【記者解説】
感染者急増ですぐに医療を受けられない状況も

2021年7月30日

1.感染の急拡大 これまでとは何が違うのか

【科学文化部 水野雄太記者】

感染の急拡大について、最も異なるのは、緊急事態宣言が出ているのに、感染拡大に歯止めがかからず、拡大のペースがむしろ上がっていることです。

感染力が従来のウイルスのおよそ2倍とされる、変異ウイルス「デルタ株」は、たとえば東京など首都圏では、すでに70%以上を占めると推定されています。

デルタ株が主流になってきているのに、夜間の繁華街の人出の減少は、東京では20%程度にとどまっていて、その結果、拡大のペースが上がっています。

4連休があり、夏休みで、さらにオリンピックも開催され、人出自体もこれまでのような減少が見込めない状況です。

こうした中で、感染の場として目立ってきているのが、職場。
そして、家族以外のふだん会わない人と大人数で会う中で感染したケースです。

政府分科会の尾身会長も「飲食を介している場合でもそうでない場合でも、ふだん会わない人との大人数での接触で感染が拡大していることは間違いない。そういう接触の機会をなるべく避けてほしい」と話しています。

2.医療現場の状況、これもこれまでとは違うのか

これまでと異なるのは、病床が中等症・軽症用から先に埋まっていることです。

一般の医療が制限されるケースも出てきていて、これは、たとえばけがをしたり、急病になったとしても、すぐには医療が受けられなくなるような状況が近づいているということなんです。

また、誤解があるのは、中等症といっても、肺炎は起きていて普通に息はできず、酸素吸入が必要なこともあるレベルです。患者にとってはとても苦しく、重症化して、意識を失うこともあります。
ワクチンの効果で、高齢者の重症者が少ないのは事実ですが、絶対に間違えてはいけないのが「感染者数が大きく増え続ければ、確保している病床を超える重症者が必ず出てしまう」ということです。

実際に、全体の重症者数も増えています。
全国の重症者は7月29日まで539人でしたが、7月30日は626人。一気に増えました。

専門家は次のように話しています。
「今まで少ない患者に集中した医療ができていたのが、いままでのように十分な医療ができにくくなってくる状況が出てくる。それが死亡率、死者数の増加につながってくる。そういうリスクも考えて置かなければいけないと思う」

3.新型コロナに感染した場合の治療法の状況は

この1年半、治療法や対処法が医療現場でも浸透して、かなり症状をコントロールできるようになってきました。

その中で、このほど承認されたのが、軽症の人を対象にした初めての治療法、「抗体カクテル療法」の薬です。

海外で行われた臨床試験では、重症化し、入院や死亡のリスクをおよそ70%減らすことが示されました。

点滴で1回投与することになっていて、医療機関で受ける治療です。

症状が出てから速やかに投与することが必要ですが、自宅療養者や入院できずに待機している患者が急増し始めている今の状況で、すぐに受けられるか、必ずしも保障されないような状態になっています。

医療のひっ迫をできるかぎり早く解消する必要があります。

4.感染や重症化などを防ぐためのワクチン

人口全体でみると2回の接種を受けたのはまだ20%程度で、社会全体として、重症化や感染そのものを防ぐレベルには至っていません。

その中でワクチンの供給がニーズに追いついていない状況は、各地で続いています。

たとえば今週月曜日には、自衛隊が設けている東京と大阪の大規模接種会場の予約6万人分が30分で埋まりました。

接種が進んでいない世代で重症者が増えていることなどを受けて、アストラゼネカのワクチンも公的接種の対象になりました。

このワクチンはイギリスなどで、接種した人に、ごくまれに若い年代で血栓が起きるという問題が報告されていますが、デルタ株にも一定の有効性が示されていて、ワクチン接種で発症や重症化を防ぐメリットが、副反応のリスクを上回るため、接種する利益はあると考えられています。

5.対策に実効性をもたせるために、何が必要か、専門家は

とにかく、危機感の共有です。

7月30日午後、菅総理と会談したあと尾身会長は、「いままでと違うレベルの危機に直面していることを総理に伝えた」と非常に厳しい表情で語りました。

医療現場や専門家からは「救える命が救えなくなる状況がすぐそこにある」と強い危機感が示されています。

長期に及ぶコロナ対策への疲れもある中で、こうした危機感を持って、政府や自治体が対策への協力を呼びかけることが必要だと強調しています。