「抗体カクテル療法」
国は自宅投与に慎重な姿勢示す

2021年8月22日

政府は、新型コロナウイルスの軽症患者などに使用できる「抗体カクテル療法」について全国的に展開する方針で、東京都や福岡県では宿泊療養施設での投与も始まっています。自宅での投与も認めるべきだという声も出ていますが、海外ではアナフィラキシーなどの症状も報告されていることから、国は引き続き慎重な姿勢を示しています。

抗体カクテル療法は、新型コロナウイルスの軽症から中等症の患者を対象に7月、国内で承認されました。

政府は、緊急事態宣言の対象地域などを中心に医療機関への配布を進めるなど積極的に活用する方針です。

当初は、入院している人が対象でしたが、入院できない人が相次いでいることを受けて、8月中旬からは宿泊療養施設や、臨時の医療施設での投与も条件付きで認められました。

一方、開発したアメリカの製薬会社によりますと投与を受けた人で、発熱や頭痛のほか、アナフィラキシーや呼吸困難、酸素飽和度の低下など副作用の疑いがある症状が報告されています。

臨床データが限られているため、別の症状が現れる可能性も否定できないということです。

在宅医などからは、自宅での投与を認めるべきだという声も出ていますが、厚生労働省は医師などが経過を観察する必要があるとして引き続き慎重な姿勢を示しています。

専門家 “慎重に見極めたうえで、広く使える仕組みに”

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会のメンバーで、中外製薬が薬の効果や副作用のリスクなどを紹介するために作成した冊子の監修にも携わっている東邦大学の舘田一博教授は「国内で抗体カクテル療法が使用できるようになったことは大事な一歩だ。どう効果的に使っていくかが非常に重要になってくる」と話しています。

一方で、「日本人特有の副作用が出ないかどうかは慎重に見極めなければならない。最初に数百例や数千例といった規模で注意深く確認したうえで広く使っていける仕組みに変えていくことが求められるのではないか」と指摘しています。

海外では呼吸困難などの報告も

抗体カクテル療法を開発したアメリカの製薬会社「リジェネロン」によりますと、海外で行われた治験では入院や死亡のリスクをおよそ70%減らすことが確認されたということです。

一方、治験で投与を受けた4206人のうち、0.2%にあたる10人に発熱や呼吸困難、酸素飽和度低下、悪寒、不整脈、胸痛、脱力、頭痛、じんましんなどの症状が見られたということです。

投与された人ではアナフィラキシーと呼ばれる重いアレルギー反応も報告されています。

このうち少なくとも1件は、症状を緩和する薬剤の投与などが必要だったということです。

これらの症状が、副作用か、新型コロナウイルスによる症状かは不明で、いずれも容体は回復したということですが製薬会社は、投与が終わってから少なくとも1時間は状態を観察するよう求めています。

また、こうした症状は投与を受けて24時間以内に報告されていることから、その間の健康観察を十分にできる体制を確保するよう厚生労働省が求めています。

一方、変異ウイルスへの効果について、厚生労働省が作成した診療の手引では、有効性が期待できない可能性があるとして、最新の情報を踏まえて投与するのが適切かを検討することとしています。

国の使用方針は

抗体カクテル療法では、2種類の抗体を混ぜ合わせて投与することで、新型コロナウイルスの働きを抑えます。

2020年11月にアメリカのFDA=食品医薬品局から緊急使用の許可を受け、アメリカのトランプ前大統領の治療にも使われました。

日本では、関係企業とライセンス契約を結んだ中外製薬が承認申請を行い、厚生労働省が7月19日に承認しています。

対象となるのは、軽症から中等症の患者のうち、65歳以上の高齢者や、基礎疾患などの重症化リスクがある人で、国内では軽症の患者に使用できる初めての治療薬です。

一方、海外の治験では、投与から24時間以内に呼吸困難などを起こす人が報告され、厚生労働省は医師による観察が必要だとして、当初、入院患者に限って使用を認めていました。

しかし、感染の急拡大で、入院できない患者が増えたことから、国は8月13日、十分に観察できる体制が整っていることを条件に、宿泊療養施設や、臨時の医療施設として設置された「入院待機ステーション」などで投与することを認めました。

厚生労働省によりますと、すでに東京都や福岡県などでは、一部の宿泊療養施設で投与を始めています。

また、大阪府では、短期入院できる医療機関を設置して患者に投与し、容体が安定していることを確認したうえで宿泊施設に搬送する取り組みを8月20日から始めたということです。

供給方法も変わってきています。

国は当初、世界的な需要の高まりで供給量が限られているとして、国ですべて買い上げたうえで、医療機関が申請した患者の分だけを供給していました。

しかし、発症から8日目以降に投与を開始した場合の有効性を裏付けるデータがなく速やかな投与が必要なため、現在は緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が出ている地域を中心に事前の提供も行っています。

政府は十分な量を確保していると説明していますが、具体的な量や契約の内容は明らかにしていません。