1つ言えることは、連休などがあると1人から何人に感染させるかを示す指標の『実効再生産数』が上昇する傾向が見て取れ、緊急事態宣言の間でも上昇していた。ふだん会わない第3者と会う、遠出をして飲食するというような一人一人の接触行動が2次感染に寄与することは間違いないと考えている。今後、ワクチン接種が進んだとしても無秩序に接触が起これば必ず流行が起こると思う。冬に向けて準備が必要だ」と指摘しました。

“若者で増えて若者で減った”

感染が急激に減少した要因について、厚生労働省の専門家会合の座長で国立感染症研究所の脇田隆字所長は「夜間の繁華街での人出の減少やワクチン接種が進んでいることが要因として分析されているが、それだけではこの減少の速度は説明できない部分がある。今回の感染拡大では、若い世代の間で増えた感染が、ワクチンの効果などで高齢者に移行せず、『若者で増えて若者で減った』という動きになった。これまでの感染拡大の波でも若者の感染者数は急増して急減する傾向で、高齢者に移行しなかったことでそうした動きが全体の感染状況として現れているという可能性もある。複数ある要素がそれぞれどの程度感染減少に関わっているのか十分に解明できていないので、引き続き分析したい」と述べました。

さらに、他の要因として「これまでの感染拡大では、減少局面に転じても都心の繁華街で感染者が残ってしまうということがあったが、今回はワクチン接種の影響か、繁華街でもクラスターの数が減少している状況だ。また、高齢者施設で発生するクラスターの数も減り、ブレイクスルー感染が起きてもクラスターの規模が小さくなっているという報告もある」と説明しています。

一方でウイルスが変化しているかについては、「新型コロナウイルスのゲノムを随時分析しているが、感染が急増していたときと急速な減少が見られる現在のデータを比べてウイルス自体に大きな変化があるわけではない。ウイルス自体が弱毒化しているということは現時点ではないのではないかと考えている」と述べました。

そのうえで、今後求められる対策について「一部の地域では、ワクチンがなかなか届きにくい外国人の感染が目立ってきている。接種が行き届きにくいコミュニティーや地域など公衆衛生的にぜい弱な立場の人たちにワクチンを届ける対策を進めることが非常に重要だ」と話しています。