“災害時の状況に近い
医療ひっ迫”
新型コロナ 専門家会合

2021年8月11日

新型コロナウイルスの感染の急拡大で、都内では入院患者が3500人を超えて最多となり、自宅で療養する人も1万7000人を超えています。こうした中、都内で受け入れ先が見つからない患者が埼玉県の病院に搬送されるケースもみられています。

都内の女性 6時間 病院見つからず 埼玉に

埼玉県川越市にある埼玉医科大学総合医療センターには今週、都内に住む40代の女性の受け入れ要請がありました。

病院によりますと、女性は5日間自宅で療養していましたが、血液中の酸素の値が下がったため保健所が入院調整を行ったということです。

しかし受け入れ先はなく、その後も救急隊員が入院先を探しましたが断られ続け、救急車の車内にとどまるなど6時間余り病院は見つからなかったということです。

そして東京都と埼玉県が調整し、都心から50キロほど離れたこの病院に搬送されたということです。

この病院では連日のように入院要請があり、先週から重症用の病床6床がほとんど埋まるなど病床は常時ひっ迫していますが、8月9日は患者の退院が続いたため一時的にベッドに空きがあり、受け入れができたということです。

この患者は入院時すでに酸素の投与が必要な「中等症2」と呼ばれる状態でした。

第5波では、基礎疾患がなく大きな病気にかかったこともない40代や50代の世代が「中等症2」の状態になるケースが相次ぎ、その中から人工呼吸器を装着しなければならない「重症」にまで悪化する患者もみられるということです。

医師「搬送先なければ 命を失ってもおかしくない」

感染症科の岡秀昭医師は「第5波では中等症2から重症に急激に悪化することがあり、今回のように搬送先が見つからなければ命を失ってもおかしくない。適切な治療を行えば助けられるものがその治療にたどり着けず、残念ながら命が失われてしまう状況になってくると思う」と危機感を訴えています。

厚労省「各地域での病床確保が基本 慎重に検討を」

患者を別の地域に運ぶ「広域搬送」は医療機関どうしの細かい調整が必要なため、それぞれの所在地の都道府県が合意して行われます。

2021年4月には、新型コロナウイルスの感染拡大で大阪府の医療体制がひっ迫したことを受け、滋賀県が患者を受け入れました。

一方、厚生労働省は、患者を移送すると体への負担となり、人工呼吸器が必要な重症患者などは容体が急変するおそれもあるとして、あくまで個別に判断してほしいとしています。

特に、緊急事態宣言の対象地域から別の対象地域へと搬送したり、入院している人の数が都道府県が確保している病床の数を超えていない場合は、感染状況を踏まえて慎重に検討するよう求めています。

厚生労働省は広域搬送について「感染は全国的に広がっているため、どこかの自治体が一度に多くの患者を受け入れるのは現実的に難しい」として限定的な取り組みにとどまるという見解を示したうえで「否定はしないが、住民や医療機関の理解を得て行ってほしい」としています。

そのうえで、都道府県がそれぞれの地域で病床を確保することが基本だとして、医療体制がひっ迫した地域に対し医師や看護師の派遣といった支援を続ける考えを示しています。

専門家「地域の感染抑えるため家にいて」

厚生労働省の専門家会合のメンバーで国際医療福祉大学の和田耕治教授は「感染急増のブレーキがかかっておらず感染拡大が止まらない状況にある。全国的に感染が拡大し各地の医療がひっ迫しつつある状況では、それぞれ自分の地域のことで精いっぱいで県をこえた患者の搬送も難しくなってきている。感染拡大が収まらないかぎり、医療機関の広域連携だけでは有効な対策とはならないのではないか」と指摘しました。

また、医療ひっ迫の状況について「都内を中心に患者を受け入れたくても受け入れられない病院が増えてきていて、無力感を感じている医療従事者も出てきている。事故や熱中症、心筋梗塞などに自分や家族がみまわれた時に救急車を呼んでも病院に行くまでに数時間かかるような事態が現実に起き始めている。がんなど慢性の病気でも予定していた治療が受けられなくなる可能性もある。自分や周りの人を守るという意味でも感染の拡大を防ぐ行動をしてほしい」と呼びかけました。

そのうえで和田教授は、「この段階になれば、少しでもほかの人との接触機会を減らすため、なるべく家にいてもらうということを求めなくてはならなくなっている。いまはお盆期間中だが、休みがあけて仕事が始まれば職場などでの接触が増えてさらに感染が広がる可能性もある。いまは人と極力あわないようにして地域の感染を抑えるために家にいてもらうことが重要だ」と訴えました。

新規感染者数・前週比 全国で1.33倍

8月11日、行われた厚生労働省の専門家会合で示された資料によりますと新規感染者数は8月10日までの1週間では前の週と比べて、
▼全国では1.33倍と感染の拡大が続いていて、
緊急事態宣言が出されている地域では、
▼東京都で1.19倍、
▼埼玉県で1.39倍、
▼神奈川県で1.36倍、
▼千葉県で1.33倍、
▼大阪府で1.25倍、
▼沖縄県で1.38倍と
各地で感染者数が過去最多になっている中でさらに拡大が続いています。

また、まん延防止等重点措置が適用されている地域では、
▼北海道で1.34倍、
▼茨城県で1.32倍、
▼栃木県で1.12倍、
▼群馬県で1.38倍、
▼静岡県で1.65倍、
▼愛知県で1.48倍、
▼滋賀県で1.75倍、
▼京都府で1.54倍、
▼兵庫県で1.37倍、
▼福岡県で1.58倍と
▼熊本県で1.54倍と拡大が続いている一方で、
▼福島県で0.99倍と横ばいに、
▼石川県では0.80倍と減少に転じています。

人口10万人あたりの感染者数(直近1週間)

現在の感染状況を人口10万人あたりの直近1週間の感染者数で見ると、
▼沖縄県が247.83人、
▼東京都が200.06人で初めて200人を超えるなど
これまでに国内のどの地域でも経験したことのない規模の感染拡大になっているほか、
▼神奈川県が140.27人、
▼埼玉県が119.66人、
▼千葉県が107.27人などとなっていて、
▼全国でも77.60人と感染状況が最も深刻な「ステージ4」の目安の25人を超えているのは31の都道府県にのぼります。

また、感染力の強い変異ウイルス、「デルタ株」は、首都圏ではほぼ置き換わり、関西でもすでに感染全体の80%以上を占めるに至ったと推定されています。

デルタ株 首都圏で95% 関西でも80%

感染力が強い変異した新型コロナウイルス「デルタ株」は、首都圏ではすでに感染全体の95%とほぼ置き換わっていて、関西でも80%以上を占めているとする推定の結果を国立感染症研究所がまとめました。

国立感染症研究所が民間の検査会社7社の「変異株スクリーニング検査」のデータを元にデルタ株でみられる「L452R」の変異が含まれたウイルスがどれくらいの割合を占めているか推定した結果を8月11日、厚生労働省の専門家会合で示しました。

それによりますと、東京都ではデルタ株などがすでに95%、神奈川県、埼玉県、千葉県を含めた首都圏の1都3県でも95%とほぼ置き換わっています。

また、大阪府、京都府、兵庫県の関西の2府1県では、7月上旬までは少ない状態でしたが、急速に広がってすでに84%となっていて8月下旬には関西でもほぼすべてがデルタ株に置き換わるとしています。

さらに、沖縄県ですでに96%、福岡県で94%、愛知県でも82%と各地で置き換わりが急速に進んでいて、デルタ株の感染の拡大とともに、入院患者が急増し、医療のひっ迫につながっていると指摘されています。

“もはや災害時の状況に近い局面” 厚労省 専門家会合

新型コロナウイルスの感染者数が1週間以上連続して全国で1万人を超えるなど急激な感染拡大が続く中、対策について助言する厚生労働省の専門家会合が開かれました。

現在の状況について「もはや災害時の状況に近い局面を迎えている」として医療のひっ迫で多くの命が救えなくなるという強い危機感を示したうえで、お盆などの帰省は延期し、すでにワクチンを接種した人を含めてマスクなどの基本的な感染対策を徹底する必要性を強調しました。

8月11日開かれた専門家会合では、全国の感染状況について「全国のほぼすべての地域で新規感染者数が急速に増加し、これまでに経験したことのない感染拡大となっている」と分析しました。

その上でこれまで低く抑えられていた重症者数が急速に増加し、入院調整中の人の数も急速に増加するなど、首都圏を中心に公衆衛生や医療の体制が非常に厳しく「もはや災害時の状況に近い局面を迎えている」と強い危機感を示しました。

地域別に見ると、東京都では過去最大規模の感染拡大で入院患者、重症者ともに過去最多の水準となり、自宅療養の患者も急激に増加しているほか、新たな入院の受け入れ、救急搬送が困難なケースや、一般医療を制限する事態も起きているとしています。

首都圏 当面は感染拡大続く 沖縄県 病床使用率 厳しい状況

また、埼玉県、千葉県、神奈川県でも重症病床の使用率が増加していて東京では夜間の人出の減少も前回の緊急事態宣言時の水準には届かず、20代や30代だけでなく、重症化するリスクの高い40代や50代の割合も高くなっていて、首都圏では当面は感染拡大が続くと指摘しています。

沖縄県は人口あたりの感染者数が全国で最も高く、過去に例のない水準となっていて入院患者数が急速に増加し、病床使用率が厳しい状況となっている一方、夜間の人出は減少に転じているとしています。

大阪府 急速な感染拡大続く

大阪府でも、急速な感染拡大が続き、入院者数や重症者数も増加していて、夜間の人出は減少に転じたものの依然多いため、感染拡大が続くことが予測されるとしています。

専門家会合は、感染力が強い変異ウイルス、デルタ株への置き換わりが進む中、緊急事態宣言などによる人出の減少は限定的で、これまでに経験したことのない感染拡大の局面を迎えているとしたうえで、医療体制の拡充も限界があるため重症者数の急速な増加で「多くの命が救えなくなるような危機的な状況さえ危惧される」と、これまでにない表現で強い危機感を示し、一刻も早く感染拡大を抑えることが必要だと訴えました。

その上で、専門家会合は必要な対策として▼お盆や夏休みにも県境を越える移動や外出を控え、帰省は延期を検討するよう求めました。

また、感染が飲食の場面だけでなく、商業施設や職場、学校などでも急速に広がっているとして、▼ワクチンを接種した人も含めてマスクの着用や消毒、人との距離の確保や換気などの基本的な対策を徹底すること、それに▼職場での会議は原則オンラインで行うことやテレワークの推進、症状のある人の出社自粛の徹底などを求めています。

さらに、最近承認された重症化を防ぐ効果が期待される抗体医薬の活用や、重症化に迅速に対応できる体制を早急に整備して、必要な医療を確保する必要性を指摘しました。

田村厚労相「全国的に感染拡大 東京は厳しい」

田村厚生労働大臣は、専門家会合の冒頭「新規感染者が常態的に1万人を超し、全国的に感染が拡大している。中でも東京は厳しい状況が続いているが、東京の状況に近づいている都道府県が続々と増えている」と指摘しました。

その上で「クラスターが起こっている状況を勘案すると、今まで感染しなかった環境でも感染するほど、デルタ株の感染力は強い。お盆に県境を越える移動や、いつも会わない人と集まっての会食などは避けてほしい」と述べました。

一方、田村大臣は「2回目のワクチン接種をした人も3分の1を超えたが、『40代や50代の接種が進むまでの間、今後2週間くらいは行動抑制をしてほしい』という専門家の評価になると思う。ワクチンの接種が国民全般に広がった後に、どのような行動に留意すべきか評価してほしい」と述べました。

脇田隆字座長「40代50代人流多い リスク避ける行動を」

厚生労働省の専門会合のあと脇田隆字座長が会見し、医療体制の現状について「非常に厳しい感染状況が続き、今後、新型コロナの医療と一般医療の両立ができるのか、両立が難しい場合にどちらを優先すべきかといったこれまでは出たことのない議論があった。当然、できる限り一般の医療も犠牲にせずにコロナの医療も進めていく体制を作らなければならないが、そのためには感染者をできるだけ減らす必要がある。すでに一部では、救急医療にアクセスできない危機的な状況にあり、『災害医療に匹敵する状況ではないか』と表現するメンバーも複数いた。専門家の危機感を一般の方々と共有できていない現状がある思う」と話していました。

その上で、「東京都内の夜間の滞留人口のデータ分析によると若い世代だけでなく、比較的、重症化のリスクが高い40代や50代の人流が多くなっている。新型コロナウイルスはインフルエンザとは違って感染した人の数%が死亡するような感染症で、致死率が低い病気ではない。自分や大切な家族を守るために感染リスクを避ける行動をとってほしい」と呼びかけました。